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episode 2 エピローグ


誰もいない、白い箱のような部屋のベッドで、静かに横たわる。


白い天井を見上げながら、時折見かけるシミを見つけたりしながら1日を過ごす。


後、何日生きられるだろうか。そもそも、私は生きていたいのだろうか?

いや、そんな事は今更だろう。死ぬ気は無い。自殺願望などもないし、死にたいと思ったこともない。


けれど、生きたいのか、と問われても答えられない。

そんな日々を、数十年と過ごしてきた。だからこそなのか、病気になった今も延命治療を望む事は無かった。


はづきといる時は、楽しかった。無我夢中で、あれも、これもやってみたくて、それにはづきが付いてきてくれた。


だからこそ、忙しい中で充実した1日を得られたのだ。


彼女が死んでしまってから、私の時間も、感情も死んでしまったのかもしれない。


コンコン、と控えめなノックが扉の向こうから聞こえてくる。看護師さんだろうか。


「はい、」

と答えると同時に、想像通り、私を担当してくださる看護師さんが色とりどりな、大きめの花束を持って入ってきた。


「藤原さん、気分はどうですか?」


「今日も変わりませんよ。それより、その花束は・・・」


「あぁ、これ藤原さんに渡してほしいって若い男の子2人が持ってきてくれたんですよ。」


2人ともイケメンでしたよ〜、と楽しそうに、目の前の看護師さんは言う。

若い男の子、にすぐピンときた。おそらく、前ここに来た子たちだろう。


「ありがとう。」


「いえいえ、あっ、それとこれも渡してほしいって」


看護師さんから、色とりどりな花束と見覚えのある、大切にしまっていたはづきの遺品が渡された。


「それじゃあ、また後で来ますね。」と一言告げ、看護師さんは病室を後にした。1人になり、手元の箱に手を掛ける。

鍵は解除されているみたいで、すんなりと箱は開いた。


中にはノートが2冊、私が彼らに預けた家の鍵、それと真新しい桃色の封筒がそこにあった。


恐る恐る、その桃色の封筒を手に取る。中に手紙が入っており、それをそっと開いた。



藤原 深雪様


お身体の調子はいかがでしょうか?本来であれば、直接報告をするべきなのでしょうが、私たちと顔を合わせて、お身体に障ってはいけないと思い、手紙を書かせていただきました。

藤原さんのご協力もあり、はづきさんは無事に輪廻の輪に戻ることができました。

おそらく、南十字路に現れる事はもう無いだろう。とその筋に詳しい方が言っていました。

シンプルなノートははづきさんの日記になっています。

はづきさんが最後に何を思い、何を考えていたのか、そのノートに記されていました。

これを、貴女からはづきさんに返してあげてください。


ありがとうございました。


上条 海



手紙をそっと閉じ、ノートに目を向ける。

1冊はシンプルなノート、もう1冊は和柄のブックカバーが付いたノート?だ。


シンプルなノートは日記と書かれていた。では、もう1つの方は?

和柄のノートを手に取り、1ページ目をめくった時、頬に涙が伝う。


あぁ、あの子達が今ここに居なくて、よかった。きっと、醜く泣き叫び彼等を罵っていただろう。はづきを救ってくれた彼等を。特に、あの男に似たあの子を。


そうだ、これからの事を考えよう。天国に行けたら、またお店を開こう。楽しかったあの時のように。

そうしたら、きっとはづきがまたお店のドアを叩いてくれる。今度は、子供も連れて。




お店の続きを、また一緒にやりましょう。




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