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episode 5 手まねき


「あの、今更なんですが、軽く自己紹介しませんか?お互いに名前が分からない人もいらっしゃいますし。」


このままでは、なにかと不便ですし。と桜子ちゃんが続けた。


生徒会長の触診を軽く済ませたあと、俺たちはこの部屋を探索し始めた。無造作に置かれた机や椅子、いつ使われたのか分からない古びた備品などは見つかったが、今後の役に立ちそうな物は、見つからなかった。


ある程度探し終えたところで、自己紹介をしよう。という桜子ちゃんの提案を飲み、お互いに軽く名前を言い合うことに。


正直、助かる。これで・・・


(ずっと謎だったサファリーさんの名前が聞けるっ!!)


そう、俺はサファリーさんの名前を知らない。前に1度自己紹介を受けたが、その時は・・・


「俺は、松原奏。ここの生徒で、生徒会長。以上だ、です。」


「私は、山田桜子です。私も兄と一緒にオカルトサークルの方に参加させていただいてます。」


2人の若者から自己紹介を受け、サファリーさんもふにゃっとした柔らかい笑みを浮かべ手を差し出す。


「俺は、向こうのサファリパークでゴリラの飼育員をしている、ドン!!!!!!!!!秋だよ、よろしくねー」


サファリーさんが自己紹介を始めた時、教室内に積み上げていた机と椅子が落ちた。


「あの、すみません。ちょっと把握できていない部分がありましたので、もう1度お名前の方を伺ってもよろしいですか?」


「んー、うん!俺はサファリパークでゴリラの飼育員をしているパリン!!!!!!!秋だよー。秋って書いてしゅうって読むんだー」


桜子ちゃんの申し出で、サファリーさんにもう1度自己紹介をしてもらったが、今度は教室の窓が数枚一斉に割れた。


やっぱ、ダメか・・・


そう、前回も名前を聞こうとした瞬間謎の破壊音に遮られ彼の名前が分からず仕舞いだったのだ。


「すっげぇな、この人なんか呪われてるんじゃないの??」


サファリーさんに指差す松原くんの手を下ろさせ、そっとため息をつく。

俺も何回聞いても聞き取れなかった、です。と言う松原くんの言葉に、俺もこの人呪われてるんじゃないかと思ってしまいました。


「・・・よろしくお願いします、サファリーさん。」


「んふふふ、よろしくねー」


桜子ちゃんも諦めたようで、口元が引きつったまま、自己紹介は終わった。

この部屋にはもう何もないだろう。そう思い部屋を出ようとしたが、先程までは無かった白い粒状の物が地面に散らばっているのが目に止まる。


いつのまに、こんな物が?


「3人とも、これ・・・」


地面を指差し、しゃがみ込みそれを間近で観察してみる。

指に取ってみると、ざらっとした感触。粒状なのだから、まぁ当然なんだが・・・しかし、これはもしかして・・・


「塩、かな。」


1人暮らしの俺は、普段から料理をよく作るので、感触が馴染みのあるものだった。舐めたりは、絶対にしたくないので確証は持てないが、塩でほぼ間違い無いだろう。


でも、なんでこんな所に塩が?


地面にばら撒かれている塩の出所を探してみると、先程サファリーさんが呪いによって倒した机の引き出し部分の中に、白いお皿と塩が入っていた。


「机の中に塩を入れる趣味の生徒がいたのか?で、ございますた?」


背後から奇妙な敬語を使う松原くんが小首を傾げる。


「あー、こっちに山になってる塩とお皿みーっけー」


俺が塩を見つけた場所からまた少し離れた場所で、サファリーさんが同じ物を見つけてくれた。ほらほらー、と何故か嬉しそうに白い皿に盛られた塩をこちらへと持って来ようとするが、


「サファリーさん、その塩をすぐに叩き割ってください!!」


桜子ちゃんの制止に、反射的なのか、本能的なのかよく分からないが、サファリーさんは思いっきりその塩を床に投げつけた。

そう、思いっきり。


最初に記載したが、ここは木造の校舎。

その塩と、皿は、木に、めりこんだ。白い皿は恐らく陶器だろう。

陶器って、木にめり込むのかな・・・桜子ちゃん曰く、とりあえず塩の山を崩せたら、OKらしい。


「なるほど・・・あれだけの霊がどうして、こんな何の変哲も無い校舎に留まっているのか疑問だったのですが、盛り塩で結界を張っていたんですね・・・」


木にめり込んでいる陶器は、みんなスルーなんだ。いや、今はそんな事を考えてる場合じゃない。


「桜子ちゃん、結界って・・・」


「海さん。先程、1階で見た手を、覚えていますか?」


俺は頷き、白や赤い手がゆらゆらと無数に、扉から伸びていたあれらを思い出す。


「皆さんは、お盆に海や川に入ると体を引きずり込まれる。みたいな話を聞いたことがありませんか?

あれは、霊達が現世へ帰ってきた時、誰からも供養されなかった寂しさや怒りで、生者を道連れにしようとしているから、とも言われています。


霊達は無意識に、抗えぬ感情のまま、生者を道連れにしていきます。厄介な事に、無意識だからこそ悪意がないんです。

ですので、いくら霊感が強い人間でも、その手に気づけない。気付いた時には水の底だったりします。」


桜子ちゃんは右手を上下に動かして、手まねきをしているかのような動作を見せる。

そうか、あの手達はおいで、おいでと俺を呼んでいたのか・・・。こわ


「それでも、あれだけの霊達が一箇所に集まっていれば何かしら気づきそうなのですが・・・」


桜子ちゃんの視線は先程サファリーさんが叩きつけた塩と皿へ注がれる。

松原くんは俺たちの話を理解出来ず、困惑している空気が伝わってきた。そろそろ、あの手についても話しておく必要があるな。


サファリーさんは、俺たちの話を聞かず、窓から空を眺めては、鳥さんいないなぁーとか言っている。


「盛り塩は本来、建物の外に置くことで、霊を侵入させない結界のようなものを張るのですが・・・中に盛り塩を置くと、逆に霊をその場に閉じ込めてしまうのです。


しかも、ご丁寧に隠蔽術のような物がこの皿に使われています。こんなの、普通の人には絶対に出来ません。一体、誰が・・・」


今の話を簡単にまとめると、何者かが盛り塩を作り、この校舎にあの手達を閉じ込めて、ついでに俺たちも閉じ込めて・・・そんな事をして、この状況を作ったやつは何がしたいんだ??


うまく情報をまとめる事が出来ず、頭を抱えていると、窓から外を眺めていたサファリーさんが弾かれたようにこちらを振り返る。


「ねぇ、外から、音が聞こえるー。なんか、大きな物を引きずるような・・・」



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