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episode 1 霧の中


まだ昼頃にも関わらず、辺りは暗く感じる。森の中なので、仕方がないだろうが、それだけじゃない、何かを感じた。


今から向かう場所が廃神社の為、気持ちが億劫になっているのだろうか?



「うぇ、なんかやっぱり視界悪くなってない?」


相変わらず、口を閉じることを知らない虎之助が目をこすりながら言う。


森に入る前にも、確か似たような事を言ってたっけ?

初めは気にもしていなかったが、虎之助の言う通り、森全体に靄のような白い霧がかかって見える。


これ以上、視界が悪くなったら大変だな。


「虎丸、これ以上森を歩くのは危険だ。一旦車の方に戻って様子を見よう。霧が晴れないようなら、今日は中止だ。」


えぇ〜と、不満げな声を上げるが、虎之助自身もこれ以上の探索は危ないと踏んだのだろう。特に反論は無かった。


「あっ、そーぉだ」


虎之助は胸ポケットから何やら名刺のようなものを取り出すと、それをお生い茂る木の幹辺りに挿す。


「何やってんの、お前。」


「僕がここまで来たさ、って証をちょっとね。」


ちょっとキラキラとした名刺は、嫌に目立つ。『不破 タクト』こいつの源氏名だろうな。興味ないから聞かないが。


「早く行くよ、虎丸。グズグズしていると帰れなくなるぞ。」


「はいはーい。」


行きとは違い、今度は俺が先行して森を歩く。

森に入ってそんなに歩いてはいないから、すぐに車まで戻れるだろう。


そう、思っていた。


歩いても、歩いても一向に車までたどり着けない。何故?

もう、数十分は歩いてるはずだけど・・・


「海くん、ちょ、あれ!」


珍しく、少し慌てた声で虎之助が指差す。

目線をそちらへ向けると、そこには虎之助が挿した、キラッキラの名刺がそこにあった。


戻ってきた?いや、でも俺たちはただ真っ直ぐ歩いてきただけで、道なんて逸れていない。


「名刺が、僕の魂を引き寄せた・・・?」


「何言ってのお前。とりあえず、もう一度引き返そう。」


霧が、先程より濃くなってきた。段々と先が見えなくなってきている。

流石にこれはまずい。ただでさえ慣れない場所、森に来ているのにこれ以上のトラブルはごめんだ。


このままでは間違いなく遭難する。


「虎丸、軽く走るぞ。」


「おーけぃ!!」


足の遅い虎之助に合わせつつ、森を駆ける。霧が背後から迫ってくる、そんな錯覚にすら襲われる。

走って、走って、走って・・・



「なん、で・・・くそっ!!」


また、戻ってしまう。出られない、ここからっ!!



「海くん・・・霧が・・・」


森全体が、霧に覆われる。周りは白く、先なんて見えない。


「一旦、落ち着こう。多分、どっかで道を間違えてるんだろう。霧が晴れて、視界がクリアになったら動き出そう。」


俺の言葉に、虎之助は頷く。

そう、道を、道を間違えてるだけ。背中に嫌な汗が伝うが、気づかないふりをした。




「うん?」


ひたすら一方的に喋り続けていた虎之助が、辺りを見渡す。


「どうした虎丸?」


「いや、なんか一瞬嫌な感じがしたんだけど」


虎之助の言葉を遮り、何か、音が、聞こえる。

不快になるようなガサガサとした、何かが這うような音。

それは、静まり返ったこの森では嫌に大きく響くのだった。



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