episode 2 山田 桜子
榎並先生から頼まれた『ストーカー女』なる人物の調査をするために、山田虎之助の妹である山田桜子ちゃんと行動を共にせざるを得なくなってしまった。
山田桜子ちゃん。
彼女は昔から兄である虎之助によく付いて回っていた為、3人で遊ぶ機会も多かった。
とっても可愛い女の子で、頭も良く運動神経もいい。虎之助も良く自慢をしていたので、大方の情報は入っていた。
そして今年に入り高校3年生になった桜子ちゃんは、俺たちと同じオカルトサークルへ加入してきた。最後に見た時より、大人びて綺麗になっていたけど・・・本質はまっったく変わっていなかった。
「あっ、うっみくーん!おまた〜!!」
ストーカー女が出没すると言う時間の1時間前、出勤前の虎之助と桜子ちゃんの2人と近くのファーストフード店で待ち合わせをしていた。夜遅くに可愛い妹を1人で歩かせる訳には行かない!と俺との待ち合わせ場所まで一緒に来たらしい。
「別に、そんなに待ってない。桜子ちゃんも、急にごめんね。」
「いえ、兄様からの頼まれごとですし、私自身も興味がありましたので、気になさらないでください」
ニコニコと可愛らしい笑みを浮かべる桜子ちゃんに、曖昧な苦笑いしか返せなかった。
「じゃあ、僕これから仕事なので行くけど、海くん、桜子のことよろしくね〜!帰りはごめんけど家まで送ってもらってもいい?近頃物騒だし!今度奢るからさ☆」
「あっ、うん。そりゃ家まで送るよ。ほら、お前は早く白咲さんとこいけ、しっしっ」
手で軽く追い払うように、虎之助を仕事へと向かわせる。と言うかあいつ、今度奢るとか言ってたけど一緒に食事行った時の会計、いつも虎之助が1人で払ってるんだが・・・
そう言うところは、素直に凄いと思う。
「兄様をまるで犬のように扱うなんて・・・昔なじみと言えど、ユルサナイ。」
あっ、桜子ちゃんのこと、忘れてた。ヤバイ。
ゆらりと怪しく目を光らせ、桜子ちゃんは手に持っていた細長い袋から刀を取り出そうとするのを必死で止める。
「さ、桜子ちゃんっ!!ここ、ここ一般の目があるから!銃刀法違反で捕まるって!!」
「あっ、そうでしたわね。ここ、ファーストフード店でした。」
ハッとしたように、袋の中へと刀を仕舞う。危なかった・・・。俺まで警察のお世話になるところだったよ・・・
「にしても先程の兄様の言葉聞きました!?桜子のことよろしくね、ですって!!もう兄様ったら相変わらず妹思いで素敵なんですから!!」
きゃーと、今時の女の子のように頬を赤く染めながら嬉しそうに話す桜子ちゃんを遠い目で見る。
そう、山田桜子ちゃんは極度のブラコン。もう昔からずっとだ。
山田居合道場の正統な後継者である為、居合用の刀を常に持ち歩き、彼女自身もかなりの腕前である。
兄である虎之助に害なすものには、容赦なくその刀を抜こうとするのが、彼女の最も恐ろしい部分なのかもしれない。
「さぁ、海さん。早い所ストーカー女とやらをぶった切って、さっさと兄様のとこへ帰りましょう。」
「うん、もしそのストーカーが生身の人間だったら非常にマズイから、切るのだけはやめてね?」
俺は桜子ちゃんの暴走を止めることができるのかな。
ストーカー女より、桜子ちゃんの方が怖いです。




