episode 3 おそらく、ケンカ
「ケガをしたら俺が治してあげるので安心してください。」
幽霊に触れもしないのになんで、俺あんな事を言ってしまったんだろう。数刻前に言った自身のセリフに、羞恥心と後悔が全身を駆け巡っていた。
いや、そりゃ白咲さんが怪我をしたら治療する気ではいたよ?携帯医療キット持ってるし。
でも、そうじゃなくて、なんかこうちょっと漫画みたいな展開だったから、気持ちが高ぶっていただけで、まさか幽霊に触れないなんて、いや、触れないことがか本来普通なはず・・・
なら
【どうして今まで触れることが出来たんだろうか?】
ハッとしたように白咲さんへと視線を向ける。俺が触れないなら、白咲さんは大丈夫なのか?
俺に背を向けている幽霊達を避けながら前に・・・進むことが出来なかったので、彼らを貫通する形で前へと出た。
目前で、2人は激しい攻防戦を繰り広げていた。甲冑の男は、白咲さんへ刀を振り下ろし、それを白咲さんは手に持っていた懐中電灯で受け止める。
刀ごと強く相手に懐中電灯を押し込み隙を作ると、すかさず脇辺りを目掛けて蹴りを入れた。深くめり込んだように見えたが、少しよろけただけで、すぐに体制を整え斬りかかる。
甲冑の男には、触れることができるのだろうか?
あの男は、他の、周りにいる幽霊達とはレベルが違うように見える。
そう言ったオカルト的な事に詳しくはない為、ハッキリと明確には言えないが。
今度、中原さんにでも聞いてみるしかない。今こんな事を考えても解決する事でもないし。
視線を再び白咲さん達の方へと戻す。
甲冑の男は、想像以上のスピードで白咲さんとの間合いを狭め、持っていた刀を地面に投げ、殴りかかっていく。
それを綺麗に受け流し、白咲さんは手に持っていた懐中電灯を地面に投げる。
スーツの上着を投げ、中に着ていたシャツの襟首を緩め、ニヤリと笑っていた。
先ほどまでは、少し張り詰めたような、重苦しい雰囲気だったが、今は少し楽しんでいるような、まるで手合わせでもしているかのような空気だ。
甲冑の男も、白咲さんに向き合ったまま着ていた甲冑を脱ぎ捨てその素顔がはっきりと見えた。
想像以上に若い青年だ。見た目だけだと、白咲さんより少し上ぐらいに見える。
周りの幽霊達も、先ほどまではただじっと様子を伺っているだけの雰囲気だったが
『頑張れ!!五十六助さん!!』
『わっけぇ兄ちゃんも負けんじゃねぇぞ!!』
と、まるで野球でも応援しているかのように声を上げていた。
って、俺らこんな事をしている暇ではない!!虎之助、虎之助を一応探さないと!!
「白咲さんっ!!虎之助探さないと!!」
「あっ、そうだった!!すまない、虎之助と言う俺と似たような格好の男を見なかったかな?」
白咲さんは甲冑の男の拳を受け止めたまま尋ねる。
甲冑の男も『あぁ』と呟くと、その拳を下ろす。
『虎之助くんなら、あっちの方で豆太郎と一緒にいるよ。』
甲冑の男は、すんなりと指をさしながら虎之助の事を教えてくれた。
白咲さんも、戦闘態勢を解き自身のスーツを拾い上げる。
白咲さんに近づきながら、それとなく甲冑の男に触れてみようとしたが、先ほどの幽霊達と一緒で、ただ空を切るだけだった。
ちょっと短くなりました。




