episode 3 当初の目的
甲冑の男は想像通り、伝記に載っていた『髙塔 五十六助』さんご本人であった。
脱ぎ捨てた甲冑はいつのまにか着直し、ご丁寧に虎之助の下まで案内してもらっている。
「すみません、なんか案内までしてもらって・・・」
『いや、元々我々の所為だからね。これぐらいの事はさせてくれ、海くん。』
優しげな笑みを浮かべる髙塔さんに、沸々と疑問が湧き上がる。どうして、あんな事をしていたんだろうか。
周りにいる村人達も先ほどまでは、恨めしそうに、おどおどしくこちらを見つめていたにも関わらず、今は和気藹々と白咲さんに話しかけていた。
『兄ちゃん!あんた強いな、よぉ素手で刀持ってる五十六助さんに挑んだものよ!!』
「はは、慣れていましたので」
『なんだ、お侍様はまだこのご時世にもいるのかい?!』
格好や、彼らの経緯から、江戸時代ぐらいに生きていた方々であるのは間違いないはずなのだが、どこか少しだけ現代的と言うか、この時代の事も知っているような口ぶりだ。
『我々は、隣国の諸国から争いに巻き込まれ、命を落とした。村人達をも巻き込んでしまった事、そして無残に殺されたことにより、当初は恨み辛みでこの世へと止まってしまった。』
ただ真っ直ぐに前を見たまま、五十六助さんは俺の方を見ることなく話しかけてくる。
甲冑のせいと、辺りが暗い為その表情を読み取ることは出来ないが、きっと悲痛に歪められているのであろう。
『しかし、な。僅かに残った村人達は荒廃したこの村に残り、田畑を耕し子をなし、村をここまで立派に再建してくれた。その過程を見ていると、嬉しくて、な。それからは村の人々を子孫代々見守ることにしたのだよ。村一面を見渡せる、この高塔山で』
一瞬、足を止めこちらを振り返り、ニカっとした豪快な笑顔を向けてくれた。
人望が厚く、懐の深い人物。
この人は、本当に凄い人だったんだな。だからこそ、村人達はこんな姿になっても彼に付き従うのだろう。
『君は、ふみちゃんのお孫さんだろ?昔虎之助くんとよく遊びに来ていたな。それがこんなに大きくなって、見違えたよ。」
虎之助くんは、あんまり変わっていなかったからすぐ分かったけど。
と、虎之助本人が聞いたらそんな事ない、と地団駄を踏みそうだ。
『たまにこの山へ、良からぬ事を考える者が入り込んでな。軽く脅せば、大概は出て行くのだが、今回は少々興に乗じてしまったようだ。白咲くん、と言ったかね。君には大変申し訳ない事をしてしまった。』
「いや、俺も久々に本気を出させてもらいましたよ。こんな事を言ってしまうと不謹慎かもしれませんが、楽しかったですよ。」
村人達に囲まれる白咲さんは軽く手を挙げ、五十六助さんの謝罪を制する。
2人の会話の合間合間に、聞き慣れた声が楽しげに聞こえてきた。
「んで、その時白咲さんが………それから白咲さんが…………その後白咲さんが……」
可哀想に。
山田 虎之助の白咲さん自慢の洗礼を受けている人が・・・豆太郎さんだっけ?
『も、もういいよ虎之助。シロサキさんって人が凄いのはよく分かったから。』
茂みを掻き分けた先に、虎之助が木にもたれかかり、座っていた。その傍らには小さな、10歳ぐらいの子供が呆れながらも虎之助の話を聞いてくれていたようだ。
あれ、あの子供・・・どこかで見たことがあるような・・・
「虎!!」
白咲さんは虎之助の下へと駆け寄り、その場で片膝をつく。
「お前、大丈夫か?怪我とか、していないか?」
「白咲さん!!よかった!無事だったんですね!!あの、すみません、別れた後合流しようと思ったんですが・・・その、ちょっと足を滑らせて・・・捻ってしまったみたいで。」
その後、豆太郎と五十六助さんに助けてもらいました!と高らかに話す虎之助の下まで向かい足首を掴む。
「いっっっっっ!?!?うぇぇう、海くん!?なんでここにいるの!?」
「・・・腫れては、無さそうだな。一応、固定だけはしておくか。」
近くに川の水があったので、ハンカチを濡らし、虎之助の足首を冷やす。そのまま持ってきていた包帯で、虎之助の足を固定する。
とりあえずは、安静にしていれ大丈夫だろう。
「虎丸、お前は今日絶対安静だ。多少なら歩いても問題無いが、走るな飛ぶな騒ぐなよ。」
「えぇ!せっかくここまで来たのに・・・新月にしか咲かない花を見に来たのに・・・」
『なんだ、君たちはあの花を見に来たのか。なら、君たちがよければ我々で案内させてもらうよ。』
是非、お願いします。
次でEP3最終回です。




