episode 3 新月に咲く花
先ほどと同様に先頭を歩く五十六助さんの案内により俺たちは頂上を目指す。
俺自身正直花には興味ないが、虎之助と白咲さんは楽しそうに山道を歩いている様子だった。
虎之助は・・・白咲さんに肩を借りながら歩いているようだが、身長差からかかなり歩きづらそうだ。と言うか、あれでは余計に足首に負荷が掛かってしまう。
「虎丸、非常に言いづらいんだがそれだと余計に足首に負荷が掛かっているぞ?」
「えっ、すまない。俺のやり方がおかしかったかな?」
白咲さんは少し慌てたように、自身の肩に捕まらせていた虎之助の手を軽く下ろす。
「いや、白咲さんが悪い訳ではないです。むしろ肩の貸方としてはあってますが・・・虎丸との身長差があるのでそれだと少し難しいですね。」
俺たちの様子を少し後ろで見てみていたまめ太郎は虎之助の横に立ち、虎之助を軽く見上げてにっこりと笑う。
『んじゃあ、おいらが虎之助の手助けするよ!高いより低い方がいいんじゃなかと?』
「ん、まぁ高いよりは・・・」
まめ太郎は虎之助の腰ぐらいの身長だし、肩に負担がかからない程度に歩数を合わせれば、さっきよりは全然楽になるだろう。
ただ問題は、まめ太郎自身に触れることができるのか。
いや、白咲さんと五十六助さんは組手?をしていたし恐らく触れることができる。
虎之助に視線を向ける。「ありがとう!」と言いながら、まめ太郎の肩に手を乗せ歩き出していた。
虎之助はどうやら触れることができるみたいだ。なら俺に何か問題があるのかもしれない。
「あの、五十六助さん。」
『ん、どうかしたのか海くん。』
「いや・・・その、ちょっといいっすか?」
五十六助さんからかまわないよ、と返答をもらった後、軽く頭の兜に触れてみる。
ゴツゴツとしたような感触を感じるが、冷たくも、温かくもない。不思議な感じだが、触れることができた。
『おや、兜に興味がおありで?』
「あっ、え、あー、そう!かっこいいなぁって。あんまり見る機会も、触る機会もないし!!」
あまり変な人に思われたくないと思った俺は、五十六助さんより前へ出る。
今は、触れることができた。やはり何か、条件でもあるのだろうか。
色々と考えるべき事は多そうだが、今は頂上へ行くことに集中した方が良さそうだな。
『しっかし、懐かしかー。前もおいら、虎之助に手を貸してやったたいね。』
「えっ、そうだっけ??」
『そうたい。昔おいらが暇つぶしに川で浮かんでたら、急に虎之助が川に飛び込んで、おいらの事助けようとしてくれたんよ?』
後ろで聞こえてきたまめ太郎の言葉に俺はあっ、と思い出す。
そうだ、昔虎之助が川で人が溺れてるって言いながら川に突っ込んで逆に助けてもらっていた・・・
「そうか、まめ太郎の事どっかで見覚えがあると思ったらあの時の子か」
『やーっと思い出したと?あん時おいらすっごい驚いたばい。おいらの事見えるだけじゃなくて、触られたり、触る事もできたんだから。』
先頭を歩いていた俺は、少し足を止め、後ろを振り返る。
自然と全員の足が止まった。
『おいら、2人と遊べたことが1番楽しかった。2人と出会えて、話せて本当に良かった。』
年端もいかない子が殺されなければいけない時代が確かに存在した。
今のこの世は、彼られにどう写っているのだろうか。ただ、今はまめ太郎の笑顔だけが救いのように感じた。
『さぁ、みんな頂上まではあと少しだ。そこまで頑張ろう』
五十六さんは1つ手を叩き、先を促す。
全員、おーと声を上げながら先へと向かうのだった。
しばらく歩いただろうか。俺の目前には、白い花が咲き乱れていた。
新月の為月明かりもない。なのにその花は白く輝いているように見えた。
「これは・・・凄いな。どんな花束も、今この瞬間に咲き乱れる純白の花々には敵わないだろうね」
白咲さんほどキザな台詞は言えないが、目の前の花々は見惚れるほどの美しさだ。
『ここの花だけは、今も昔も変わらず美しいまま咲き続けているな。』
「変わらないものもあって、変わるものもある、まさに温故知新ってやつだね!!」
「虎丸、意味知って言ってるのか?」
「ニュアンスで言ってみた!!」
「間違ってるぞ。」
「じゃあ無かったことにして!」
慌てたように、虎之助はこちらへと手を合わせて軽く頭を下げる。周りからは笑い声が湧き上がっていた。
各々で話が広がり、まるでちょっとした宴会のように盛り上がる。ホストとはどう言った仕事なのか。今俺は医者になる為に勉強している、とか。携帯を見せてあげたりしていたら、いつのまにか日が昇る時間となっていた。
『さぁ、そろそろ時間だ。我々はまたこの山とともに村を見守ることにする。』
「五十六助さん、今度ここへ来るときはいい酒でも持ってきますね。」
「白咲さん!ここでシャンパンタワー作りましょうよ!」
「虎丸、お前絶対にやめろよ。」
五十六助さん達は、俺達と対面するように並び、優しく微笑みを浮かべ、軽く頷く。
まめ太郎は少し泣きそうな顔でこちらを見ていた。
『そうだ、ここ最近隠世と現世の並行が崩れてきている。何かの前兆でなければ良いのだが・・・3人とも、気をつけてくれ。』
並行?何かしらのバランスが存在しているのか?心に留めておいた方が良さそうだ。
「まめ太郎!!また一緒に遊ぼうぜ!今度は王様ゲームとか教えてあげるよ!!」
『虎之助・・・おう!楽しみにしとくたい!』
日が昇り、白い花が萎むにつれ、五十六助さん、まめ太郎達の姿が薄く、薄くなっていく。消えるその瞬間まで手を振り、別れを惜しむのだった。
「さて、2人とも。俺達もそろそろ帰ろうか。」
「はい!白咲さん!!」
「眠い・・・」
俺たち3人は来た道を戻ろうと歩みを進める。1度だけ振り返り軽くお辞儀をした後、山を下っていくのであった。




