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俺と君達のダンジョン戦争  作者: トマルン
第三章 色んな国の探索者が登場したりしなかったり
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第十二話 お姫様とゆるキャラの対峙

 朱。


 突如、世界を両断した朱。


 朱い光。


 展開された神の御盾を、容易く塗りつぶした朱い光。


「—— さま」


 絶対の死。


 それが消えれば、広がっていたのは、あらゆるものが切断されたあと


 最初からそこには何もなかったかのように。


 奇妙な空白が一筋。


 世界に刻まれていた。


「—— めさま!」


 完全に消え去っていた赤龍の半身。


 赤黒い肉の断面が、力を失い墜ちて逝く。


 人知を超越した世界への斬撃は、生命、精神、あらゆるものを奪い去った。


 全てが斬られた。


 妾は—— もう————



「姫様!!」



「———— っ!?」


 強引に連れ戻された意識。

 朧気おぼろげだった視界が、瞬く間に開かれる。

 

「姫様、大丈夫ですか?」


 細長い面立ちの青年、ウォルター・アプシルトンが眉を寄せていた。


 高地地帯に設けられた簡易的な広場。

 妾達はヘリを降りて、そこに集められていた。


 周りを見れば、他の者もこちらを案じるように視線を向けている。

 いけない、少し物思いにふけり過ぎたか。


「ええ、どうやら少々思考に意識を向け過ぎていたみたい。

 心配ありませんわ」


 軽く微笑みながら、気分を入れ替えるように髪をかき上げる。

 先端が緩くカールされた赤茶色の長髪がふわりと舞う。

 いつも通りに振舞う妾の様子に安堵したのか、ウォルターの愁眉が徐々に開く。

 周囲の空気も弛緩していった。


 気は抜けてしまったが、要らぬ不安を抱いているよりもずっと良い。

 なにせ、これから妾達が臨むのは、隔絶した力を見せつけてきた相手。

 万が一にも下手を打つわけにはいかない。



「それは何よりですね、公女殿下?」



「———— っ」


 仲間との暖かい空気に差し込まれる冷たい刃。

 

「これから行う我々の会談、お互い万全で臨むことが望ましい」


 私を囲む仲間の壁が割れる。

 現れたのは、賢げな雰囲気を纏う黒髪の青年。

 アジア系らしく年齢よりも幼く見えるその顔は、妾達を睥睨して不敵に口角を吊り上げている。


「ともあれ、こうして面と向かって会うのは互いに初めて。

 まずは、自己紹介を。


 私は日本国の探索者、トモメ・コウズケと申します。

 公女殿下、どうかお見知りおきを」


 そう言って軽く一礼する彼、トモメ・コウズケの姿からは、言葉とは裏腹に上辺だけの敬意しか感じ取れない。

 表面上こそ友好的に接しているが、その内心は推して知るべし。


「っぐ……!」


 彼の態度に思うところがあるのか、妾の忠臣たるウォルターが表情を強張らせて歯軋はぎしりする。

 ウォルター以外の者達も抱く感情は同じなのか、浮かべる表情はどれも似たり寄ったりなもの。

 周囲の敵意がトモメ・コウズケに対して向けられるも、彼は至って涼しい顔。

 ただ静かに、妾の返答を待っていた。


「…… 丁重な御挨拶、感謝致しますわ。

 妾はルクセンブルク大公国が第一公女にしてナッサウ公女、シャルロット・アントーニア・アレクサンドラ・エリザべード・メアリー・ヴィレルミーヌ・ド・ナッソー。


 トモメ・コウズケ、貴方に妾の名を呼ぶことを赦しましょう」


 簡易的ながらこれは外交。

 ならば外交儀礼として仕方がない。

 妾が差し出した手をそっと受け取った彼は、手の甲に恭しく口づけした。


「我が身に余る光栄、感謝します」


 目は口ほどに物を言う。

 彼の顔から覗く焦げ茶の瞳からは、敬意も親愛もない。

 あの悪魔の爆弾を彷彿とさせる、どす黒く濁り切った欲望が渦を巻いていた。


 自分に向けて叩きつけられる薄汚い欲望に、心が恐怖に竦む。

 第一公女と言えど、所詮は父公を始めとする周囲に守られていた籠中の鳥。

 直接的に他者の悪意に晒された経験なぞ、20年の人生で初めてだった。

 今にも逃げ出したい衝動に駆られる自分の心。


 しかし、そんなこと妾には許されない。

 負けて堪るか、その思いを込めて睨みつけようとした瞬間。


「おう、挨拶が終わったんなら、早く姫さんから離れろや、日本人」


 妾に向けられる視線を遮るように、大きな背中が視界の左半分を覆った。

 服越しでも盛り上がった筋肉が見えるほどの筋肉、特徴的な銀のモヒカン、あと筋肉。

 その背中の主は、顔を見なくとも分かる。

 ハッピー・ノルウェー草加帝国の探索者、スティーアン・ツネサブロー・チョロイソン。


「姫様に対する不敬な視線、遮らせて貰うぞ。

 あと、スティー、お前も駄目だ」


 残っていた右半分の視界も違う背中に覆われる。

 こちらはスティーアンとは正反対の、頼りなさすら感じてしまう細長い体躯。

 しかし、妾への曇りなき忠誠心をひしひしと感じる、頼もしい背中。

 妾に付き従う唯一の臣民、ウォルター・アプシルトン。


 肩を並べて妾を守ろうとする彼らの姿は、まるで御伽噺おとぎばなしに出てくる騎士を彷彿とさせるもの。

 いや、彼らだけではない。

 今まで妾に着いてきた者達、皆がトモメ・コウズケへ対抗するように反抗の意思を表していた。


 自分の肩に掛かっていた重荷が、取り除かれて軽くなる。

 体が、心が、羽のように軽い。

 こんな幸せな気持ちで、恐ろしい敵に立ち向かえるなんて初めて……


 もう何も怖くない……!


「妾の供が失礼しましたわ。

 赦しなさい、トモメ・コウズケ」


 スティーアンとウォルターの間から見える彼の顔。

 その表情に浮かんでいた笑みが、一段と深まった。

 少し前の自分なら心が竦んでいたのだろうが、今はもう動じもしない。


「さあ、早速ですが会談を始めましょうか。

 折角、貴方のような方にご招待頂けたのだもの。

 素敵な御話を期待してもよろしいのでしょう?」


 そう言って妾は、妾達は、たった一人で挑もうとする哀れな男を力強く睨みつけた。




「おーい、高嶺嬢、白影!

 ちょっと来てくれ!」




「ぐんまちゃん!

 私が必要なんですね!!」


「トモメ殿!

 拙者に全てお任せあれ!!」




「………… へっ?」




「私が来たからには、ぐんまちゃんに指一本触れさせませんよー」


 妾の眼前に立ち塞がる、純白の外套で身を包む絶世の美貌を持つ少女。


 人類最強、朱の鬼。



「おや、久しいな、シャル。

 もしやお主、拙者の主に楯突く気ではあるまいな?」


 全身を漆黒で包み、その人相は分からないが、妾にとって間違えようもない女性。

 

 今まで会った人の中で最も綺麗で、一時は憧れていて、昔から妾の頭が上がらぬ女性。


 年下だけど親戚の姉様、人類最速、NINJAマスター白影。



 単騎で一軍を屠る人類のツートップ。

 全ての存在に恐怖と絶望を振り撒く彼女達が、コウズケ・トモメの両脇を固めていた。

 奇しくも妾達と同じ構図で相対する。


 妾を守る2人の騎士。

 頼もしかったその背中は、今ではサランラップよりも薄っぺらく感じた。



「負けを受け入れることが…… 敗者の誇り、か」


 ぼそりと呟き、空を見上げる。

 澄み渡った青空が、一本の線を境にずれていた。

 あーあ、出会っちまいましたわ。


悪役にしか見えねぇな、この主人公。

あ、そう言えば次話で丁度100話分投稿したことになるのか―。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 空が割れてるって、これ世界を切っちゃったって事? うわ~ぉ。 [一言] 3対3だから問題ないよね!(人類最強2名を携えて) ソウダネ!
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