episode 4 車
虎之助もトイレから戻ってきたので、再び、暗いトンネルの中へ歩を進める。
さっきのやつに出くわさないように、なるべく音を立てず、周りに視線を配りながらゆっくりと車の方へと向かう。
最初に通った時は車の中で、出る時は全力で走っていた為気がつかなかったが、このトンネルの壁にはスプレーで書かれた落書きがいくつもあったり、所々人形やらマネキンなどが落ちている。
タチの悪いイタズラだろうか?肝試し感覚でこのトンネルに来た人もいるのだろう。
と言うことは、やはりこの先に大通りに出られる道はあるのかもしれない。
それにしても・・・先ほどの黒いあれをじっくり見たわけではない為、確信は得られていないが・・・いや、あれが人であった事を前提に考えるのであれば、『焼死体』に近い何かではないだろうか。そう思った瞬間、背筋が一瞬ゾッとした。
・・・2人に話すのはやめておこう。下手な事を言って場を混乱させるわけにもいかない。もし仮にそうだったとしても、俺たちに出来ることなんて、何もないのだから。
それよりも今は車を直しここから脱出する事だけを考えなければ。
「あっ、2人とも車あったよ!」
「虎丸、声もう少し落とせ」
トンネルの中腹辺りに白咲さんの車がぽつんと佇んでいた。
今にも1人、飛び出して行きそうな虎之助の襟首を掴み、静止する。
「よし、2人とも気をつけてね」
白咲さんが一声かけた後、トランクに積んでいる部品らしき小箱を取り出した後、車のボンネットを開く。
虎之助も、慌てたように白咲さんの方へ向かい、手元を懐中電灯で照らしていた。
2人とは反対の、トランク辺りに立ち周囲を警戒しておくか。
左腕に付けていた時計を確認する。ここへ戻ってきて30分は経とうとしているが、まだ修理が終わる様子はない。
カチャ、カチャ、と僅かに作業の音が聞こえてくるだけだ。
「ふぅ・・・。よし、後もう少しで終わりるよ」
「流石です白咲さん!!カッコいいです!!」
白咲さんは車のボンネットから軽く顔を上げ、顔に付いたススの様なものを拭っていた。
その時、何処からか車のエンジン音がトンネルに反響して聞こえてくる。
車・・・?助かった、街までの道を教えてもらおう。
2人も車の音に気がついたらしく、虎之助はそわそわと落ち着きがない様子だった。
車から離れ、手に持っている懐中電灯を振り存在をアピールしてみる。
やがて、車の音が段々とこちらへと近づいてきた。どうやら、俺たちが入ってきた入り口から来たようだ。
車は俺の存在に気がついてくれたのか、元々ゆっくりだったスピードを更に落とし、車を完全に停車してくれた。
こう言ってはかなり失礼なのだろうが、少し古くさい車だ。正直このタイプの車は、今どこの店に行っても置いていないのではないだろうか。
後部座席側の窓が開き、高校生ぐらいの男の子がこちらへと顔を出す。
「お兄さん達、こんなところで何してるんですか?」
満面の笑みを浮かべながら問いかける彼に少し肩の力を抜き、車の背が低い為俺は少し屈みながら答える。
「あっ、その少し道に迷ってしまって。どこか大通りに抜けられる「海くん早く離れてっ!!!」
急に大きな声を出す虎之助に、驚いて立ち上がろうとするが、その瞬間物凄い力で右腕を掴まれた。
「えっ・・・」
『・・・捕マエタ。』
少年は口元を大きく歪ませながら、幼さを残す顔立ちはどんどん崩れていき、最初にみた黒い、あれへと変貌していく。
そして、俺の腕を掴んだまま、少年の乗っていた車は炎を上げ始めるのだった。
今年中にEP4終わりませんでした…




