episode 4 全力帰宅
やばい。完璧に寝過ごした。
祖母の家へと来ていた、俺と、山田 虎之助、白咲 新さんの3人で、昨日この村にある高塔山へ新月に咲く花を見に行き、村を守る霊達と遭遇。
なんやかんやあって、その人達と楽しく過ごした俺達は朝日が昇った早朝に帰宅し、俺は・・・夕方近くまで爆睡してしまっていた。詳しく知りたい方は、エピソード3を見てください。
「うっかり寝過ごしたってレベルじゃないほど寝てしまった・・・。今日帰る予定だったのに・・・」
ホスト2人組は仕事もあるだろうから、もう1泊なんて悠長な事を言ってはいられないだろう。
周りを見渡して見るが、一緒の部屋で寝ていた虎之助達の姿が見当たらない。もう2人とも居間の方にいるのだろうか?
枕元に置いていた私服を手に取り、急いで着替える。
「うっみくーん、朝だぞー!うっそ!夕方だぞー!」
客室を出ようと荷物をまとめていた所で、虎之助が顔を出す。いつも通りのスーツ姿に間抜け面だ。
「虎丸!?お前何してたんだ??」
「何って、ふみばぁちゃんの荷物を白咲さんの車に積んでたんだよ?白咲さんが海くんは疲れてるだろうからって、僕たちで積みました!!」
とらーんと効果音が聞こえてきそうなドヤ顔に、少々顔をぶん殴りたくなったが、助かったのは事実なので、その拳をぐっとしまい込む。
「あれ?海くん殴らないの?」
「お前は殴って欲しかったのか?ついにそっち系にも目覚めたのか?引くぞ。」
冗談だってば〜と、纏わり付いてきたので急いで本題へと戻した。
「それで虎丸、もう帰る準備は終わったのか?」
「そうだよ〜!荷物積み終わってるから、海くん起きたらいつでも帰れるようにしてました!」
布団を押入れにしまい、荷物を持って虎之助と居間へ急ぐ。
身内の俺が何も手伝わず、寝ていた事にかなりの罪悪感を感じる。
急ぐ、急ぐ・・・急ぎたいのに・・・
「虎丸、お前もっと早く歩きなよ。」
「ホストは常に優雅であれ、慌てず周りを魅了するように、動作には気をつけることって白咲さんがいつも言ってるから!」
自身の足を止め、後ろをのんびり歩く虎之助の額を弾く。うん、いい音が鳴った。
額を抑えながら、虎之助はしゃがみこんだ。
「いったぁ!!何すんのさ海くんのバカ!」
「すまん、いい額だったからつい。」
「あ〜痛かった〜。もう超痛かった!!」
アホな事をやっていないで、早く行こう。
急に冷静になった俺は、虎之助と居間へ向かうのであった。
「やぁ、海くんおはよう。昨日?はいい夜だったね。」
居間へ行くと、ばぁちゃんとお茶を啜っている白咲さんがにこやかに、爽やかに挨拶をしてくる。
「すみません、白咲さん。ここまで連れてきてもらったばかりか、荷物積みまでさせてしまって・・.」
「はは、気にしないでよ。俺がしたくてした事なんだから。昨日はこちらも助かった訳だし、せめてものお礼として受け留めてくれると嬉しいな。」
これ以上何か言うと白咲さんの好意を無下にするのは心苦しいので、素直にもう一度お礼を言って頭を下げた。
「さて、もう少しふみさんとお話をしていたいのは山々なんですが、そろそろ俺たちはお暇させていただきますね。」
「ありゃあ、もうそんな時間が経ったとね。今日まで泊まっていかん?」
「いやぁ〜、僕も今日まで泊まっていきたいんだけど・・・諏訪さんがね・・・」
「あぁ、うん・・・諏訪さん、うちの職場のオーナーがちょっと・・・」
ホワイト・キャッスルのオーナーも大変だな。まぁ、2日もNo.1、No.2が店に不在の状況は店側からしたら大きな穴だろうし。
「あっ、海ちゃん。うちの人も先にそっちへ連れて行っとって。」
車に乗り込む前に、ばぁちゃんは1つの黒い、祖父の位牌を俺に渡してくる。
「爺さん、ちょっと先に娘の方に行っといてね。後で爺さんが好いとったお饅頭お供えするからねぇ」
ばぁちゃんから、位牌を受け取り風呂敷に包んでから、を自分の持っていた鞄へ丁寧しまう。
「それじゃあ、ふみさん。旦那さんは責任を持って娘さんの家まで届けますね。」
「ばぁちゃん、また来週ぐらいに母さんと父さんが迎えに来るよ。」
「そんじゃあ、それまでに近所へご挨拶行かんといけんね。」
「ふみばぁちゃん!また僕にも饅頭作ってね!」
「うんうん、饅頭楽しみにしときんしゃいね。」
帰りは俺が車の助手席に座り、大通りに出られるようカーナビを操作する。
『道案内を開始します』
機械音声を認識した後、祖母へ手を振り車を走らせた。
しばらく走ると、やはり疲れていたのか、後ろへ座っていた虎之助はすぐに眠りに落ちたようだ。
『安全を守って、指示に従ってください。その先、右です』
カーナビの音声だけが、車内に聞こえる。




