episode 3 無言の信頼
白咲さんと無事合流を果たした俺は、虎之助を探す為再び山の中を歩き出す。
山は相変わらず暗い。
懐中電灯の光が2つ分になったお陰か、先ほどより幾分かマシになったとは言え、足元にも、甲冑の男とやらにも気をつけなければならない。
先に俺が前を歩き、その後ろを白咲さんが歩く形を取っている。
なるべく足音を立てないように慎重に歩く。
「とら、無事だといいのだが・・・すまない、海くん。君まで巻き込むような形になってしまって。」
「いえ、白咲さんのせいじゃないですよ。それに、最近こう言った事多いので大丈夫です。えぇ、本当に・・・多いな。」
あっ、そうだ。と足を止め、先程拾ったピアスの存在を思い出す。ポケットに入れたハンカチを取り出し、そっと白咲さんへと差し出した。
「これは?」
「白咲さんと合流する前に、車の付近で見つけたんです。白咲のですか?」
ハンカチを広げ、赤い石の付いたピアスを見せる。白咲さんは驚いたように、髪で隠れていた自身の耳に触れ、少し焦ったような表情を見せた後、ホッと息を吐く。
「俺のだよ、海くん。ありがとう、本当にありがとう。」
顔を和らげ、そのピアスを手に取り綺麗な動作でそれを耳へと付けた。
「大事な物だったんですね。」
「あぁ、一生涯」
白咲さんは深く瞳を閉じた後
「さぁ、早く行こう」と笑って再び歩みを進めた。
詮索するつもりはない。あのピアスが白咲さんにとって何よりも大事な物である事は明白だから。ただ、ピアスを見つけてよかった。
それだけは心の底からそう思える。
そんな事を頭の片隅で考えていた時、白咲さんがピタリと足を止める。風が吹くたびにざわざわと音を立てる木々に紛れて
背後からカシャン、カシャンと俺たちのものでも、ましてや虎之助のものとも違う足音が聞こえてきた。
事前に白咲さんから話を聞いていた為、大方の想像はつく。
恐らくこれは、甲冑が擦れる音だろう。
白咲さんの方に視線を向けると、その整った顔からは一筋の冷や汗が流れていた。
甲冑の音は徐々にこちらへと近づいてくる。
迷いなくこちらへと向かってくる様子から、俺たちの場所はバレているのだろう。
顔を合わせ、お互いに小さく頷き真っ直ぐに走り出す。
なるべく距離を取れたらと思ったが、そう簡単には行かないようだ。
俺たちの前方には夥しいほどの人々が行先を塞いでいた。
袖のない丈が少し短めの着物。その人たちは白咲さんが言っていた通り、一目でこの時代の人ではない事が分かる服装をしている。
「白咲さん・・・後ろ、まだ下がれますか?」
「どうだろうね。俺の前方にいる男を倒したら下がれるかもね。」
俺に背を向けている白咲さんの眼前には、甲冑を着た男がゆっくりとこちらへと近づいてきていた。
横に逸れることも考えたが、俺たちを取り囲むように、周りは人ならざるもの達が道を塞いでいた。前に進む事も、後ろへ下がる事も容易ではなさそうだ。
「海くん、自分の腕に自信はあるかい?」
「さぁ、どうですかね。少なくとも、1発、2発てやられる程やわな身体はしていないですよ。」
白咲さんと背中合わせになりながら、お互い真っ直ぐに霊たちから視線は逸らさず言葉を交わす。
「俺が道を作るから逃げろって言ったら?」
「逆に俺が白咲さんに言ったら?」
逃げないね、と少し楽しげな声が背中から聞こえる。
お互い逃げる気はないなら、やる事は1つ。
「ケガしないようにね。」
「ケガをしたら俺が治してあげるので安心してください。」
真っ直ぐ走り出す。白咲さんは甲冑の男に、俺は前方を塞ぐ霊たちに。
とりあえず突破口を探る為、真っ直ぐに男性の霊へ向かってタックル、もしくは退けることができるか試してみようとしたが、霊に触れる前にその人影は蜃気楼のように通り抜けゆらゆらと揺らめくだけだった。
「えっ、はぁ?」
何も掴むことも、触れる事もできず少しよろける。後ろを振り返ってみるが、こちらを見る様子はなく、背を向けて白咲さんの方を見ているだけだった。




