episode 2 接触?
腕時計を確認すると後10分で21時になる。
南十字路にやってきた俺と桜子ちゃんは辺りを見渡す。
今のところ、不審な人物は見当たらない。
街灯も少なく。薄暗いボンヤリとした異様な雰囲気を漂わせているだけだ。
街灯が少ないのも、この辺りの家が空き家だらけと言うのもあるんだろう。
「暗いですね、懐中電灯でも付けます?」
用意周到に準備をしてきた桜子ちゃんは、自分のリュックサックから懐中電灯を取り出す。
「準備いいね、とりあえず懐中電灯を付けるのはもうちょい待って。でもすぐに付けられるように、手には持っていて。」
「私、刀をすぐ抜けるようにしないといけないので、海さんが持っていてください。懐中電灯なんて邪魔です。」
ならなぜ持ってきた。と、心底思ったけどそれを言葉にした瞬間、俺の命が危ういので必死に呑み込む。
時計の針が、21時を回る。
お互いに顔を見合わせ、静かに頷くと南十字路を真っ直ぐに歩く。
カツ、カツ、カツと2人分の足音だけが十字路に響く。
暗い夜道を歩いているせいもあり、少しばかり心音が早くなるのを感じる。
「・・・・」
隣を歩く桜子ちゃんも、心なしか顔色が優れないように見えた。
一歩、一歩と足を進ませ、やがて南十字路を抜けた。
「何も、無かったね。」
「やはり、所詮は噂話と言うことでしょうか。少しだけ、残念な気もしますが。」
前回の蜘蛛女の件で、少しばかり過敏になり過ぎていたのかもしれない。
大きく息を吐いて、何となく後ろを振り返ってしまった。
「・・・っ」
赤黒いワンピースを着た、髪の長い女性の姿がカーブミラーを通して写っていた。
その女性の右手には、キラリと光る何かが握られているのが分かる。
女性とミラー越しに視線が混ざり、赤い瞳が、気持ち悪く歪む。
驚きのあまりに声を出さず固まって俺を不思議に思った桜子ちゃんが、俺の視線の先を辿ろうとしていたので、すぐに我に返り桜子ちゃんの目を塞ぐ。
「行くよ、すぐに。早くっ!!」
「ちょ、海さん!?」
桜子ちゃんの手を引いて、すぐにその場から離れる。
じわりと冷や汗が首元を伝う。もしかしたら、あれが・・・。
「海さんっ!!」
伝いでいた手が、思いっきり引っ張られひたすらに歩みを進めていた足を止める。
「どうしたんです、一体。」
「えっ、あっ、いや・・・ほら、もう帰ろう?あんまり遅くまで桜子ちゃん連れ回すと、俺が警察に捕まる。」
「・・・警察は、厄介ですね。分かりました、今日は大人しく引きましょう。」
意外と警察の名前を出すとすぐに身を引いてくれた桜子ちゃんに安堵した。
そのまま桜子ちゃんを家まで送り届ける。
「あっ、海さん。今日はありがとうございました。兄様に関連する事がありましたら飛んでいきますのでまた、よろしくお願いしますね。」
別れ際に鞄を引っ張られ、恐ろしい笑みを浮かべた桜子ちゃんの顔も怖かった。この子は本気で飛んで来るから、油断も隙もない。
「勿体無いけど、念の為、だよな。」
生身の人間か、心霊的な何かか。はたまた見間違えだったのか。
何にせよ、身を守ることを第一に考えた方がいいな。
大通りに出てから、俺はタクシーを捕まえて自宅へと帰路につく。




