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episode 2 はづき


「なんか、この部屋なんもないねぇ。海くんの部屋より物が少ないんじゃない?」


「俺はお前みたいにあれもそれもこれも買う趣味はないからな。」


「まぁまぁ兄様、お目当ての物が探しやすいのでいいじゃないですか。」


藤原さんの病院を後にした俺たちは、南十字路の端にあるアパートの一室へと来ていた。

藤原さんから託された物を受け取りに。





数刻前 病院にて


「いいわ、教えてあげる。ストーカー女と呼ばれる心霊現象が、なぜ生まれたのか。」


今から35年前、私は家族から勘当され、キャバクラでお金を稼ぎながら、いつか自立し店を構える事を目標に一生懸命頑張った。


そして数年後ついにその夢は実現し、念願だった店を持つことができた。けれど、経営は想像以上に大変で、ただただ苦しいだけだった。


そんなある日、1人の女性がうちの店で働きたいと言ってきた。うちでは雇う余裕が無かったから、断ったんだけど衣食住の確保ができれば、給料はいらないから。と言ってきて、なんだか訳ありみたいだったし、放っておけなかったので、夜の世界なのにかなりの低賃金で働いてもらったの。


それなのに彼女は文句も言わず、いつもニコニコして一生懸命働いてくれたわ。いつしか彼女目当てで来るお客さんも増えていき、徐々に店も軌道に乗り始めた。


彼女と私の関係も、近づいて親友のような、姉妹のような感じになっていった。彼女は自分の事を少しづつ私に話してくれたの。


家族は幼い頃に亡くなってしまい、親戚も見つからず頼れる人がいなかったって。

家族がいない境遇に共感した私は、彼女を今まで以上に可愛がるようになった。


2人一緒なら、どこまでも頑張れるような気がした。この時までは・・・


彼女に恋人が出来てから、全てが変わり始めていった。

最初は、彼女に恋人が出来た事を凄く喜んだ。少しさみしいけど、彼女を支えてくれる人が出来たなら、それは良いことだし。


彼女も、今まで以上に笑顔で幸せそうだった。けど、月日を追うごとにその笑顔には影が差してきて、いつも疲れているようだった。


彼女から詳しく話を聞くと、その彼はホストで働いており、よく女の人と2人で一緒に居るところを目撃して居るらしい。彼女はその事を彼に伝える事も出来ず、自分は遊ばれているだけなのかもしれない、とずっと悩んでいた。


私は彼の事を写真でしか見たことがなく、直接的な関わりは一切無かったけど、同じ土俵に立つ職業としては、このまま付き合い続けることに賛成できなかった。


精神的にきていたのか、彼女はよく嘔吐を繰り返し、かなり苦しんでいた。そんな彼女を見ていられず、私は説得を繰り返し別れるように促したけれど、曖昧な答えしか返ってこなかった。


けどある日、今まで落ち込んでいた表情とは打って変わり、何か吹っ切れたような、決意したような表情にだった。

彼女は、今日の夜会う人がいるから仕事に少し遅れるって。


そして、出かける前に彼女が私に言ったの。



『帰ったら、話したいことがあるの。聞いてくれる?』って・・・私、うんって答えた。答えたのに、あの子は私に話してくれなかった。


彼女は、はづきは生きて、帰ってこなかった。翌日の朝、南相馬神社の階段下で遺体になって発見された。


警察は、争った形跡がない事や、神社の階段が急になっていることもあり、事故として片付けた。私は、前夜のはづきの様子や、人と会うと言っていた事を訴えたけど・・・意味なんてなかった。


それからしばらくして、南十字路に女が、はづきの霊がいると噂になったわ。

何人もの常連客がはづきを目撃し、時には家までつけられたなんて話になってから、不気味がって誰もうちへは近寄らなくなった。


経営が困難になり、店も畳むことにした。

あれだけ頑張って目標にしてきた店だったのに、もはや執着なんてなかった。


「これが、ストーカー女と呼ばれる私の親友、はづきの話よ・・・。きっと、はづきはあの夜彼氏と会っていたのよ。そして、階段から突き落とされた。彼女は彼を怨み、今でもこの世界を彷徨ってるんだわ。そう思った私は、せめてもの供養にと思い、あの神社で毎日拝んでいたの。」



藤原さんは、ベットの脇にある棚から1つの鍵を取り出し、俺に渡してくる。


「これは?」


「私の、家の鍵よ。これを貴方達にあげる、後で地図も書くわ。家の棚に、彼女が残したアンティーク製の箱があるの。もしかしたら、何かあの子の心を和らげるヒントがあるかもしれない。」


藤原さんは、それだけを言い終わると僕たちから背を向ける。


「もう知ってる事は全て話したわ。さぁ、早く行ってください。出来るなら、2度と顔を見せないで。」


有無を言わさぬ態度に、俺たちは1度頭を下げて病室を後にした。


そして、上記へと戻る。


部屋の棚を漁っていた、虎之助が1つのアンティーク製の箱を持ってこちらへとやってきた。


「うっみくーん、桜子、藤原さんが言ってた箱ってこれかな?」


少し古びた、時代を感じる物だった。おそらく、これで間違い無いだろう。他にアンティーク製の箱らしき物は見当たらないし。


「あっ、虎丸。この箱、鍵が掛かってない?」


虎之助は、箱を開けてみようとしたが、開く気配はなかった。よく見てみると、小さな鍵穴が見える。


「あっ、本当だ・・・。どうしよう。無理矢理壊すわけにもいかないし」


「桜子ちゃん、これ開けれる?」


「いやですね海さん。私そんなことできませんよ?」


あっ、えっと、虎之助が邪魔だな。


「虎丸、ちょっと向こうの玄関の方調べてくれない?まだ見てないし、うん、頼む。」


「えっ?おっけぃ!!任せてよ!」


虎之助は一旦俺と桜子ちゃんから離れ、1人玄関へと向かって行った。


「桜子ちゃん、開けれる?」


「アンティーク製で、結構年代物ですが、少し時間いただければ余裕です。」


虎之助そっくりのドヤ顔を決めた桜子ちゃんにその箱を託し、俺たちは今後について話し合うこととなったのだ。



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