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俺と君達のダンジョン戦争  作者: トマルン
第二章 序盤戦とか外交とか色々
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第五十一話 NINJA怒りのカトンジツ

 放射状に広がる融解した大地。

 地面から発する高温が周辺の空気を歪ませて陽炎を立ち昇らせる。

 初見殺しのような範囲攻撃で部隊の2割近くを一瞬で失った天使達。

 奴らの顔からは獰猛な攻撃性が消え、代わりに必死と怯えが塗りたくられた。

 しかし、そのような状況にありながら、天使達は上位個体の指揮の下、瞬く間に崩れた隊列を整えていく。

 その最中も私に牽制の如く魔法を放ってくるが、無誘導で音速未満の攻撃なんて私にとっては無意味に等しい。


『あれ、もしかして取り込み中だったか?』


 無線機越しにトモメが気遣ってくれた。

 それだけで私の心は軽快に跳ね上がる。

 でも、そんなこと気にしなくても良いのに……

 生成した手裏剣を天使達に投擲しながら、覆面の下でもどかしさに口が歪む。


「全くそんなことは無いのでござるよ。

 それより、基地で警報が出ているようでござるが、御身に大事は無いでござるか?」


 一息で4本の手裏剣を2射、それを両手で行い、合計16本の鋭利な鉄刃が天使達を襲う。

 もちろん私の攻撃はたった一息では終わらない。

 断続的な鉄の掃射。

 魔法で迎撃しようにも、魔法弾の間隙を貫いて天使達が次々と手裏剣に射抜かれていき、その数を着実に減らす。

 一方、あちらの魔法は私にかすり傷一つつけられない。


『ああ、俺の方は問題ない。

 なんだかんだ基地中枢部にいるしな」


 良かった。

 あの女怪がそばに付いている以上、トモメに危険が及ぶようなことはないだろうが、万が一ということもある。

 あの脳みそまで狂気に侵食されている女怪は、戦闘力こそ信用できるが、頭の出来はまるで信用ならない。


 だからこそ、トモメ自身の問題ないという言葉に安心してしまう。

 この時の私は、戦闘にこそ隙を見せなかったものの、間違いなく心の防壁が緩んでいたのだろう。


『それより、明らかに着弾音とか聞こえるけど通信してて大丈夫か?


 高嶺嬢、向かわせようか?』




 ………… は?




 あの女怪を向かわせる?


 どこに?


 私の所へ。


 なんで?


 私だけだと不安だから。




 ………… はぁ?




「問題無いでござる!」



 何故…… 何故何故何故!


 何故!!


 そこで、女怪の名が出てくる!!?


 頭に血が一気に上る。

 脳みそが沸騰するかのように熱くなれば、瞬く間に底冷えする寒さが襲う。

 気づけば視界がセピア色。

 淵には僅かな黒が蠢く。


 このままではいけない。


 私は感情に任せるままに、奴らに向かって駆け出した。

 怒りを吹き出すかのように大地に足を叩きつけ、一歩目から最速を叩きだす。


 足に伝播する衝撃とともに黒が僅かに抜け落ちる。

 でも、まだいけない。


 強烈な勢いで自分の体が地面から離れれば、そのまま後ろに向けて方向性を持たせたままのカトンジツ。


ゴオォッ!!


 直線状に圧縮して噴射された炎は、生身では辿り着けない推進力で私を大気の壁に圧し潰す。

 肉体に圧し掛かる強烈な負荷。

 装備の鋼殻ごと私の身体が軋む。

 バチリ、という音と共に、耳に痛みが感じた。



 しかし。



『———— アッ』



 一瞬。


 瞬きする暇さえ与えぬほどの刹那。

 天使達が気づいた時にはすでに遅く、私は奴らの背後に突き抜けた。


 次の瞬間には、私との直線状に近接していた30体以上の天使が無残に崩れ落ちる。

 天使達の羽が、首が、顔が、胴体が、ずれ墜ちた。







『問題無いでござる!』


 その言葉が聞こえた後、白影の通信機から応答がなくなった。

 これは怒らせてしまったか?


 思えば白影は高峰嬢に何かと対抗心を抱いていた。

 同じ戦闘系の特典持ちだし、顔面偏差値や女子力が互角だからなのかは分からない。

 胸に関しては比べるのが烏滸がましい、おっぱいと胸板の分厚い壁が存在するものの、白影は高峰嬢を蹴落とそうとしていたし、高峰嬢も白影のマウントを取ろうとしていた。


 そんな彼女に対して、無理そうだったら高嶺嬢を向かわせようかなんて、改めて考えると怒られても仕方がない失言だ。

 うーん、どうしよう。

 白影は普段こそ忍びだ、主だ、忠誠だと言っているが、ぶっちゃけ日本かぶれの域を出ないなんちゃって忍び。

 ちょっと感情的になればすぐに素が出る根性なし。

 普段の発言は雰囲気だけで聞き流し、ちょっとばかし拗らせちゃった女の子として扱った方が無難だ。


 これは後で白影が帰ってきたときにフォローしといた方が良いかな。

 

「ぐんまちゃーん、私も行った方が良いですかー?」


 俺の通信を聞いていた高嶺嬢が、戦闘モードでスタンバっている。

 焦点を失い爛々と輝く瞳、何故か間延びする語尾、彼女を構成するあらゆる要素が、周囲へと無作為に狂気を振り撒いていた。

 もはや精神的なテロだ。


 基地中で鳴り響くけたたましいサイレン音と相まって、気の弱い常人なら容易に発狂してしまいかねない。

 もちろん、元は若輩の素人とは言え、探索者達はなんだかんだで実戦を超えてきている。

 流石に狂気の余波程度ではトラウマ持ち以外は、情緒不安定になるだけだ。


「クソ、こんなところになんていられるか!

 俺はもう付き合ってられないぞ!!」


 万全に思われた同盟の防衛網が崩壊しかかっているせいか、アレクセイが如何にもなセリフを吐きながら、管制室から出て行った。

 映画とかならアイツ死ぬな。

 

 と思ったら、扉の陰からひょっこり顔を出す。


「トモメ、悪いけど一緒についてきてくれないか?」


 人類の二大勢力、その片割れを統率する男、アレクセイ・アンドーレエヴィチ・ヤメロスキー。

 彼は見る者に冷たい印象を与える怜悧な眼つきのまま、なんとも情けないことを言っていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アレクセイくん。映画のキャラなら死亡フラグ立てたりしつつもうまい事やって生き残るタイプなのか。
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