episode 5 生徒会長を探して
昨日、薔薇の花をじっくり観察していたら・・・あまり眠れなかったな・・・。
薔薇自体は、普通の花だったらしく、盗聴器等も仕掛けられていなかった。
昼間のうちに、近くの神社で人形も供養させてもらった。ひとまずは、安心だろう。
大きく背伸びをした後、腕時計を確認する。
時計は16時前を指し示す。そろそろ学校の方へ向かったほうがいいだろう。
高校の近くに差し掛かると、門前に福田先生の姿が見えた。よく、見かけるなぁ。校舎内にいつもいるとは言え、昨日今日でこんなに会うものなのか?
先生も俺に気がついたようで、昨日と同様、大きく手を振ってきた。
「よお!上条!!どうしたんだ?」
「いや、あの・・・あっ、卒業証明書を発行してもらおうかなぁって。ほら、この学校卒業したって言う思い出が欲しいなぁ、なんちゃって・・・」
「???お前は何言ってるんだ?卒業証書があるじゃないか!!」
「それより福田先生、校門前に立って大変ですね。」
2日連続で学校へ来た理由をすぐに思いつかなかった俺は、この話題から話をすぐに逸らす。
これ以上話を続けていたらボロが出そうで怖い。
「ん、あぁ!いやぁ〜、今までは田中先生が立っててくれていたんだがな、昨日も言ったけどちょっと体調を崩されていて、俺が変わりに門番をしていると言うわけだ!!」
「いやぁ〜、先生立派ですね。流石ですソンケイシマス。」
俺の煽てに気分を良くしてくれたのか、豪快に笑った後、俺の背中・・・いや、腰あたりをビシビシと叩いてくる。ちょっと痛い。
「山田・・・あぁ、妹さんの方ね。彼女も良く田中先生を手伝って、放課後校門前に立ってくれていたよ。俺が昔、校門前に立っていた時、山田兄の方もよく一緒に立ってくれていたなぁ。」
やはり、兄妹似るんだなぁ。とさっきまで笑っていたのに、今度は瞳を潤ませ泣き出す福田先生。校門を出る生徒から痛い視線が突き刺さる。そうだな、側から見たら俺が福田先生を泣かせているように見えるよね。
「福田先生、生徒、他の生徒さん見てますって。」
「うっ、すまんな・・・最近涙もろくなってしまって・・・。山田も、いい子だっ!なんかよく分からん事を言っていたが、俺の、俺の大事な生徒でっ!!」
泣いている福田先生を必死に宥め、落ち着かせる。福田先生は自身の服で涙を拭い、こちらへと向き直る。今がチャンスだな。昨日の件をぶつけよう。
「そうだ先生。最近この辺りで不審者を見たって話聞いてませんか?なんでも生徒達の間で噂になっているようですが・・・」
「ぐっず、不審者?噂??・・・あぁ、なんか数日前ぐらいに生徒達がそんな事を言っていたなぁ。」
「それ、どうなりました!?」
「一応、周辺を見て回ったり、校舎内の見回り強化をしてみたが・・・変なやつはいなかったかな?」
不審者らしき人物が出ていたって言う話は事実っぽいな。けど、いなかったとなると・・・逃げたのだろうか?
「まぁ、松原のやつがここ最近ずっと見回りをしてくれているみたいだし、俺も校門前に立っている。今のところ、怪しい人物は来ていない!」
お前も図体がデカいから、誤解されないように気をつけろよ〜!
と先生は付け加える。余計なお世話です、と言いたいところだが、強ち間違いではないから辛いところだ。望んでデカくなった訳じゃないのに・・・
「あっ、ところで先生。その松原さん?って人は?」
「松原?松原はこの学校の生徒会長だ。マイペースで、怖いもの知らずのような、まぁ物怖じしない、いいやつだ!!」
あぁ、あの生徒会長は松原と言うのか。昨日名前を聞き忘れたから助かった。
あまり長居はしていられないので、先生に手を振り、別れを告げた後俺は、運動場の方へと足を向ける。
今日は、校舎周辺を見て回ろう。何か、あるかもしれない。
サッカー部、野球部、陸上部、その3つの部活が今運動場で青春の汗を流している。
俺も、高校時代何か部活をやっていれば良かった・・・。
終わった青春を少しばかり後悔しながら、歩いていると、目の前から二人組の男女が歩いてきた。
女の子の方はよく知っている顔だ。男の子の方も、昨日会った子だろう。
「桜子ちゃん」
桜子ちゃんは1つに結んだ髪を揺らしながら、小走りでこちらに駆け寄ってくる。
その後ろを、加賀くん、だったかな?彼が追いかけてきた。
「海さん、生徒会長を見ませんでしたか?」
「生徒会長?」
「はい、あっ、昨日貴方・・・いえ、先輩がお話しされていた少しばかり、態度の大きな・・・その、昼休みごろから姿が見えないようで・・・」
言いづらそうに、加賀くんは口ごもりながら頭を低くする。
桜子ちゃんも困ったように眉をひそめながら、周りを見渡しているようだ。
生徒会長・・・あぁ、先生が言っていた松原くん、か。
彼にはもう一度話を聞いておきたいし、ついでだ。俺も探すのを手伝おう。
「姿は見ていない、かな。俺も今来たばかりだし。もしよかったら探すのを手伝うよ?」
「い、いえいえ!!そんな、先輩の手を煩わせる訳には・・・」
「いや、俺もこの辺りぶらぶらする予定だし、ついでだから全然いいよ。」
どうするべきか、そう悩んでいるように見えた加賀くんだが、背に腹は変えられないのだろう。すぐにお願いしますと、頭を下げてくる。
よほど、切羽詰まっているのだろうか?
「それじゃあ、俺はこのまま運動場から、校庭の方を探すね。」
「じゃあ、私も海さんについて行きます。私服の方があまり校庭をうろうろしていると、生徒達にも変に目立ちますから。」
「えっ、あっ、はい!じゃあすみません2人ともよろしくお願いします。山田さん、一通り見た後、生徒会室に集合しましょう。」
桜子ちゃんが頷いたのを見届けた後、加賀くんは来た道を急いで戻っていく。
私たちも行きましょう。桜子ちゃんに促され、俺たちは運動場、それから校庭へと向かっていった。
「桜子ちゃん、なんだか少し慌ただしいけど、生徒会長に急用でもあったの?」
「いえ、急用と言うか・・・確かに、生徒会長がふらりと何処かへ行って帰ってこない事なんて、前からよくあったのですが・・・先程、校門前付近で不審な人物が歩いていた、と副会長から報告があり、それで探していたんです。」
不審な人物・・・?
しかも校門前に??校門前は福田先生が立っていたはずだが・・・
とりあえず、生徒会長を探すしかない。ついでに、不審人物が現れたと言うなら、こちらも探し出して捕まえよう。
桜子ちゃんと2人で、周辺を歩いていると、何処からかボソボソと話し声が聞こえてくる。
『・・・だから・・・大丈夫・・・』
桜子ちゃんと!顔を見合わせ、静かに頷く。息を殺し、ゆっくり、相手に悟られないように近づいてみる。
『はぁ、はぁ・・・可愛いなぁ・・・最高だよ・・・』
近づくにつれ、何を言っているのか、鮮明に聞こえてくる。物陰から様子を伺うと、地面に座り込む、深緑の服を着た大きな背中が見えた。
体格的に、男だろう。
勢いよく飛び出し、桜子ちゃんが男の背後を、俺は男の正面へと回り込む。
ここにきて、ようやく俺たちの存在に気がついたのだろう。
男は勢いよく顔を上げ、あっ、と驚いた声を上げた。
「えっ、」
男の顔を見た瞬間、俺も驚きの声を漏らす。全く想定していなかった人物。そう、この人は・・・
「さ、サファリパークのお兄さん??」
オカルトサークルに所属しているメンバーの1人だったのだから。
オカルトサークル最後のメンバー登場!




