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episode 2 鍵開け


ストーカー女、はづきさんの手ががりを掴んだ俺たちは、次に取るべき行動を話し合った。


桜子ちゃんに渡したアンティーク製の箱を早急に開けてもらいたかったが、桜子ちゃんは虎之助の前で猫をかぶっている為、なかなか鍵を開ける事が出来ない。


まぁ、移動しながら開けるのも大変だろうし、思った以上に複雑な作りらしいので、少し時間はかかるだろう。


時刻は夕方に差しかかろうとしている。1度解散し、家に帰ろうと思ったが俺の家も、虎之助の家もはづきさんに知られているのなら、あまり得策ではない気がした。


それよりは、箱を開けてしまう方が優先だと考えた俺は南相馬神社へ向かう事を提案した。

もしかしたら、はづきさんと話し合う事ができるかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら、俺たちは神社へと向かうのだった。

2人も、特に反対意見は無いみたいだし。


「流石にこの時間ですと、この間の奥様方はいらっしゃいませんね。」


前回来た時とは違い、人っ子ひとり見当たらない神社を見回しながら、桜子ちゃんは一息ついていた。

あの長い階段は、やはり少し答えるらしい。


体力が著しくない虎之助なんかは、まだ神社に到達すらしていない。

虎之助がまだこちらに見えていない間に、桜子ちゃんは箱を取り出し、手元を忙しく動かす。

一点の曇りなく鮮やかに行なっている作業は、ピッキングである為複雑な気持ちでそれを見つめる。頼んだのが俺自身である為、何とも言えない。


「ぜぇ、はぁ、はぁ、はぁ・・・ふ、2人とも、は、速いね。」


「兄様、大丈夫ですか!?申し訳ありません、兄様を置いて行ってしまうなんて・・・」


「いや、い、や。先に行ってって言ったの僕だし・・・」


虎之助は大きく息を吐き出すと、高価そうなスーツなど気にする様子もなく、地べたに座り込んでいた。


「虎丸、座るなら、向こうの方で座ってた方がいいんじゃない?スーツ汚れるよ」


俺は、前回奥様方が集まられていた場所を指差す。あそこなら、少し階段上になっているので、椅子の代わりになるだろう。


「あー、ありがとう海くん。向こうで座ってる〜」


桜子ちゃんの手を借りながら、虎之助はゆっくりと歩いて行く。

さて、俺はどうしようか。そう考えている矢先、神社の階段付近で人影が見えた。


一瞬、はづきさんか?と思ったが、ジッと目を凝らして見てみると、それは見知った人物であった。


「・・・中原さん。」


「やぁ、上条くん。やはり、ここにいたんですね。」


中原さんは、被っていた帽子を直しながらゆったりとした足取りでこちらへと近づいてくる。


「どうしてここに?」


「僕もこの件について調べていたんですよ?過去の前例などから・・・僕がここへ来てもおかしくないのでは?」


不敵に微笑みながら、ぐるりと神社を見回し、山田兄妹へと目を向ける。


「あぁ、山田兄妹さんと一緒だったんですね。それはよかった。」


中原さんは帽子を深くかぶり直す。中原さんの真意が読み取れない。この人は一体何を考えているんだ?


「そろそろ、物語の幕引きでもしましょうか。彼女も、それを望んでいるでしょう。」


陽が落ちる蜃気楼の中、ゆらゆらと人の影が姿を形成しだす。

赤いワンピースに、黒い長い髪。

その正体を知っている。『はづき』さんだ。


「はづきさん・・・」


夕日をバックに、ゆらりゆらりとこちらへ近づいてくる。その手にはきらりと光る包丁を持ちながら。


「海くん!」


「海さん!」


少し離れた場所で休んでいた2人も異様な光景に気がついたのだろう。

駆け足でこちらへと向かって来てくれた。


「って、中原さんじゃん!えっ、なになに?助けに来てくれたの??」


「さぁ、僕もここに用事があっただけですので。助ける義理はないですよ?」


中原さんは俺たちから少し距離を取り、まるで高みの見物とでも言うようにこちらを見ているだけだった。

正直、昨日の電話の件もあるので俺としてももう中原さんを頼る気はさらさらなかった。


とりあえず、はづきさんとコンタクトを取ってみるしかない!!


「あの、はづきさん、ですよね?」


ストーカー女、はづきさんはゆらゆらとこちらの声に応えることもなく、俺たちに近づいてくる。


「桜子は後ろに下がってて!」


虎之助は桜子ちゃんを自身の背に庇いながら、はづきさんと対峙する。

そんな虎之助をキラキラした目で桜子ちゃんは見つめていた。

こんな状況だが恐らく、桜子ちゃんには虎之助以外見えていないのだろう。


『ユ、ルサナイ、ユルサ、ナイ、ド、うして。』


俺より前に立つ虎之助や桜子ちゃんに目もくれず、はづきさんは俺の方へと向かってくる。


「はづきさん、聞いてください。俺たちは貴女と話をしに来ただけです!藤原 深雪さんに貴女の話を聞きました!」


『ユルサナイ、ユル、サナイ、ユルサナイ』


ゆっくりと包丁を握ったまま、俺に近づいてくる。

くそっ、深雪さんの名前を出せば少しは反応してくれると思ったが、そんな甘くなかったか。


『人、ゴロシッッッッ!!!!』


はづきは悲痛そうな叫び声を上げながら包丁を振りかざす。だが、対面している以上それを避けるのは容易い。

こちらに包丁の刃先が触れる前に、素早くはづきさんから距離を取る。


「亡者は、生前心に強く残る物や言葉などに反応を示しますよ。」


俺たちの様子を見ていた中原さんから言葉が飛んでくる。

生前心に強く残ったもの?


「海くん、大丈夫?!?」


中原さんの言葉を鵜呑みにするのは癪だが、もしそうならやはりはづきさんが残した、深雪さんが守っていた箱はこの状況を打破する鍵に間違い無いだろう。


とすると、今1番しないといけない事は・・・


「虎之助、非常に申し訳ない事を今からすると思う。が、一応俺は医療生なので信じてほしい。」


俺に駆け寄って来てくれた虎之助の肩を軽く叩き、そのまま拳を虎之助の溝に落とした。


「ぐはっ!!!!」


耐久力が底辺に等しい虎之助はその一撃で意識を飛ばす。

いや、本当に申し訳ない。


「兄様っ!!一体何が!?」


虎之助の後ろにいた桜子ちゃんには、俺が虎之助を殴った様子が見えなかったみたいだ。

助かった・・・


「さ、桜子ちゃん!虎之助がはづきさんの霊気?にやられて気を失ってしまった!!」


「はぁ?」


だからすぐに箱の鍵を解除してほしい。そう続ける前に、桜子ちゃんは自身が持っていた刀袋と鞄を地面に投げ落とす。その瞬間、預けていたアンティーク製の箱が鞄から転げ落ち、慌ててそれを拾う。どうやら、傷は付いていないようだ。


「ブチコロ」


桜子ちゃんは刀を手に、はづきさんへと向かっていった。

刀の間合いギリギリまで詰め寄り、そのまま左手で刀を抜き、綺麗な弧を描く。

その桜子ちゃんの一撃をダイレクトにはづきさんは受けていたが、まだ視線は俺に向いていた。


抜いた刀を一度納刀し、桜子ちゃんは次の一撃に備える。

しかし、流石に2度は喰らいたくなかったのだろう。俺から視線を逸らし、はづきさんは桜子ちゃんへと向く。



いや、俺が想像した展開とは大幅に違うのだが・・・虎之助が気を失った時に、はづきさんを俺が引きつけて、その間に桜子ちゃんは鍵を開けて欲しかったのだが・・・


桜子ちゃんが戦闘してどうする。いや、俺の言い方が悪かった。俺がああ言えば、桜子ちゃんははづきさんへ向かっていくよな・・・


「っ、ぷっくっくっくっ」


呆然としている俺の様子を見て、中原さんは笑い出す。

少しイラっとしたが、今は彼に構ってる暇はない。


「いやぁ〜、山田兄を殴った時は気でも狂ったかと思いましたが・・・ふふ、これは面白い。」


俺の手にある箱を凝視し、こちらへと近づいてくる。


「その箱、あちらの銃刀法違反山田妹の物ですか?」


「・・・いや」


チラリと、視線をはづきさんへ向ける。その視線で中原さんは察したのか、ふむと口元に手を当てる。


「開けないのですか?」


「開いたら苦労はしていません。」


「まぁ、そうですね。ちょっと、貸してもらえませんか?」


どうしたものか、と考えたが・・・ここで1人途方にくれるよりまだマシかと思い、中原さんにそれを渡す。


「どうも。あぁ、これは結構難しいですね。なかなか良いものをお持ちで。」


中原さんは懐から何やらドライバーの束を取り出すと、ゴソゴソ箱の鍵穴へと差し込む。


「これは、面白いものを見せてくれたお礼ですよ・・・はい、開きました。」


カチャっと音がした後に、中原さんは俺に箱を返してくれた。鍵を開けて。


「手慣れてますね。」


「これでも探偵ですからね。あぁ、犯罪行為なので、あまり推進は出来ませんが覚えておいて損はないですよ?」


中原さんの言葉を聞き流しつつ、はづきさんが残したアンティーク製の箱を、開いた。



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