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episode 2 ありがとう


桜子ちゃんの容赦ない斬撃に、はづきさんはユラユラと体を揺らめかせながら手にした刃物を構え、対峙していた。


まずは、桜子ちゃんをどうにかしないと。

自身で巻いた種だが。


「桜子ちゃん!虎之助が桜子ちゃんの名前を呻きながら呟いていたよ!!」


俺の言葉に桜子ちゃんはキラキラと目を輝かせながら


「兄様!!?兄様っ!!桜子が今、今兄様の下まで参りますね!!」


と桜子ちゃんは刀を鞘に収め、中原さんの足元で寝っ転がってる・・・いや、気を失っている虎之助へと駆け足で向かっていった。


桜子ちゃんがその場から離れ、はづきさんは俺の方に目を光らせる。

先程まで桜子ちゃんに向けていた刃物をこちらへと持ち直す。


「はづきさん・・・」


『亡者は、生前心に強く残る物や言葉などに反応を示しますよ。』


中原さんの言うことが正しいとするなら、そして今まで得た情報を組み上げ、はづきさんが望むとされる言葉は・・・



「俺は、医者です!!はづきさん、お子さんは無事です。もう、安心してください。」


はづきさんが亡くなられた場所は、この神社の階段下だと、藤原さんは言っていた。

その時妊娠されていたとするなら、お腹にいた子供も・・・


日記で、守らなければいけないものがお腹の子供だとするならば、はづきさんが望む言葉はおそらく、医者の助け。だから・・・


「はづきさん、大丈夫です。もう、大丈夫ですから」


俺の言葉にはづきさんは刃物を落とし、顔を上げた。

そこには先程までの狂気じみた表情などではなく、涙をその瞳に溜めた一人の美しい女性がそこにいたのだ。


『お、医者・・・様?』


澄んだ声が頭に響くように聞こえる。はづきさんの言葉に俺は静かに頷いた。

彼女からはもう、敵意を感じない。


「はい、はづきさん。貴女に何があったのか、教えてもらえませんか?」


『・・・私、彼に子供が出来たこと、そして彼と別れる事を告げたの。彼は、驚いていたけど、何も言わなかった。もう話すことはないと、私はその場を後にしたの・・・そしたら、急に背中を押され、そのまま下まで落ちていったわ。階段の上に彼の姿があったから、私、必死にお願いしたの。医者を、救急車を呼んでって・・・お医者様、やっと、やっと来てくれたのね・・・』


彼女の言葉に、俺は静かに頷く。彼女の不安を取り除けるように、もう、苦しまないで済むように。


「上条くん」


そんな俺たちに、中原さんと虎之助をお姫様抱っこしている桜子ちゃんが近づいてくる。


『ヒイッ!?』


はづきさんは桜子ちゃんの姿を見るなり、怯えたような表情で俺たちから一歩下がった。

桜子ちゃん、どんだけはづきさんにトラウマを植え付けていたんだ?


「・・・なんだか私、怯えられてます?」


「怯えられてますね、確実に」


なるべくはづきさんに桜子ちゃんの姿を見せないように、俺は山田兄妹の前へと立つ。

中原さんが俺たちより一歩前へ出て、はづきさんに一礼して見せる。


「はづきさん、貴女のお子さんが天国でずっと貴女を待っています。どうか、寂しがりなあの子のもとへ行ってあげてくれませんか?」


はづきさんは、俺たちを見回した後静かに頭を下げ


『ありがとう、ありがとう』


と優しく微笑んでその場から静かに消えていった。もう、彼女がこの世界に姿を現わすことはないだろう。何となくだけど、直感的にそう感じた。


「いっっっったぁぁ!!!」


虎之助の声に驚き振り向くと、何故か地面に寝そべっている虎之助が目に入る。

高価そうなスーツや、無駄に美形な顔には土が所々に付いていた。


「兄様!良かった、ご無事で!!」


虎之助を落とした張本人であろう桜子ちゃんは、虎之助へと抱き着く。おそらく、桜子ちゃんが抱えている時に虎之助が目を覚まし、そのまま地面へと落としたんだろうなぁ。


「なになに?!えっ!?ていうか海くん酷くない!?急に殴るなんて!」


やばっ、オボエテタンダネ。


「・・・殴る?海さんが?殴る?」


虎之助に抱きついたままで表情は見えないが、桜子ちゃんの背中には般若のようなオーラと言うか、殺気と言うか、そんな物がハッキリと見えた気がした。


「あっ、えっとはづきさんは!?」


「君が夢の国の住人になっている間に、無事成仏されましたよ。」


呆れたように目を細め、中原さんがため息混じりに言う。


「中原さんは、どこまで知っていたんですか?」


「さぁ、どこまで知っていたんでしょうかね。」


肩をすくめ、教える気は無い、と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべていた。


「少なくとも、僕一人でははづきさんとお会いする事も出来なかったので、その点では上条くんに感謝していますよ。」


「会えなかった?」


「もう知ってるとは思いますが、はづきさんが姿を見せるのは決まって身長の高い男の前だけです。だから、僕が南十字路を通っただけでは意味がない。だからこそ、君が『囮役』として必要だったんですよ。まぁ、君と同じぐらいのサファリ君でも良かったのですが・・・」


彼の携帯は、だいたい圏外なのでと中原さんは言う。あぁ、そう言うことか。ならば、最初からそう言えばいいのに。


「そう言えば最初電話した時、手を引けって言ってませんでした?」


「そう言えば、君は手を出すでしょう?」


なんだか、今回中原さんの掌で踊らされていた感があるな。


「兄様、あそこに紙のような物が落ちてますよ?」


「何あれ?すっごいキラキラしてるけど・・・うわぁ・・・」


先程まではづきさんがいた場所に虎之助が向かう。何かを拾い上げたかと思うと、首を傾げていた。どうかしたんだろうか?


「虎丸、どうしたんだ?」


「虎之助だってば・・・うみくぅ〜ん、これ見てよ。なんでか知らないけど、僕の名刺がある〜」


虎之助が拾ったものは、ド派手なキラキラした、『ホワイト・キャッスル 不破 タクト』と書かれた虎之助の名刺であった。

なんでこんな物がここに・・・あっ。


「そう言えば、虎之助の名刺がお札代わりになるかと思って一回はづきさんに使ったな・・・」


何となくだが、そこからはづきさんの様子がおかしくなった気もする。ホストがどうのって言っていたから、この名刺の所為で恨みを買ったのか?

いや、でもこの名刺だけでホストである事が分かるのかな。店名は書いてあるが、ホストだなんてどこにも記入されていない。


「それで思い出しましたが、海さん。私が預けた大事な写真はどこですか?」


「・・・・」


何処に、やったかな?


「海さん、ちょっとお話があるのですが・・・少しお時間よろしいですか?」


効果音をここで入れるとするならば、『ゴゴゴゴゴゴ』と、まるで閻魔大王が地獄の底から這い出てきたかのような笑みを浮かべ、一歩、また一歩近づいてくる桜子ちゃんが物凄く怖かったので、俺はすぐにその場を後にした。


「ちょ、海くーん!!」


「はぁ、やれやれ」


桜子ちゃんには、後日虎之助プライベートベストショット写真で許してもらえることに成功しました。



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