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episode 5 旧校舎


「さ、サファリパークのお兄さん??」


深緑色の作業服のようなつなぎを着た男は・・・えっと、サファリパークで働いているお兄さんらしい。


「海さん、知り合いの方・・・ですか?」


「あー、うん。まぁ、知ってる人、かな。桜子ちゃん、この人もオカルトサークルのメンバーだよ。」


桜子ちゃんは訝しげに、俺とサファリーさんを交互に見てくる。サファリーさんは、そんな俺たちの事をあまり気にした様子もなく、にこにこと満面の笑みを浮かべ、胸元に視線を向けたままだ。


正直この人とは2、3回程度しか会ったことがない。それ故に記憶が朧げだが、確か白咲さんの高校時代の先輩だったかな?

そんな事を虎之助から聞いたような・・・気もするが覚えていない。


「あの、それで・・・サファリーさん。どうしてここに??と言うか、何してるんですか??」


「んー?んふふふ」


サファリパークのお兄さん事、サファリーさんはゆっくりと立ち上がり、胸元に抱えていた白いモフモフとしたうさぎを見せてくる。


「あら、可愛らしいですね。」


「でしょー?この子ね、ぽんつくって名前で世界一可愛い女の子なんだよねぇ。ねー、ぽんつくぅー」


うさぎに頬をくっつけ、すりすりとハートを撒き散らしていた。

この人、ずっとここでこんな事をしていたの?独り言を呟いて、うさぎに頬ずりをして??


不審者だ。まごうことなき不審者だ。


「桜子ちゃん。」


「大丈夫です海さん。言いたいこと凄く分かりましたから。」


「で、サファリーさんはそのうさぎを抱えて、うちの学校に何の用だったんですか?事次第では通報されますよ??むしろされてませんか?大丈夫ですか??」


あぁ、とサファリーさんはうさぎから顔を離し、近くの小屋を指差す。

サファリーさんの不審者感満載の行動で、気がつくのが遅れてしまったが、ここは飼育小屋付近だったのか。


「俺、この学校の校長〜?理事長ー?まぁお偉いさんに頼まれて、この学校で飼われていたうさぎさんの、花嫁を連れて来てほしいって言われてねー。まぁ、相性とかもあるから、何度かぽんつくと顔合わせさせてるところなんだよー。」


なるほど、何度もこの学校に足を運び、独り言を呟いて(本人はうさぎのぽんつくと話しているつもりだろうが)、この辺りを作業服でうろうろしていたら・・・


「とりあえず、生徒さんたちが見たと言う不審者は大方サファリーさんだろうね。」


「不審者である事は間違いないので、誤報ではないですがね・・・」


こちらの心情を察していないのか、眼中にないのか、サファリーさんはうさぎのぽんつくを愛でてた。そんなサファリーさんの様子に大きく溜息をつき、彼から少し距離を取り桜子ちゃんと今後について話し合いを始める。


「とりあえず、副会長さんの所へ戻ろうか。不審者は・・・不審者だけど、学校側の来賓者だし・・・」


「そうですね。会長を早急に呼び戻す用件も無くなりましたので・・・」


一旦、この件を副会長・・・加賀くんに伝えることにした。その為に、サファリーさんにも1度付いてきてもらわなければ。そう思い、彼の方を振り返ると


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!ぽんつくぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」


サファリーさんは大きな声でうさぎの名前を呼びながら走り出していた。


「はぁ!?」


呆気に取られながらも、走っているサファリーさんの後ろを桜子ちゃんと2人で追いかける。前の方でチラリと白い何かがぴょんと跳ねるのが微かに見えた。

ぽんつくが逃げたのだろうか?いや、逃げたんだろうな。


「ぽんつくぅぅう!!危ないから戻ってきてよー!!!」


「サファリーさん落ち着いて!!追いかけると、余計に逃げるのでは!?」


俺の声は、どうやら届いていなさそうだ。一心不乱にうさぎの名前を呼び、追いかけて行く。

あっ、この光景見たことある気がする。あれだ、不思議の国のアリス。

うさぎを追いかけて、不思議な穴に飛び込む・・・みたいな


「ぽんつくぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!帰ってきてぇぇぇぇぇぇっ!!!」


そんな、ファンタスティックな余韻に浸ってる暇ではなかった。早く、1人と1匹をどうにかして落ち着かせなければ。


段々と本校舎から遠のき、離れにある少々古い、二階建ての建物前までやってきた。

ここは、昔校舎として使われていた場所だ。俺が高校2年生の頃、今の校舎を改装する時に1時期使ったこともある。

古いが、木造で味のあるいい建物だ。校舎の改装が終わった後は物置として、行事がある時などに使っていたはず。


校舎の入口扉が何故か開いており、ぽんつくがその校舎内に入り込んでしい、サファリーさんもそのままぽんつくの後を追う。

俺たちはどうするべきか悩んだが、とりあえず校舎の中へと足を踏み入れた。


「ぽんつくー、出ておいでー!君の大好きな小松菜を一緒に食べようー!!」


「サファリーさん、俺たちも一緒に探しますから、ちょっと落ち着いてください!!」


校舎の入り口付近で、叫び続けるサファリーさんを逃すまいと、肩に手を置く。

やっと俺の言葉を聞いてくれたのか、静かに頷きお願いしてもいいかな?と小声で言ってきた。


「まだ日は落ちていませんが、少し薄暗いですね・・・」


桜子ちゃんは校舎内を見渡し、電気のスイッチを入れる。


「・・・?あら?」


カチャ、カチャと何度も付けたり消したりしているが、一向につく気配がない。


「電気は通っているはずなのですが……」


あまり使われていないので、通電を止めているのかもしれない。辺りが薄暗いとは言え、見えないわけではない。

懐中電灯か、スマホの灯りでどうにか探せるだろう。幸いにも、この校舎はそんなに広いわけでもないのだから。


「福田先生か加賀くんに事情を話して懐中電灯を借りてくるので、ここで待っていてください。」


俺が2人にそう言い残し、校舎を出ようとした瞬間、勢いよく扉が閉まった。

風が何かに吹かれたのだろうか?驚きながらも、扉へ近づこうとした瞬間


「海さんっ!!すぐにそこから離れて!!」


桜子ちゃんの叫び声に、動きが止まる。

その瞬間、無数の青白い、赤い、手がまるで扉を守らんとばかりに伸びてきた。

1つ、2つなんてものじゃない。数十、数白の手が此方へと手を伸ばしてきた。


「くっ、そ」


急いでその場から跳びのき、手から距離を取る。手はうようよと宙を漂い、目標を失ったのか、また扉の方へと戻っていく。

そこそこ距離を取ると、襲っては来ないみたいだ。


だが・・・


「外へ易々と出ることはできなくなった・・・か。」


チラリと視線を、一階の廊下へと向ける。

教室は全部で4つ程で、窓が多く配置されており、見通しの良い廊下になっている。


「恐らく、窓にも同じような細工がされていると思います。」


少しだけ、窓から出られるのではないかと期待していたが・・・まぁ、そんなに甘くはないよね。が、最終的には強行突破する事も視野に入れておこう。


「・・・・」


「?サファリーさん?」


茫然自失に、サファリーさんは扉の手を見つめていた。それも、そうか。俺たちはやや見慣れてしまったが、普通の人ならこんな反応にもなるわな。


「あの、サファリーさん・・・」


「あの手、君の友達?」


「どうしてそう思うんだよ」


真顔で青白い手を指差すサファリーさんに、同じく真顔で言い返してしまった。


「って、こんな事してる場合じゃない!早くぽんつく探してあげないと!!なんか変なことになってるし、絶対怖い思いしてるよー!」


立ち直りの早さに驚きはしたが、まぁ怖がられて動けなくなるよりはいい。

今は非常事態だ。冷静さはともかく、何かあった時に、自力で逃げてくれるだけでも助かる。


サファリーさん曰く、ぽんつくは2階には上がれないだろうとの事なので1階を重点的に探すこととなった。

極力、窓には近付かず、廊下を歩こうとした時


ガシャッ!!!


と2階から大きな音が聞こえてきた。


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