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インフェリア・スターズ!  作者: 成希奎寧
ハルカの名
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ハルカの名①

 決して幸先の良いスタートを切ったとは言えない、入学式の次の日。治癒促進薬のおかげなのか、身体中に負った火傷は一晩でほとんど治っていた。

 

 後で聞いた話だが、広場に残っていた新入生たちは、大講堂で入学式に参加した後、すぐに学生寮で拠点の整備を行ったようだ。オレも少し遅れて事前に送っていた荷物を紐解き、殺風景ながらも自分の使いやすい物の配置になった部屋を完成させた。


 学生寮は、学舎がある中央都市部から少し離れた都市街区にあり、オレの拠点は第三街区に配置されている。学生たちは毎朝、中央都市部に向かう通学路を通う事になる。

 寮はアパートのような二階建ての建物だった。一人に一部屋が与えられ、充実した共同スペースも揃っている。。男女は建物単位で区分されているようだが、その内装に大きな違いはないという。

 個室も快適な広さがあり、トイレ、浴槽、洗面台の三点ユニットバスも個別に完備。思い描いたような一人暮らしが送れそうだ。


「……よし」


 若干焦げ臭さが残っているが、傷らしい傷が見当たらない頑丈な制服に袖を通す。朝の準備をしっかりと整え、オレは自室から外に出た。




 画面越しの朝日が差し込む、通学路を行く。空を見上げると、自ずと向かう場所が分かった――超高層で荘厳な建物が立ち並ぶ区域が、目的地で間違い無いだろう。


 通学感を味わう為に、敢えて移動床に乗らずに徒歩で歩く。同じ第三街区に暮らす学生たちのほとんどは移動床に乗っていたが、無理に合わせる必要も無いと思った。


「しかし……中央都市部って、こう見ると無茶苦茶デカいなあ」


「ホントですねぇ。高さも相当ですが、広さもかなりあると思いますよ」


 ――横にどどーん、と。広げられた細腕が、少しだけ視界を遮った。


「おわっ!?」


 突然真横から聞こえた声に飛び退く。慌てて目を向けると、眩い朝日に金髪を煌めかせた里桜がそこに立っていた。


「おはようございます、ハルカさん!」


「あ、うん。おはよう、里桜」


 快活に笑う里桜は、腰に昨日の二刀を差していた。顔や太ももなどに、やや赤くなっている部分が見受けられる。同じように浴びた熱を知る者として、痛々しさを感じた。


「身体、大丈夫?」


「あー、お気遣いありがとうございます。火傷は平気なんですが、なんかこう……身体の節々が痛むんですよねぇ……」 


「ああ……あの電気をまとった動きで、相当身体動かしてたもんね。筋肉痛かな?」


「……これが、筋肉痛ですか……生まれて初めてなりましたよ……」


 ぴきぴきと背筋から音を鳴らしながら、里桜は感慨深げに語る。


「筋肉痛が生まれて初めてって言うのも、なかなか珍しい話だよね……」


「体育の授業では動いてた方だと思いますけど、特に痛みとかは感じた事ないですねぇ」


「ふむ……里桜は運動神経が良いんだ?」


 金髪を舞わせながら軽快に飛び跳ね、地面を駆け抜けていた姿を思い出しながら問う。


「いやぁ、たぶん真逆ですね。例えば体力測定ですが、ソフトボール投げは片手で出来なくて記録無しでしたし、上体起こしも二回ですからね、アタシ」


「えっ……三〇秒で?」


「三〇秒で、ですね!」


 なかなかに悲惨な成績だ。それを笑いながら話すのは、里桜らしいと言えばそうなのだろうけれど。


「なるほど……筋肉が付きにくい体質と、何か関係があるのかなあ?」


「単純に中学時代のアタシがインドア派だったって理由の方が大きいですかね! 苦手ではないですけど、動くのは好きじゃなかったですし! 筋トレは死ぬ程嫌いです!!」


 ――やっぱりそうでもないらしい。単純に、鍛錬から逃げて来ただけのようだ。


「ハルカさんの中学生時代ってどんな感じだったんですか?」


「……オレの?」


「はい! アタシばっかり恥ずかしい話をするの、不公平ですよ!」


 聞いていても特に恥ずかしい話だとは思わなかったが、そう言うモノらしい。女の子との会話は、何度経験しても価値観のズレを感じてしまう。


「ねぇ、ねぇ! どんな思い出があるんですか?」


 問われて、固く閉ざした記憶の扉に手を掛ける。無意識の鎖で、がんじがらめに縛り付けた鋼鉄の門。それが開かれる事を、オレの本能が拒んでいた。


 ――一度思い出してしまえば、無くなってしまいそうな気がして。


「……すみません……あんまり、良い思い出がなかったとか……?」


 オレを気遣った里桜が顔を覗き込む。少しだけ腰を屈めたその仕草が女の子らしさとかわいらしさを強調して、胸を高鳴らせた。


「い、いやっ…………そんな事はないんだ、うん」


「そ、そうですか……?」


 ホッと胸を撫で下ろした里桜に微笑む。過去がどうであれ、今、こうして隣に居る彼女が気に病む必要なんてない筈だ。


「中学時代か……入学した当初は、友達もいなかったし退屈だなって思ってたけど……」


 退屈に辟易とした学生生活を送っていた――運命が捻じ曲げられる、その日まで。





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