episode 5 ちょっと昔話
『どうしたらいいんでしょうか、これ。』
初めて桜子ちゃんから相談を持ちかけられたのは、彼女が中学2年生、俺が高校1年生の頃だった。
虎之助の部屋で中間勉強をしている最中、あのアホは俺を置いてコンビニへと出かけた時の事だ。
おずおずと、桜子ちゃんは自分の学生鞄から1枚の手紙を俺に差し出す。
シンプルな白い便箋には桜子ちゃんの名前が記されている。
直感的にだが、これはラブレターだろうなと思った。
『えっと、どうしたの、これ』
『今日、貰ったんです。内容は、その・・・付き合ってほしい・・・と。』
虎之助の後ろをついて回り、時に刀を振り回すじゃじゃ馬な面を潜め、しおらしく、困った表情を浮かべる桜子ちゃんを前に俺は少しの戸惑いを覚えた。
まぁ、中学2年生ともなれば色恋沙汰も盛んだろう。ましてや目の前にいるこの少女は、ついでに兄も。あの兄妹は母親に似て、見た目はかなりいい部類だ。性格はあれでも、モテないわけがない。
それにしても・・・
『その、相談するなら別の人がいいんじゃない?女友達とか、おじさんとか虎之助には相談し辛いだろうけど、かすみさんなら母親だし、相談しやすいんじゃない?』
『両親や、両親や兄様じゃダメなんです!!だって・・・』
ピーーーッと鳴り響く大きな音に、ハッと意識を戻す。
あっ、そうか。お茶を入れる最中だった。
けたたましいい音を立て、沸騰したことを知らせるやかんの火を止め、予め用意していたポットへとお湯を注ぐ。
部屋中に広がる茶葉の香りに、僅かながら気持ちが落ち着くのを感じた。
虎之助が我が家に来ては紅茶を置き、来ては紅茶を置いていくので、正直困っていたが、突然の来訪者にすぐ対応できるので、助かってはいる部分もある。心中は複雑だが。
2つのカップに紅茶を入れ、本を読んでいる桜子ちゃんに持っていく。
心ここに在らずな桜子ちゃんは、視線こそ本に向けているが1ページも進んでいなかった。
カップを彼女の前に1つカップを置いた後、話を切り出す。
「・・・何か、学校で変わった事とか無かったの。不審人物を見かけた、とか。後変な噂とか。」
「えっ、あっ・・・いえ、私そういった話には疎くて。不審人物を見た、という情報も今のところ聞いていないのですが、生徒会長なら、何か知ってるかもしれません・・・」
「生徒会長さん?」
桜子ちゃんは生徒会で書記をしているらしい。虎之助に聞いた。
「えぇ、会長は割と生徒達の噂について聡い人なので。明日にでも聞いてみます。今の、私の現状も知っていますし。」
・・・あぁ、俺の他に話したと言っていた人物は、生徒会長だったのか。
余程頼り甲斐のある生徒会長なんだろう。
何にせよ、不審な人物の目撃情報等があれば欲しいところだ。
今のところ危険な目にはあっていないようだけれど、何があるかわからな・・・いや、犯人が面と向かってくれば、桜子ちゃんならどうにかできそう・・・?
いや、女の子だ。刀を振り回し、闇討ちを計画するような子だったとしても女の子だ!
・・・それに・・・
早いところ、この件を片付けよう。虎之助や、ご両親に知られる前に。
明日、久しぶりに行ってるか・・・桜子ちゃんの通う高校。
俺と虎之助の母校へ・・・。
今回はちょっと短くなりました。兄虎之助が知らない桜子ちゃんと海くんのお話。




