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縁 〜切れない関係〜

作者: いつみゆう

私、今はお母さんの介護をしているの。

介護しているって言っても施設内の母のベッドの周りの整理。

あと車イスでお散歩とか、ご飯あげたりとか……。

ここの職員さんのちょっとしたお手伝いね、


お母さん今年で◯◯歳になってね。

すごい長生きでしょ?


健康だったらもっと良かったんだけど……。

って今は"思える"の。


実は……殺したい位、嫌いだったの。

お母さん。


今は逆に、何かの運命っていうのか、やっぱり親子だなっていうのか……。

逆に、いとおしいわ。


なんでそう思えるのか聞きたい?

分かった。

私の人生の話になるけどごめんね?





お母さんね、育児放棄してたの。

シングルマザーでね。

お父さんは私が生まれた後、蒸発しちゃったんだって。


今でも覚えてるわ。

私が5歳の時、食べ物も与えない。

洗濯もしない。

掃除もしない……。


絵に書いたようなクソ親だったわ。


私は、生きようと万引きしたり、隣の家の人にご飯を分けて貰ったり……。

必死に生きてきたわ。


とうとう、児童相談所の人にお母さんの事、バレてね。

私は施設に連れて行かれたの。

ネグレクトって言うんだって。

母がやった私への仕打ち。


子供はそれでも親元から離れたくないって言うけど、私はちがかった。

ほっとした。

母親なんか死ねばいいと思った。


……これ5歳から6歳くらいの話よ?

今思えば、小さい子供もこんな事考えられるのね。


お母さんは私が施設にいる間、一度も面会に来なかった。

厄介払いが出来たと思ってたんじゃないの?


学校に行けば、クラスのみんなに「捨て子〜、みなしご〜」って笑われたけど、アイツらバカだわ。

当たり前だと思ってる。


ご飯作って貰えること、自分の部屋を掃除して貰えること、怖かったら一緒に寝て貰えること……。


親のありがたみ、なんもわかってない。


……話がずれたわ。


私がなぜお母さんをいとおしく思えたか、その話だったよね?


私は最初に会ったのは10歳の時、学校で遠足に行った時だった。


山頂で皆でお弁当を食べようとした時、二人の夫婦が来たの。

若い男と少し歳くった女。


よくみたらね……お母さんだったの。


私は怒りが込み上げてきて、お母さんに近寄ったわ。

振り返ってお母さんも気づいてこう言ったの。


かわいいね。キミって。


忘れてやがる……。

忘れたフリか……?


フリの方が残酷よね?

娘の私より若い男の方を選んだのよ……。


私はフリだと思う。

子供が大きくなっても、母親なら分かるわよ。

自分の子供だもの……。


次に会ったのは、17歳の時。

修学旅行の時。


みんなで金閣寺を見てたらね。

なんか、お金持ちそうなおばさんが来たの。


品があるなぁって思って見てたらね……。

お母さんだったのよ。


私は固まったわ。

そしたらお母さんもこっちに気付いて、目が合ったのよ。


ビックリした顔してた。

遠足(あのとき)とは違かった。

なんでここに?

そんな感情が伝わった来たわ。

社長さんみたいな人がお母さんに声をかけて、連れて行ったわ。

お母さんも逃げるように行ってしまった。


よっぽど会いたくないんだ。


そう……思ったわ……。


次に会ったのは23歳の時。

私は23歳で結婚したの。

とてもいい人。

お互いみなしごでね。

私にとても良くしてくれた。

5歳年上だったけど、プロポーズを喜んで受け入れたわ。


結婚式が終わって、3次会までやって、二人で夫と帰っている時、お母さんに会ったの。


道端に座ってた……。


何かあったみたいで、綺麗な格好はしてたけど泥酔してた。

お酒に溺れてたみたい。


その時は、"ざまぁみろ"って思った。


何があったか知らないけど、悲しみにくれてる。

今までの報いだ。

悲しんで死んでいけって。


……親に対してこんな事思っちゃたの。

いくら、自分を捨てた親でもね……。

なんか……心の奥底に痛みを感じたわ。

でも、何も思わないようにした。


次に会ったのは、30歳の頃。

中々子供ができなくてね、初めて妊娠した時、ホントに嬉しかった。

母になるってこんなに嬉しい事だったのね。

母が私を捨てた気持ち、分からなかった。

目に入れても痛くないって言うのかな?

でも憎たらしい時がある。

まさに"愛憎"ってやつよ。


私は生まれたその子に沢山の愛をあげてきた。


そして初めての家族旅行の日。

家族3人で東京に行ったの。

上野動物園に一度行ってみたかったのよ。


近くの公園にはホームレスがたくさんいてね、ホントにいるんだって思った。


ビニールテントを見てたときに、中から一人の女性が出てきたの。


……お母さんだった。


お母さんの末路。

娘を捨てた末路。


流石に引いたわ。


呆然と立ち尽くしていたら、目があったの。

お母さんは、少し驚いて、その場に立ってたけど、私に近寄って来たの。


何をされるのかな?

幸せになった娘に皮肉でも言いに来たのかな?

そう思った。


でもね……。


"赤ちゃん……可愛いですね……抱かせて頂けませんか?"って聞いてきたのよ。


私は泣きそうになった。

というより、泣いてたわ……。


でも私は突き放してしまったの。

"触らないでっ!!"って。


お母さんは涙を流して、"ごめんなさい……。"って言ってビニールテントに戻って行った。


ちょうどトイレに行ってた夫も戻ってきてね、何があったのかしつこく聞かれたけど、何も答えなかった。


母に会ったって言いたくなかった……。


それからはしばらくお母さんを見なかった。

私は……母は死んだんだ……そう思ってたの。


そしたら5年前……。


市役所から連絡が来てね。

あなたのお母さんが◯◯老人ホームにいるので会いに来て下さいって……。


お母さんは生きていた……。


私は急いで◯◯老人ホームに行ったわ。


施設の中に入ると、お母さんはいたの……。

車イスに乗って、ボーッと窓の外を介護士さんと見てるのよ。


お母さん……って話かけたら、"どちら様ですか?"って言われたの。


お母さんは認知症だった。

だから……血縁者の私が呼ばれたってわけ。


私は、何も感じられなくなって、外の空気が吸いたくなって、母の元を離れようとしたの。


そしたらお母さん、私を引き留めてこう言ったの。


"こんにちは……あの、どちら様か存じ上げませんが、もし……私の娘に会ったら、『会いたい』と……、『今までごめんなさい』って伝えて貰えませんか"って。


私は涙が止まらなかった。

その場で声をあげて泣いたわ。

お母さんに抱きついてね……。


お母さんは自分の娘だって気づいてなかったけど、私を抱き締めてくれた。

弱々しいけどとても暖かかった……。




……それからはね、私、毎週土日はお母さんに会いに行くのよ。

たまに夫と成長した娘を連れてね。


私はお母さんとの今までの過ごせなかった時間を取り戻したいのよ。

だから、お母さんの世話、なんも苦じゃないの。





……ごめんね?長くなっちゃって。

嫌じゃなかった?私の話。


幸せそう?

いい話だった?

良かった。

あなたに会えて。

聞いてくれてありがとう。


あなたも人との縁、大事にするのよ?

特に家族はね。

家族は拠り所よ。


あなたはまだ未婚?

あなたにもいい人、現れるといいわね。

おばさんは今、幸せに生きている。


神様が二人を引き合わせたのかも知れない。

親子の縁は永遠に切れないもの。


家族の縁は大切にしよう。


……作者(いつみ)はデパートで同じ人に何回も会った事がある。

向こうも気まずそうな顔してた。


これも何かの縁(笑)?

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