episode 4 スイカ
「はぁ・・・全く、こんな所にまで遊びに来るなんて、君たちは余程暇なようですね。」
声のする方へ視線を向けると、ゆったりとした足取りで俺たちへと近づく人物
『中原 光太郎』がそこにいた。
「大丈夫かな、上条くん。」
そして目の前にいる、俺を助けてくれた小柄な女性は『椎名 春乃』さんだ。色素の薄い、肩まで掛かる髪を揺らしながら、こちらへ小首を傾げてくる。
同じオカルトサークルに所属しているが、数える程しか会ったことが無い為、あまり詳しくは知らないが、中原さんの仕事の助手をしているらしい。
椎名さんは手に、巨大な扇子?いやハリセンのような物を持ち、俺へと視線を向けていたがすぐに厳しい顔つきになり、少年がいる方向へ体ごと向き直る。少年は下を向いたまま、動こうとはしなかった。
「山田兄と白咲くんは、上条くんを連れて一先ず向こうにある、僕たちが乗ってきた車の方まで行ってください。君たちがそこに居ては邪魔です。」
中原さんは自分が来た方向を指差す。
障害が無くなった為、虎之助、白咲さんと合流する事ができた。
「海くん、ひとまず中原さんの言う通りここから離れようよ!怪我の手当てもしないと!」
「海くん、ちょっとごめんね」
体が宙に浮き、白咲さんに背負われる。大の男が、大の男に背負われる。
絵面が、絵面がやばい。
「中原さん、一先ずここはお願いします!後で俺も戻りますので!」
「白咲くんが戻ってきたところで、殴り飛ばす以外に出来ることはないでしょう。いいから、早く行ってください。あっ、戻ってこなくて結構なので。」
虎之助と白咲さん、そして俺は、中原さんと椎名さんそれから黒い少年を残し俺たちが入ってきた入り口とは逆の方へと走り抜けた。
「さて、『泉田 洋一』今一度ここに封印して差し上げますよ、春乃」
「はいはい、力仕事はいつも私なんだから」
トンネルの出口の方で明かりが僅かに見えた。恐らく、車のライトだろう。
入り口付近は木の板やコンクリートブロックなどで封鎖されており、小さな隙間などから明かりが漏れていた。
右の方には人1人分ぎりぎり通れそうな場所があり恐らく、中原さんたちはここから出入りしてきたのであろうと思われる。
白咲さんの背から降り、1人ずつその隙間を通る。虎之助はなんとかそこを通り抜ける事ができた。
が、虎之助より身長も体格もいい俺や白咲さんはここを通り抜けれるのか??
痛む腕に鞭を打ち、体を極力薄くする事を意識して右半身から徐々に抜けることに成功した。
こちら側の入り口は、向こうと違って一本だけだか街頭があり、少しだけ明るい。
辺りは変わらず木々に囲まれているが、遠くの方で車の音が聞こえる。それだけでもかなりの安心感が生まれた。
「海くん!早く手を冷やそう!僕車から海くんの鞄とスイカ持ってきたから!!」
・・・・スイカ?
「おい、虎丸。なんでここにスイカがあるんだ?と言うか今スイカがあったとしてどうするつもりだ。」
「えっ、火傷は冷たい物で冷やせって聞いてたから、スイカ持ってきたよ?今は冷たくないけど、ふみばぁちゃんから貰った時は冷たかったよ!!」
「冷蔵庫から出したてだったんだろ!!こんなんで冷やせるか!!」
虎之助から自身の鞄を受け取り、コールドスプレーとタオルを取り出す。
タオルにスプレーを振り、右腕の患部に当てる。
本来は、こういった使い方をしては行けないが、スイカで冷やすよりは絶対にマシだ。
冷やせる物が周りにない以上、仕方ない。
「海くん、大丈夫かい?すまない、俺がもう少し周りに気を配っていれば・・・」
「いや、あれは不用意に近づいた俺の責任です。白咲さんは気にしないでください。」
街頭の下で火傷の具合をチェックしてみるが、思っていた以上に深そうだ。
幸いにも、火傷の範囲は広くないので命に別状はないだろう。
「しばらくは不便でしょうが、これぐらいなら2、3週間で治りますよ。」
「本当!?よかった〜、心配したよ〜」
「しかし、すぐに病院へ行った方が良いだろうね。俺の車はまだトンネル内だし、中原さん達が戻ってきたら1度車を借りて病院へ向かおう。」
その後また戻ってきて、車を取りに行こう、と白咲さんが言う。
俺たちは頷き、まだトンネル内に居る中原さんと椎名さんを待つ事にした。
スイカを食べながら。
実は、火傷にスイカの下りは実話だったりします。
虎之助くんはマジで火傷した人にスイカ持ってきて「これで冷やして!!」って言ってました。




