episode 2 援軍
「海くんっ!!!!」
炎に包まれる車に、驚きで固まってしまったが虎之助の焦りが含まれた声にハッと意識を戻す。
「くそっ!!離せ!!」
力強く握られたその手を離そうと、反対の手で応戦して見せるも、一向に剥がれる気配はない。それどころか、腕を握りつぶさんとばかりにどんどん力が増していく。
炎は俺の手を掴む少年を伝い、こちらへと迫ってきていた。
車の中にいた少年はその体を炎に包まれながらも、口角を上げたまま俺の体を車内へと引きずり込もうとするのが分かった。
「はぁっ!!!!!」
その時、俺の真横で大きな衝撃音が聞こえたと同時に、後ろから誰かに引っ張られ、掴まれていた腕を引き離す事ができた。
「海くん大丈夫!?」
後ろから引っ張ってくれたのは虎之助のようだ。先ほどまで自分のいた場所を見てみると、スパナを握りしめた白咲さんが見える。
おそらく、白咲さんが車体を殴ってくれたおかげで、手を掴んでいた少年が怯んだのだろう。
「っ、」
右腕に鋭い痛みを感じ、そちらの方へ視線を向けると、服は焼け焦げ右腕は赤くむくみ、水ぶくれが生じていた。
かなり深く火傷を負ってしまったようだ。すぐにでも処置を施さなければ、神経にきたしてしまうかもしれない。
「とら、のすけ。白咲さんに、そいつにあまり近づかないよう、伝えて。」
「えっ?」
「早くっ!!」
虎之助は軽く頷き、一旦俺から離れ白咲さんの元へと向かう。
炎上する車からは、ズルリ、ズルリと黒焦げになった体が開いた窓から這い寄るような形で出てきた。
「白咲さん、あいつには近づかない方がいいみたいです。」
「了解、極力気をつけてみるさ。虎、海くんはどうだい?」
「右腕、すごい火傷になってたので、すぐに冷やした方がいいです!」
「じゃあ、虎は俺の車から何か冷やせそうな物を取って、海くんと一緒にここから退避をしてくれ」
「・・・白咲さんは?」
「大丈夫、無謀な事はしないさ。後で2人を追う。」
「・・・わかりました。」
白咲さんと一言、二言何かを話し終えた後、虎之助は白咲さんの車へと駆け出す。
トンネルの中は、だんだんと気温が上昇しているのか、もしくは俺自身の体温が上がってきているのか分からないが、かなり熱くなってきた気がする。
「海くん、ここから抜け出すよ!」
いつのまにか俺の所へ戻ってきた虎之助は、肩に俺の手を回し、立たせようと奮闘していた。
体格差や、虎之助の腕力具合的に、1人で唸り声を上げているだけだが。
虎之助に支えられながらも、ゆっくりと立ち上がり、2人でトンネルの入口へと戻る。
それに気がついたのか、炎を纏ったままの少年であった人物は
『ダメ。一緒。ミンナ、一緒ダから。』
と、体をこちらへと向けてくる。
「君に熱烈な視線を向けている俺の事を無視しないで欲しいな。」
白咲さんは少年に口径部を首元へ突きつけ、言い放つ。
『一緒、イッショウ、イッショ、イッショウだから、ダメ』
少年は微動だにせず、炎と共に、ゆらゆら、ゆらゆら体を揺らしているだけだった。
その隙に、2人で先へと進んでいたが先ほどまで炎を上げていた車が、俺たちを目掛けて突っ込んできた。
「っわぁ!!!」
いち早くその事に気がついた虎之助は、俺を突き飛ばし、虎之助自身も避けることができたようだったが、車はまたこちらへと向かってきた。
狙いは、俺のようだ。
痛む右腕に鞭を打ちながら、立ち上がり車と対峙する。
炎を纏った車は左右に動き、白咲さんと虎之助を、俺に近づけさせまいとしているようだ。
『イコウ』
車がこちらへ突進してきた瞬間
「悪霊退散っっ!!」
と、女性の声がトンネル内に響いたと同時に炎を纏った車は横転していた。
おれの目の前には小柄な女性、そして
「はぁ・・・全く、こんな所にまで遊びに来るなんて、君たちは余程暇なようですね。」
聞き馴染みのある声が、聞こえた。




