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第三容疑者:婚約者アルフレッド

婚約者のアルフレッド視点になります。

 わたしの名前は、アルフレッド=モーガン。モーガン家の次男だ。

わたしには一つ年上の兄がいて、その名をエリックという。

エリックには両親が決めた許嫁がいて、その女性の名をルセイラ=ウェスタニアといった。

けれど、そのルセイラが五歳の頃に重い病にかかり、この病弱で儚げな命の娘が次期当主の妻では心許無いと、うちの両親は婚約の約束はそのままに婚約者を次男であるわたしにすげ替えたのだ。

 ルセイラが、それをどう思っているのかまでは知らないが、気を悪くしていなければいいと思う。

わたしとしては、モーガン家を継げはしないが、ウェスタニア家に入ることは出来るかも知れなくなり、まったく悪い話ではなかった。

それに、顔合わせをして知ったルセイラは可愛い女性だったので、幸運だとも思っていた。

彼女とは、何より気が合う。それに、一緒にいて楽しい。

 ルセイラは、何でも話し合える親友のようでもあって、魅力的な女性でもあって、同じ悪戯や悪さをして楽しめる悪友のようでもあった。

彼女の溌剌とした笑顔、身分の高い女性なら大きな口を開けて笑ってはいけないというのに、その禁忌を平気で破る豪胆さが好きだった。

ルセイラの、女という枠に囚われていないその自由さが、わたしには好ましかったのだ。

それは、次男のわたしには望んでいても手に入らないものでもあった。

 次期当主である兄エリックとは違い、わたしは次男で、必要ないと判断されれば切り捨てられてしまう身。

賢くなければ、正しくなければ、有用でなければすぐにでも捨てられてしまう。

その恐怖がいつもわたしを縛ってきた。わたしの行動をひどく狭く縮めてしまっていた。

他人からはどう見られていたかは知らないけれども、わたしは小心者なのだ。

こんなわたしに理想を押し付けないでいて欲しい。

 どうにもわたしは見た目が良いらしく、それ故に他者から過剰に期待をされてしまうのだ。

この漆黒の髪と灰色の目は、両親からそれぞれ受け継いだものであって、自らが望んで得たものではない。

だから、それに勝手な期待を持たないでいて欲しい。

同じ漆黒の髪色をした兄エリックも、灰色の目をした妹のクレアもわたしほど他者から崇拝はされていないというのに、どうしてなのだろう。

わたしのような髪と目の色、この組み合わせが他人の目には魅力的に映るのだろうか。


 ルセイラの友人に、マルガレーテという名の女性がいる。

ルセイラに負けず劣らず美しい女性だが、こちらはルセイラと違って背の高い、鼻筋の通った美女だ。

飴色の柔らかそうな髪はくるくるとカールし彼女の頭を飾り、その薄い青色の目には知性を感じさせる。

あまり詳しい方ではないが、誰かが彼女をギリシア神話の女神の……ああ、やはり名前が出て来ないが、それに似ていると言っていた。

 いや、神話上の登場人物だから似ていると言うのはおかしいのか。

まあ、その誰かが彼女をギリシア女神のように美しいとたとえたのは嘘ではない。

ただ、わたしにとってマルガレーテはルセイラの友人であって、それ以上ではなかった。

だから、彼女がどれほど美しかろうが、女神に似ていようがどうでも良いことであって、そこに少しも関心はない。

わたしの関心はすべてルセイラだ。マルガレーテにはない。

 しかし、当のマルガレーテの方はそうではないらしい。

彼女からは熱い視線を感じる。

なにかを強く期待する眼差しとでも言おうか。

それが身につき刺さる。

 正直、やめて欲しい。わたしに何を期待しているのかは知らないけれども、わたしには何も出来ない。

それに、ルセイラに誤解されたくないのだ。

だから、その厄介な視線をどうか引っ込めて欲しい。

 しかし、わたしの願いは虚しくも伝わらず、ある日マルガレーテからの告白を受けた。

わたしは当然それを断った。なるべく丁寧に、彼女を傷つけないように。

ルセイラの友人を傷つけたとあっては、彼女から糾弾され兼ねないと思ったからだった。

やさしくお断りをすると、マルガレーテは泣きながらでも引き下がってはくれた。

だからわたしは単純に「よかった、これで終わる」と、そう思って安堵していたのだ。

ルセイラが謎の死を遂げるまでは。

 ルセイラは、突然死んでしまったのだ。

わたしの親友で、愛する人で、悪友でもある人が急に神に召されてしまった。

確かに彼女は魅力的な女性だ。側に置きたいという主のお気持ちも理解はできる。

しかし、それをあと50年ほど待っていただきたかった。

なにもそんなに急に御許にお呼びにならなくともいいのに。

彼女を奪われたわたしの、この喪失感をどうすればいいのか。

彼女の葬儀には出席したが、始終上の空でわたしは自分がどうしてこの場にいるのかわからないなどと思っていた。

彼女の死を信じられなくて、認められなくてぼんやりとしていたのだ。

ただ、ぼんやりとしているとは言え、腹が減るから食事はするし、その他の日常生活にしても疎かにしているわけではない。

でも、今この時に現実感がなく、まるで夢の中で生きているかのような感覚でいる。

だから、マルガレーテも同じような気持ちでいると思っていた。

葬儀では、あんなに彼女の為に涙を流していたのだから。


 ルセイラの葬儀から今日まで、マルガレーテは毎日のようにわたしの元へとやって来ていた。

そうして、わたしにやさしい言葉をかけ、ルセイラとの思い出話で心を慰めてくれている。

しかし、彼女の目。

それが徐々に友人を亡くして悲しんでいる者のではなく、熱のこもった目、わたしに何かを期待する眼差しになっていっている事に気づいた。

そして、もう今ではルセイラの死など悲しんでいないようにも思える。

これが女故のしたたかさなのだろうか。

それとも、わたしの関心が欲しいが為に何かを図ったのか。

 そもそも、あんなに元気でいたルセイラの死因は何だ。

まさかとは思うが、わたしを欲するあまりにマルガレーテがルセイラを殺したのではないか。

だとすれば、こんなに恐ろしいことはない。

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