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俺と君達のダンジョン戦争  作者: トマルン
第二章 序盤戦とか外交とか色々
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第四十一話 ヘドロの瞳と外交説明

 根拠地の食堂、そのテーブルにて、俺は対面に高峰嬢と白影を座らせて向かい合っていた。

 ヘドロのような瞳でこちらをジッと見つめる二人を後目に、俺は湯気の立つ緑茶を一啜り……

 …… しようと思ったけど、熱そうだから唇を少し湿らすくらいにしておく。


「これまでの日本勢の外交状況を振り返ってみよう」


 国際連合の拠点爆破事件、その後の国際裁判によって、俺達を取り巻く政治状況は大きく変化してしまった。

 それを一旦整理する意味でも、自分が考えていることを二人に話そうと思ったのだ。

 決して、そう、決して彼女達が醸し出す雰囲気が恐ろしすぎるので、ダンジョン探索よりもまずはお話しようとしているのではない。

 雑談する勇気がなくて、つい外交関係の話に逃げている訳では、決してないんだ!!

 ないんだよぉぉぉ!!!



 国際連合の拠点爆破事件まで、日本勢の対外関係は全方面に対して友好的中立と言って良い状況だった。

 人類の二大派閥である人類同盟と国際連合の両者から加入を要請されつつも、それを棚上げしていた中立的立ち位置。

 特定国家以外からは敵視されることなく、どこの国とも友好的な関係を築けていた。


 最大勢力である人類同盟からは、フランスの探索者アルベルティーヌ・イザベラ・メアリー・シュバリィーを引き抜いたことにより、心象はいくらか悪化していたが、それでも協力関係を結べる程度には関係性を保てていた。

 日本勢単体でダンジョン攻略が問題なく行える状況では、理想的な外交状況とも言えるだろう。

 日仏はどの勢力からも深く干渉されることなく、ある程度自由にダンジョン攻略を進められ、莫大な物資を蓄える事が出来ていたのだ。


 しかし、そんな日仏の盤石な外交体制も、国際連合の拠点爆破事件、その後に行われたダンジョン戦争において初の国際裁判により、崩壊を迎えることとなってしまった。

 ここで、改めて現在日仏を取り囲む外交状況を説明する。


 今回の国際裁判によって判明した同盟加盟国による連合への破壊工作。

 連合によって強引に取り纏める形となった裁判の判決。

 そして、裁判後に勃発した各国入り乱れての大乱闘。

 これらによって、人類同盟と国際連合の対立は、決定的なものとなってしまった。


 なまじ、全ての映像が各国の全国民に公開さていることにより、各国の探索者達は、誤魔化しや後退あとずさりも許されない。

 国家によっては、特定国の大使館に対して攻撃すら行われている可能性もある。

 もちろん、他国との遮断が解かれた後のことも考えて、各国政府はそれほどの無茶をすることはないだろうが、国民もそうとは限らない。

 強烈な民意に屈してしまう政府も中にはあることだろう。


 今後、同盟と連合は今回の後始末如何によっては、人類間の武力衝突も視野に入れなければならない。

 本国から隔離された空間での、対外戦争中の人類間戦争。

 人的物資の補給が絶望的な中、行われる狂気の争いは、間違いなく人類史で最悪の愚行となるだろう。


 また、第三国の連中も今回の件により、今後どのような立場に立つのか分からない。

 一応、白影に頼んだ工作のお陰で、多くの国家は一時的にではあるものの、俺達日本勢の側に立ち、同盟に対し反対の姿勢をとった。

 しかし、だからと言って、彼らが今後もそのままの立場でいてくれる保証はどこにもない。

 確かに今回の件で同盟は大きく失点したが、彼らはそれをすぐさま挽回しようとするはずだ。

 その中で、今まで無視していた第三国に対して、なんらかの外交工作を行ってくるのはほぼほぼ確定と言って良いだろう。


 なにせ、ダンジョン戦争における最重要要素と言うべき『特典』、10人いる特典保持者の内、2人が第三国の中に埋もれているのだ。

 俺が『強くて成長する裏切らない従者』、高峰嬢が『すごいKATANA』と『かっこいいマント』、白影が『カトンジツ実践セットSYURIKEN付』。

 同盟はガンニョムと戦略原潜、歩兵用強化装甲におまけで水筒と葉巻を保有している。

 連合は漢らしく特典無しで戦っているので、第三国に埋もれている特典は、『スペシャル冒険セット』と『現状を事細かに説明された書物』。


 二つとも地雷臭を醸し出しているものの、それでもまともな物品なら文句無しに強力そうだ。

 特に書物の方は、可能ならば是非とも手に入れておきたい。

 もちろん、既にいずれかの勢力が手に入れていて公表を控えていることも考えられるが、それでも特典保持者探しは活発になっていくことだろう。


 このような外交環境の中、俺達日本勢が置かれている状況を整理しよう。

 まず、友好関係にあるのは、今回手を組む形となった国際連合。

 第三次大戦で日本に救われた東アジア以外のアジア各国も、歴史的経緯から日本とは友好的だ。

 中南米とアフリカ諸国は、日本に対し友好的な国や謎の尊敬を抱く国が多いものの、今回ちょっぴり外交的恫喝を行ったので、尊敬から畏怖にジョブチェンジしている国も少なくない。

 そして今回、明確に対立してしまった人類同盟。

 今までは連合と同盟のどちらにも寄っていなかった俺達だが、今回の件で同盟との関係は大幅に悪化したとみて間違いない。


 この状況下で、日本がとれる有効的な策は4つ。

 1つ目は、このまま国際連合に加わり、同盟への警戒を強めつつもダンジョン攻略を進めること。

 これはあやふやだった日本の国際的立ち位置を明確にし、堅実かつ盤石な外交体制と組織力を手に入れることができる。

 ただし、同盟との対立は決定的に深まり、人類間戦争が秒読み段階になりかねない。


 2つ目は、今回の件で人類同盟上層部を徹底的に糾弾、国際的地位を凋落させ、その隙に高峰嬢と白影の武力と、膨大な魔石採取量を背景に同盟の主導権を奪い取ること。

 これは日本を一気に地球人類の指導的立ち位置に立たせることができるが、内外に多くの敵を作ることになるだろう。


 3つ目は、連合とのパイプを活かして同盟に対して口利きをし、今回の失態をフォローしてやること。

 これにより、日本の外交関係は事件前の状態に復元することができる。

 しかし、何の成果も得られない。

 プラスマイナスゼロだ。


 最後の4つ目は、ゴーイング・マイウェイ!

 日本勢は己の道を突き進み、ひたすらダンジョン攻略に邁進するのみ!!

 文句なしの脳筋外交だ。

 利点として、日本勢のリソースを全てダンジョン攻略に注ぐことができるので、攻略による特典と物資は一番手に入れることができる。

 欠点として、外交的にガラパゴス化しかねないことだ。


「どれが良いと思う?」


 正直なところ、国家の命運を左右すると言っても過言ではない決定を独断で下す度胸は、俺にはない。

 なので、何らかのきっかけでも良いから、高峰嬢と白影から意見が欲しかったのだ。


「そうですね…… 政治のことは良く分かりませんが、私はぐんまちゃんの判断に任せます」


「拙者はトモメ殿の忍びなれば、主の後に付き従うのみ」


 二人は相変わらずだ。

 もうどうしようもねえな。


 明らかに戦後の日仏両国の命運を決定づける決断。

 もちろん俺にそんなことを決定する度胸なんてない。

 仕方ないよね、学生だもの。

 3週間前まで、地方の国立大で暢気なキャンパスライフを送っていた大学生に、無茶言うなって話だよ!


「まあ、なるようになるか」


 ぬるくなったお茶を飲みながら、俺は目の下にどす黒いくまを作って、完全に光を失っている二人の双眼をほんわか気分で眺める。

 とりあえず、シーラが本国から事件の真相を取り寄せ次第、人類同盟を削り落とすかな!


 不意に、左手に装着している端末に着信があることを気づく。

 端末のメッセージ機能を開くと、昨日連絡先を交換していたロシアのアレクセイからメッセージが届いていた。

 今まで全く使うことのなく、存在にすら気づいていなかったメッセージ機能。


 初めての受信に、ドキドキだ!

 そうか…… 俺の初めては、アレクセイか。

 スラブ系らしい雪のような白い肌と薄い金髪、くすんだ青い瞳から覗く冷徹な視線を思い出す。

 うわっ、ゾワッとしたわ!

 気持ちわるっ!!


 ダンジョン戦争初のメル友に対して、極めて失礼なことを考えながら、俺はメッセージを開いた。

 なんだろう?

 食事会のお知らせかな?




『先程、スウェーデンの根拠地内でシーラの死体が発見された。

 死因は胴体への銃撃。

 犯人は不明』


いつか絶対に殺ろうと最初の段階で思ってましたが、やっと殺れました!

ほのぼの展開も途中に少しだけあったでしょ?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回のシーラは残念でした! 次のシーラならきっとうまくやってくれることでしょう! [一言] やったね日仏ヒロイン! 泥棒猫がいなくなったよ!
[一言] ハーレム入りするならどんな能力なんだろと思ってたからビックリ
[一言] こんな状態で一人で拠点に返してた時点で結果はお察しな気が・・・
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