episode 5 答え合わせ
「ねぇ、外から、音が聞こえるー。なんか、物を引きずるような・・・」
う〜ん、う〜ん、とこちらを振り返ったサファリーさんは首を左右に傾けながら腕を組む。
俺も窓へと近づき、外に耳を澄ましてみるが、サファリーさんが言っていたような物を引きずるような音は聞こえてこない。
でも・・・
「・・・サファリーさんって、耳いい?」
「んー、動物の足音とか仕事柄よく聞かないと行けないからー、普通の人よりいいんじゃないかなぁー。」
若干、常人を超越しているサファリーさんの言葉は信じなければいけない気がした。
「その、物を引きずる音ってどこから聞こえてきますか?」
あっちかなーとサファリーさんの指差した方向は、俺たちが入ってきた場所、校舎の玄関先だ。
用務員さん、はたまた先生がこの校舎へやってきているのか、もしくは
「俺をぶん殴って、この教室に閉じ込めた犯人が戻って来やがったか、でございます。」
松原くんは少々お怒りのようで、指をクラッキングしながら、まるで準備体操でもするようにその場で屈伸を始めたり、身体を伸ばしたりしている。
仮に、松原くんが言ったように、この事態を引き起こしている犯人が、こちらへ向かって来ているのだとしたら、今この教室に留まっているのは危険な気がする。
しかし、隠れるにしてもこの教室は手狭だし、4人固まっていては逃げるのも難しい。
こうなったら、この窓から飛び降りるか?
いや、少なくともサファリーさんはそれをしないだろう。本来の目的であったぽんつくが見つかっていないこの状態で、校舎を離脱するって提案はまず呑まない気がする。
なら・・・あっ、桜子ちゃんなら手まねき?を除霊させる事ができるんじゃないか?前に中原さんが桜子ちゃんは浄霊の力に優れている的な事を言っていた気がする。
「桜子ちゃん、下の霊達を浄霊させる事は?」
「残念ですが、今は無理です。浄霊に必要な刀は・・・生徒会室です。」
「まじか・・・」
「海さんは、竹刀袋を持ってうろうろ校舎を歩き回っている人が居たら、どうしますか?」
あぁ、まぁ人を探していたのに、そんな物騒なものを持って校舎をうろついたりは、しないよね。急いで松原くんを探しているみたいだったし。
すっかり桜子ちゃん=刀と言うイメージが定着していたので気がつかなかったが、確かに彼女は今手ぶらだった。
「なぁ、さっきから話している手?霊?何の話なんだよ、意味がわからねぇ・・・ざます。」
「・・・桜子ちゃん、思いつく限りの突破法は?」
「多分、他の部屋にも盛り塩が複数置かれている可能性があります。それを今みたいに崩せば、扉の霊達は逃げていく可能性が高いです。」
「分かった。今から俺と松原くん、桜子ちゃんとサファリーの2組に分かれよう。俺達は盛り塩を、桜子ちゃん達はぽんつくを探すことに集中してくれ。」
「ぽんつくっ!!!俺がすぐに見つけてあげるから!!!!」
先程までとはうってかわって、やる気を見せてくれたサファリーさん。
正直、ストーカーの犯人を松原くんではないかと疑っている俺は、彼と一緒に行動すべきだろう。少なくとも、桜子ちゃんと2人きりにはさせられない。
かと言って、状況を呑みこめていないサファリーさんと2人にするのも危険だろう。
「各々、急いで行動に移そう。もし道中で盛り塩、ぽんつくを見つけた場合はそちらを優先するように心がけよう。俺たちは1階に行くので、2人はこのまま2階の捜索を頼む。」
玄関の方に、何かいる可能性がある。手ぶらな桜子ちゃんを近づけさせ、怪我をさせるわけにはいかない。それこそ、虎之助に合わせる顔が無くなる。
「おっけぇー!ぽんつくぅー!!!」
サファリーさんは、自分がぽんつくは2階に上がれない、と言ったことを綺麗に忘れてくれたのか、隣の部屋へ駆けだしていく。正直、助かった。
「では、気をつけて。何かあったらすぐに声をあげてください。」
俺は桜子ちゃんに頷いて見せる。あまり納得したような表情ではなかったが、そのままサファリーさんの後を追ってくれた。
「俺たちも1階へ急ごう。何かいる可能性が高いから、気をつけるように」
「なぁ、さっきからどうなってるんだ?幽霊でも出たのかよ、ですか?」
「まぁ、実際に見てみれば分かる。見てもあんまり近寄ろうとするなよ。桜子ちゃんが言ったように、引きずりこまれるぞ。」
2人で教室を出て、1階を目指し、階段を降りる。途中、ぽんつくぽんつく声が聞こえたが、無視。
そうだ、今のうちにこいつに聞いておこう。
今後の展開も考えて、疑惑は早く晴らした方がいい。
「1つ、君に聞きたいことがあるんだけど。」
「なんだよ、ですか」
「昨日俺が君に、最近この辺りで変わった事とか、不審な人物とか見た事ないか、と聞いた時何故いないと答えたんだ?
副会長である加賀くんや、他の生徒からはサファ・・・不審者の目撃情報があったと聞いたが」
俺の質問に、松原くんは真顔で首を傾げる。
1階へ降りる階段の中腹あたりで足を止め、そんな松原くんをじっと見た。
「あんたが探している不審者と、俺が生徒達に聞いた不審者は違う、と判断したからだ、です。」
「・・・はっ?」
「あんたが探してる不審者は、書記に嫌がらせをしてるやつ、ですよね。けど、俺らが生徒から聞いた不審者は、特徴を聞いてもサファリーさんの事だった。
ウサギ小屋に張り付いてるサファリーさんはどうかと思うが、まぁ正式に学校から依頼を受けた飼育員の方だし、言ってきた生徒にはきちんと説明をしている。」
だから、言う必要ねぇかなぁって、です。と続ける松原くんに俺は呆れた。
まぁ、理には、かなってる。実際に、生徒から不審者いるって聞いたよ!でも、学校から依頼した業者の人だけど。って聞かされても、あっ、そうですかはい。で終わっていた可能性が非常に高い。
聞かされなくても・・・変に松原くんを疑ってしまった訳だが。
「松原くんはサファリーさんの事を知っていたのか?」
「まぁ、一応。1回先生に呼び出されて、副会長と2人で顔合わせもしてるし。他の生徒にはまだ内密にって事になってるけど、一部の生徒は知ってる、ます」
・・・成る程。今になって、虎之助が言っていた言葉の意味が分かってきた。
嘘と事実を混ぜ合わせながら、か。
「最後にもう1つだけ、いいか?サファリーさんの事を知ってる一部の生徒って?」
「運動部。放課後、小屋に張り付いてるサファリーさんを見た運動部が不審者と勘違いして俺に言ってきてたから、軽く説明した、でした。」
俺が、放課後にしか来ない事を、勘付いていたんだろう。
もし、周りの生徒に不審者はいないかと尋ねて回っても、サファリーさんの事を知ってる生徒達からは、いないと答えられる可能性が非常に高い。
こうして、松原くんへの不信感を高まらせ、もし仮に不審者がいたと聞いても、サファリーさんへ注意を向かせる事ができる。
何故なら、松原くんが俺に、不審者はいないと言っていたのを聞いていたから。
自分に注意が向きにくい事を、察したから。
彼は、言っていた。不審人物の具体的な特徴はまだ分からないと。
松原くんの話が事実なら、その答えはおかしい。彼も、知っていたのだから。
「あぁ、ここに居たんですね。」
不意に聞こえた声の方向へ視線を向ける。
「加賀くん」
不気味な笑顔を貼り付け、右手には手斧を持った副会長、加賀くんが1階の廊下から顔を覗かせた。




