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俺と君達のダンジョン戦争 作者:トマルン

第二章 序盤戦とか外交とか色々

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第三十七話 殺気爆発はじめてのさいばん 中

「もう嫌ぁ、こんなの、もう嫌なのぉぉ……
 助けて、トモメェェ、助けてぇぇぇぇ!」

 同胞を殺され、自らも裏切りのレッテルを張られて罰されようとしている囚われの乙女。
 彼女の悲痛な叫びは、しかし、周囲を取り囲む数百人のざわめきが掻き消す。
 口々に彼女への心無い言葉が吐き出され、雑多な悪意が独りの少女に突き刺さる。
 殺意、悪意、害意、敵意、ありとあらゆる悪性感情が、空間を満たしている。

 それは絶望の淵に立たされた少女を、地獄に沈ませるのに十分な重さで圧しかかった。
 幾多の欲望に絡み取られた贄の乙女。
 しかし、そんな様を見せても、観衆の攻撃性は増すばかり。
 哀れにも、その心が圧し潰されようとしていた。


 そして。


「へいへーい、だまれだまれー」


 本物の殺意が。


 全てを圧し折った。


 死。

 その場にいる全ての生命体が、自身の死を本能に刻み付けられる。

 人間風情など触れることすら敵わない、次元の違う化物。

 遥かな高みから己を圧し潰した殺意。

 魔界第一層 暗黒洞窟サウース・アフリーカ 1682体。
 末期世界第一層 神殿都市バッチィ=カン 2115体。
 機械帝国第一層 純友不動産 シンジュク=グランド・タワー 289体。
 魔界第二層 魔の森林鉱山キャナーダ 4289体。
 高度魔法世界第二層 古代要塞マジーノ線 7526体。

 最も多くの戦場を駆け抜け。
 最も多くの敵を殺し。
 最も多くの勝利を掴んだ。

 人類の最高戦力。
 朱の鬼。

 その殺意を初めて叩きつけられた人類は、自身の心を圧壊させ、屈服するしかなかった。



 それまで治まる気配のない狂乱に支配されていた大ホール。
 それが今では、なんということでしょう。
 完全な静寂が支配する空間内。
 人々は魂の抜かれたような表情で、膝を突いて、己の赦しを請うように、ただ涙を流すのみ。

「やってやりましたよー」

 たった一言でこの空間にリフォームした匠は、ボールをくわえた飼い犬のように、俺へまとわりついてくる。
 いやぁ、ちょっとビビらせてやろうとしただけなんですけどねぇ?
 流石にこの惨状は、予想外ですわ!

「トモメ殿、今なら全員サクッと燃やせますが……」

 いつもの如く高峰嬢に対抗心を燃やした白影が、自らも手柄を立てようと、物騒極まりない提言をしてくれる。

「わ、私だって!」

 謎の張り合いを始める高峰嬢。
 頼むから、君達はもう何もしないでくれ。

 俺は改めて周囲を見渡す。
 先程まで泣き叫んでいたシーラは、ついに心が限界を迎えたのだろう。
 白目をいて、口を半開きにしながら気絶している。

 俺の正面に座っていた中華民国の探索者は、床で膝を抱えながら何か母国語でブツブツと呟いている。
 裁判官席に座っているエデルトルートとアレクセイは、顔を青白くさせながらも、歯を食いしばってこちらを睨みつけていた。

 うん、イケるな。

「よし、みんな落ち着いたことだし、裁判、始めよっか!」

 今のうちに裁判しようぜ!!
 俺が裁判官兼弁護人兼検事役な!!!



「これより、国際連合拠点爆破事件における、人類同盟及び国際連合による合同裁判を開廷する!」

 エデルトルートの号令の下、死んだ表情の観衆が見守る中、スウェーデンの探索者シーラを裁く裁判ごっこが始まった。
 結局、正気を保っていたエデルトルート達によって、俺の独断専行を推し進めることは叶わず、人々の回復を待ってから開廷する運びとなった。

 人類同盟と国際連合の上層部による裁判官。
 明らかに真犯人臭い中華民国が主導する事件説明。
 晒し物にされるシーラ。
 取り囲む世界各国の探索者達。

 先程と何も変わらない状況。
 唯一異なるのは、俺達日本勢の周囲に空いていた空間が、ビックリするほど広がっただけだろうか。
 そんなに怖がるなよぉ。

「初めに事件の経緯を説明する——」

 主催者にして裁判長を兼ねるエデルトルートの口から、シーラが国際連合の拠点を爆破し、邪魔になったアルフと中華民国の探索者を殺害した一連の経緯が語られる。
 黒幕の思惑通りなら、ここで観衆に対し、事件の犯人はシーラであり、彼女の残虐性を知らしめたいところなのだろう。

 だが現実は無常なり。
 未だ魂が戻ってきていない観衆は、誰一人としてまともにエデルトルートの話を聞いていない。
 これには、精神を持ち直し、再び余裕そうな笑みを浮かべていた中華民国の女も、忌々し気に顔を歪める。
 彼女の表情を見るだけで、俺のお顔はほっこり笑顔だ!

「—— 以上が、人類同盟による調査の結果判明した被告人の犯行内容である。
 異議のある者はいたら、名乗り上げよ!」

 ほとんどの人間がまともに話を聞いていない中、人類同盟が主張する事件の経緯説明が終わった。
 よし、ここから俺とアレクセイによる強引な物証と死体鑑定結果を武器に、反撃しちゃうぞい。
 俺が、そう思っていた矢先だった。
 中華民国の女が立ち上がる。

「御集りの皆様、わたくしは、今回の事件における人類同盟の主席調査員、中華民国の袁梓萌エンズィメンと申します」

 中華民国の女、袁は妖香の如き笑みを浮かべる。
 俺には、その笑みがまるで獲物に絡みつく蛇のように見えた。

「今回の事件で、私は唯一の同胞を失いました。
 この女に、殺されたのです」

 袁がシーラを指さす。

「今回の事件で、人類の雄たる国際連合は、多くの物と時間を失いました。
 この女に、奪われたのです」

 光を失った観衆の目が、シーラにぼんやりと向けられる。

「今回の事件で、人類はかけがえのない絆と信頼を壊されました。
 この女に、壊されたのです」

 エデルトルートを始めとした裁判官席に座る面々が、複雑な表情を浮かべてシーラを見る。

「この女は、人類を裏切ったこの女は、あろうことか己の同胞までも、手にかけたのです。
 このような存在を、果たして放置していて良いのでしょうか?」

 袁の大げさな手振りと同時に、群衆の所々から、彼女に賛同する声が散発的に上がる。
 まあ、それに続く気力は、ほとんどの群衆が持ち合わせていないのだけど。
 サクラなんだなぁ、俺はにっこりしながら、ほのぼの気分だ!

「皆様、地球の未来を救わんとする英雄の皆様!
 悪です、ここに、悪がいるのです!!
 悪を野放しにして————」

 ぐんまちゃんは、ほのぼの気分を、みんなにおすそ分けしたい!!!

「高峰嬢、もう一発、お願いします」


「ヘイヘーイ!」
例えば、『動物園で曲がり角を曲がったら、いきなり飢えたティラノサウルスと対面した小学生(甘噛み付)』、そんな精神状態。
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