episode 4 カーナビ
『その次の突き当たりを右です』
細い道やら、曲がりくねった道を白咲カーが突き進む。
『左です』
『右です』
『100m先右です』
かれこれ、車を走らせて1時間ぐらい経ったのではないだろうか?
祖母の家を出た時は、まだ明るかった空も今では黄昏が綺麗に見える。
山道を走ってる所為もあるだろうが、辺りは薄暗く、少々不気味だ。
「白咲さん、その、俺たちどこに向かってるんでしょうか」
「ん〜、大通りになかなか出ないね」
大通りどころか、山奥まで連れて行かれてる気がするんですが。
「この辺りで車を停車して、もう1度設定し直そうか。」
「そうですね、その方がいいような気がします。」
ぎりぎり車が2台通れそうな道に車を停め、再びカーナビを弄ってみる。
もう、大通りどころか家の方に設定した方が良さそうだ。
「とりあえず、虎丸の家に設定しますね。」
カーナビを入力し直し、車を走らせる。
『この道を真っ直ぐ進んでください。』
しばらくはカーナビに合わせ、真っ直ぐ進んでいたが、車1台通れるのがやっとと言わんばかりの細い道を前に、白咲さんと顔を合わせる。
「白咲さん、引き返した方が・・・」
「抜け道でもあるのかと思ったけど、これはちょっとまずいかもね。」
後方を確認しつつ、ゆっくりと車を下げる。
『この道を真っ直ぐ進んでください』
『この道を真っ直ぐ進んでください』
『この道を真っ直ぐ進んでください』
『この道を真っ直ぐ進んでください』
『この道を真っ直ぐ進んでください』
『この道を真っ直ぐ進んでください』
カーナビから絶え間なく、音声を繰り返す。
不気味な、何かを感じた俺はすぐにカーナビを消す。
『この道を真っ直ぐ進んでください』
「なっ、ナビを終了したはずなのに・・・」
「1度エンジンを切るよ!」
戸惑う俺をよそに、白咲さんは車のエンジンを切る。
カーナビもそれに合わせて画面が暗くなった。とりあえずは、安心、なのか?
「白咲さん、今までにこんな事ってありました?」
「いや、初めてだよ。それに、この車先週車検を終えて帰ってきたばかりだから・・・不具合が見つかれば修理しててくれると思うんだけど・・・」
確かに、先週車検を出していたのなら車に何かあるとは考えづらい。
ディーラーのミス、よりも先に思い浮かぶ。
「白咲さん、もしかしたらまた何かしらの心霊現象に巻き込まれてるのかもしれません。」
「はは、二夜連続で、かな?昨日みたいに話の通じるいい霊だったらいいんだけど」
俺もそう思ったが、カーナビの様子から俺たちに好意的であるとは考えづらい。
意地でも、こっちに来させる。そんな意思すら感じるのだから。
「もし、その霊がカーナビを通じて俺たちを誘い出しているんだったら、カーナビの指示する方とは逆に向かってみるかい?」
「延々と同じような事を繰り返して言われそうですが、それがいいかもしれませんね。」
エンジンを掛けると同時にカーナビからは『案内を再開します。この道を真っ直ぐ進んでください』と音声ガイダンスが流れるが、車を後ろに下がらせる。
先程と同様に真っ直ぐ行くよう繰り返し指示されるが、ひたすら無視を貫く。
「ん、んぁ〜、くそっ・・・なんかちょっとうるさい・・・」
ここでやっと目を覚ました虎之助は、眠たげに眼を擦りながら、数回瞬きした後周りを見渡していた。
「えっ、こ、ここどこ?!」
「そんな事、俺だって知りたいよ・・・」
「虎、あんまり寝坊助だとこの先ホストをやっていけないぞー」
虎之助は少し慌てたように、ダラリと座席に腰掛けていた姿勢を綺麗に正す。
虎之助が起きると同時に、狂ったように繰り返し流れていた音声がぴたりと止んだ。
「・・・カーナビ、止まりましたね。」
「とりあえず、このまま迂回しよう。」
『ルートを変更いたします。このまま、ガケシタニオチテクダサイ』
ノイズ混じりな音と共に、車内が大きく揺れる。
「うわっ!!」
「車がっ」
シートベルトをしっかりと掴み、後ろを振り返る。どうやら、車を後ろに下がらせていた場所は坂道になっていたようで、そのまま滑り落ちるように車が落ちていく。
「くっ、ブレーキが掛からないっ!!」
「虎之助っ!!座席の下に潜り込めっ!!」
ガシャンと大きな衝動を直に感じた。




