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(番外編)えぴそーど 0 虎之助の1番嫌な日


今年もこの日がやって来た。

あの男にとってはまさしく地獄の様な1日だろう。いや、2月に入った瞬間から、地獄が始まっていたに違いない。


2月14日、今日はそう『バレンタインデー』


なのだから








「海くぅぅぅぅぅん!!!!!」


コーヒーを傍に置き、ゆっくり家で医学書を読んでいると、家の扉から凄まじいノック音を響かせ、叫ぶ声が聞こえてくる。

確認するまでもなく、腐れ縁の山田虎之助だ。

大きなため息を吐き、居留守でも使うかと悩んだが、ご近所に迷惑を掛けるわけにはいかない。何よりも、こいつは諦めが悪いから、しばらく盛大なBGMを流し続けるだろう。


俺の読書時間を邪魔させない。

虎之助の要件はあらかた想像が付いている。それならば、早急に要件を済ませ、帰ってもらう。


「虎丸うるさい!!近所迷惑だって何回言えば分かるんだ!!」


「海くぅぅぅぅぅん!!!!!いるなら早く開けてよ!!寒いっ!!」


虎之助は扉の前に立つ俺を押しのけて部屋の中へ入ろうとするが、身長差的にも体格差的にも俺を押しのける事が出来ない。


「海くんっ!!寒いっ!!」


「俺は今勉強をしているんだ。要件なら早く言え」


「バレンタインデーだよ!今年も、バレンタインデーが来てしまったんだ!!」


虎之助はご自慢の顔を盛大に歪ませながら、玄関前で膝をつく。

着ていたスーツが汚れるのも気にならないのか、いや、それ以上にバレンタインと言う行事に嘆いてる様子だ。


このままこいつを放置していたいが、近所から白い目で見られたくない。


「とりあえず、早く入れ。そしてすぐ帰れ」


「わーい、お邪魔しまーす」


膝をついたまま、四つん這いで部屋の中へと入っていく。

立つ気力すらないのか?


玄関の扉を閉める前に、住んでいるアパートの両隣を確認する。

大丈夫・・・だよな?誰にも見られていないよな?


そう、信じて扉を閉めた。



「虎丸、部屋上がる前に膝の砂とかキチンと叩けよ。」


「あーうん、叩く叩く。」


四つん這いになっていた虎之助は立ち上がり、膝を軽く叩いていた。

それを横目に、虎之助より早く部屋へ上がり飲み物の準備を始める。

こいつは、ホットカルピスで良いか。


「それでバレンタインデーがどうしたんだ。チョコが嫌いなお前にとっては今更なイベントだろ?」


「まぁ、今まで通り適当にチョコ受け取って家族や海くんにあげるから問題は無かったんだけど・・・今年、ホワイトハウスの方で新イベントが始まる事になったんだよ・・・」


「新イベント?」


「そう・・・今年はチョコレートファウンテン?を作り、お客様と食べさせ合う『愛のチョコレート交換』をする事になったんだ・・・」


あ、愛のチョコレート交換・・・?なんてネーミングセンス。

しかし、お客さんと食べさせ合う?なんて事になったら間違いなくチョコレートを食べない訳にはいかないだろう。事実上、仕事になるだろうし。


「もう潔く、白咲さんやホワイト・キャッスルのオーナーに言えばいいじゃん。チョコが死ぬほどダメなんだって。」


「白咲さんの前でそんなかっこ悪い事言えない!!」


「じゃあ食え。仕事だろ?」



虎之助は自身の好物であるホットカルピスの前で頭を抱え込む。


「はぁぁ、桜子ならチョコレートファウンテン喜んでたのになぁ・・・僕には地獄だよ・・・」


「桜子ちゃんチョコレート好きなの?」


「うん、毎年チョコレートあげてるんだけど、喜んでくれてるよ。『ありがとうございます!兄様!!これはきちんと私がしょぶ・・・いただきますね』って。

代わりに、焼き芋くれるんだ〜。庭の枯葉を集めて、一から作ってくれるからめっちゃ美味しいよ!!」


今一瞬、不穏な単語が見え隠れしていた気が・・・


焚き火・・・そう言えば、この時期になると桜子ちゃんが焚き火を起こしては焼き芋作ってたなぁ。おばさんからよくお裾分けで貰ってたっけ。


よく山田家から甘い匂いがしていたな・・・


甘い・・・匂い?焼き芋作るのにそんな匂い、するか??


いや、これ以上は辞めておこう。第六感が危険を知らせている。


「あー、もう行かないと・・・」


壁に掛けられた時計を見ながら虎之助は呟く。


「早いな。まだ昼過ぎなのに」


「今日同伴がある〜」


「そ、で、イベントは結局どうすんの?」


「・・・仕事だし、No.2だし、顔に出さないように頑張る」


いつものような覇気は見当たらず、背中を丸めたまま虎之助は玄関へと歩く。


「急に押し掛けてごめんね海くん、ホットカルピスご馳走さま。じゃあ・・・仕事いってきまーす・・・」


「気をつけろよ」


手を振り、虎之助は我が家を後にした。

今日2度目の大きなため息を吐き、ポケットから携帯を取り出す。

昼間だから、まだ寝ているかもしれない。いや、イベントがあると言っていたから準備をする為にもう店にいるかもしれない。


数回コールが鳴った後、『もしもし?海くん?』と応答があった。


「あっ、白咲さんですか?忙しい中すみません、あの・・・」





翌日、虎之助にとって恐怖のバレンタインデーが去り、俺も昨日読めなかった医学書を片手にコーヒーを飲んでいると


「海くぅぅぅぅぅん!!!!!」


バカ丸の声が、ノック音と共に聞こえてくる。


「虎丸、お前昨日の今日で何の用だ!!」


盛大に扉を開け、外にいる幼馴染を睨む。

虎之助は満面の笑みと携帯の画面を見せるようにして立っていた。


「見てよ海くん!!昨日のイベントで白咲さんが

『今日はユーモアを加えて見たんだ。世間はチョコレートで溢れているけど、ホワイト・キャッスルは刺激的で、少しスパイシーな・・・カレーで満たしてみるのはどうかな?』って事でチョコレートファウンテンじゃなくて、カレーファウンテンになった!!」


・・・うわ、チョコレートじゃなくてマジでカレーになってルー。

いや、俺は何を言ってるんだ。


「パン付けて食べるとすっごい美味しかった!!」


「そらカレーパンだから美味いだろうね。」


まぁ、何はともあれ・・・今年のバレンタインも・・・母さん以外からチョコ貰わなかったな・・・。


なんかムカつくから、虎之助を1発殴っておこう。


「いてっ、なになに海くんどうしたの!?あっ、白咲さんが今度は海くんもカレーファウンテンパーティにおいでって!!」


「・・・行く」


カレーファウンテン、ちょっとだけ気になってたなんて、絶対誰にも言わない。




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