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第一容疑者:メイドのハンナ

メイドのハンナ視点になります。

 私の名前は、ハンナ。

十二の時より、ウェスタニア家にメイドとして仕えています。

そして、ここでの私の主な仕事は、ウェスタニア家のご令嬢の身の回りの世話をすることでした。


 ウェスタニア家のご令嬢ルセイラ様は、元々体が弱い方で、先程まで軽い咳をしていたかと思えば、それがすぐに高い熱へと変わってしまい、それで5日も6日も寝込んでしまわれるほどでした。

 私がお仕えしてすぐの頃は、確かルセイラ様は6歳くらいだったと思います。

その、幼いルセイラ様と同じ年の頃には、外で駆け回ることの多かった私は、それが不憫で仕方がありませんでした。

私は、体の丈夫さが取り柄で、今まで病になどかかったことなどなかったのです。


 病が移りにくい体質である私に出来ることと言えば、熱を出している間は、ご家族の誰とも会う事が許されず、一人ぼっちでベッドに横たわったままでいるルセイラ様におとぎ話をお聞かせしたりして、気を紛らわして差し上げる事ぐらいでした。

実は、私は末っ子でしたので、奉公に出るまでずっと兄や姉に面倒を見てもらっておりました。

そして、その末っ子であるが故に、自分よりも年下の子供の面倒をみた事がありません。

この私に、幼い子供の世話が勤まるのかと最初は不安でたまりませんでした。

ところが、おっかなびっくりお世話をする私を、主人であるルセイラ様の方が逆に気遣ってくださったのでした。

 ルセイラ様は、ご自分の体調がすぐれない時でも私の拙い話に喜んで下さり、お褒めの言葉をかけてくださっていたのです。

たった6歳の少女だというにも関わらず、その時からすでに大人顔負けの気配りをしてくださる方でした。

だから私は、本当はずっとベッドの上で過ごすなんてお嫌に決まっているのに、それをおくびにも出さずにいるルセイラ様を健気でいじらしいと、また、何もしてあげられない我が身を歯痒くもどかしいとまで思っておりました。

私は、心優しいルセイラ様のメイドでいる事に心底満足していたのです。


 やがて、私がお仕えして一年ほど経った頃、ルセイラ様の7歳の誕生日が近づいてきました。

けれど、その数日前にルセイラ様は丁度流行りはじめたばかりの病にかかり、ベッドから起き上がれない程に弱っておられました。

お可哀相に。折角のお誕生日を、ルセイラ様はたったお一人、それもベッドの上で過ごすのです。

ルセイラ様の為に、何か私に出来ることはないのでしょうか。

代われるものでしたら、その苦しみを代わって差し上げたい。

 たった一年程お仕えしただけでしたが、当時の私は、そうまで考えておりました。

そうして悩んでいる内に、ふと気づいたのです。

教会の裏に住んでいる魔女に願えば良いということに。

 そこで、私は早速屋敷から抜け出しました。

目立たない服装を心掛けた私は、屋敷の誰にも見つかる事なく、やがて教会の裏の小屋まで辿り着きます。

その小屋の扉をくぐった私に、老いた魔女がにっと笑いかけました。

「ようやく約束のものを受け取りに来たんかね」

欠けた前歯の奥に見えるどす黒い舌に、私は気分が悪くなりますが、それをぐっと堪えて魔女を見つめ返します。

 昔、私はこの魔女を助けました。

そして、その時に出来た借りを、いずれ返すと魔女は言いました。

願いがあれば、それを必ず叶えるという約束を魔女は私にしていたのです。

だから、私は願いました。

私の体の丈夫さを、ルセイラ様に差し上げたいと。

代わりにルセイラ様の病弱さは引き受けると。

魔女に何かを願うのならば、代償は必要なのです。

 しかし、魔女は笑って言いました。

私の体の丈夫さをルセイラ様に渡せるが、ルセイラ様の病弱さを私に移すことは不可能であると。

願いは一つ限りだと。

それならば、ルセイラ様に体の丈夫さを与えたいと、そちらを優先するように願いました。

 魔女が快く承知したのを見届けてから屋敷に戻って来ると、ルセイラ様の熱は下がり、ベッドから立ち上がり歩ける程までに回復されておりました。

仕事の早い魔女には、感謝の念しかありません。

ただ、その魔女とはそれで縁が切れてしまった為にか、二度と会えはしませんでしたので、感謝の言葉は直接伝えられませんでしたが。


 以来、ルセイラ様が咳をすることもなければ、熱を出すこともありません。

おかげで私達は、幸福な十年を過ごしました。

 しかし、体が丈夫になって以降、ルセイラ様は少々無茶と言いますかお転婆が過ぎるようになってしまいました。

先日も、自称発明家の男の試作品に過ぎない飛行機に乗ったとのこと。

飛行機は、離陸してから十秒ほどルセイラ様とその男を乗せて空を飛んだらしいのですが、その後、急に失速し地面へと墜落したのだそうです。

幸い、ルセイラ様はお怪我をされなかったものの、心臓が止まるかと思うほど驚いたとおっしゃっておられました。

でも、驚いたくらいでは死なないはず、とその時は笑っていらしたのですが、まさかその数日後にルセイラ様が突然お亡くなりになってしまうとは一体誰が予測し得たことでしょう。

 墜落してしまうような危険な飛行機にお乗せし、ルセイラ様の心臓を弱らせたあの男。

自称発明家のデイビスを、私は一生涯許しません。

あの悪魔のような男に、その報いを受けさせるのです。

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