第三十四話 ぐんまちゃんの名推理
「———— 爆破跡地で発見された死体は、ここに保管されている」
アレクセイに案内された場所は、ロシア連邦の根拠地内ではなく、エストニア共和国の根拠地にある一室だった。
エストニアは東欧に位置するバルト三国の一角。
大きな戦争が起こるたび、ロシアかドイツのどちらかにオヤツ感覚で飲み込まれるちんけな小国だ!
「…… うぅ」
「…… ひぅ」
アレクセイの後ろにコバンザメの如くくっついているエストニアの探索者達。
気味が悪そうに死体を保管している扉を眺めているあたり、自分の本拠地に死体を置いておくことは彼らの本意ではないのだろう。
では、何故こんな場所に死体が置かれているのか?
…… うん、小国って辛いなぁ?
「おい、開けろ」
ロシア人のアレクセイが乱暴に吐き捨てる。
エストニア人の青年が、一瞬嫌そうな表情を浮かべるも彼に選択の余地はない。
文句も言わずにすごすごと扉を開けた。
「………… うっ」
開けた瞬間、漂ってくる何とも言えない悪臭に、アレクセイが口元を手で覆う。
ダンジョンで嗅ぎ慣れた臭いに交じって、腐臭が鼻孔を刺激する。
「…… っ」
後ろに違和感があって振り向けば、高峰嬢と白影が揃って俺の裾を握っていた。
ダンジョン内では容赦なくモンスターを蹂躙していた彼女達も、同胞たる人間の死臭は堪えるようだ。
忘れがちだが、二人ともこんなことに巻き込まれる前は二十歳のお嬢様。
そんな彼女達をこれ以上付き合わせるのは、流石に酷であろうか。
「君達はここで待っていなさい」
少々不安だが、高峰嬢と白影は部屋の外に置いておくとしよう。
国際連合との交渉に連れてきたのは彼女達だけなので、俺とアレクセイだけで部屋に入る。
エストニアの男女は、アレクセイが何も言わないのを良いことに、高峰嬢達と同じく部屋の中に入ってはこなかった。
如何にもな雰囲気の薄暗い部屋の中、何もない空間の中央にある盛り上がった黒いシートが、異様な存在感を放っている。
耐えがたい悪臭のせいなのか、アレクセイが無言のままシートを取り払う。
シートの下にあったのは、真っ黒な人型。
良く見れば、全身が焼け焦げた人間の焼死体。
焼け焦げた皮肉が骨に張り付き、醜悪な骨格模型と化している。
うわぁ、グロッ!
焼死体は白影のNINJA的なカトンジツのおかげで慣れていたが、こうしてダンジョン以外で見ると、また別種のグロさを感じてしまう。
これからこの焼死体を調べるのだが、日本人として仏さんに会ったらまずは合掌。
ちょっぴり臭いけど我慢して、両膝突いて手を合わせる。
焼死体となった人物も、本来なら祖国と人類のために戦うはずの人間だった。
それが人類同士の諍いで、命を落とすことになろうとは、俺としても思うところがないわけではない。
俺の目的はこの人物が死ぬ原因となった爆破事件の真相解明ではないが、今だけは彼もしくは彼女のために冥福を祈ろうじゃないか。
「…………」
しばらくして目を開ける。
視界に飛び込む黒焦げ骸骨。
うわぁ、グロッ!
近くで見ると、余計にキモいわ!!
『鑑定』
『腐った人間の丸焼き:焼き過ぎて食べることはできない。中華民国出身の男性』
………… うん、突っ込みどころはあるが、今は無視しよう。
そうか、中華民国か。
へー、なんだかややこしくなってきたなー。
とりあえずアレクセイの目を誤魔化すため、無人機管制用のタブレットを取り出して彼に画面が見えないよう操作する。
各無人機のコンディション画面を流し読みしているだけだが、事情を知らない彼にはタブレットを用いて何らかの調査を行っているように見えることだろう。
もちろん、このタブレットにそんな機能なんて存在しない。
精々カメラが付いている程度だ。
しかし、そんな事情を知らないアレクセイは、俺の持つタブレットに熱い眼差しを向けていた。
その視線からは、タブレットのスペックに関する知的好奇心と、何が何でも手に入れてやろうという気迫が感じられる。
今日もロシア人は元気だなー。
「よし、分かったぞ」
「本当か!?
そんなタブレットでこうも早く調査が完了するとは……
日本の技術はやはり凄いな」
アレクセイが良い感じに勘違いしている。
俺はこのタブレットで調査してるなんて一言も言ってないのにな。
いやぁ、ロシア人ってお莫迦さんなんですねぇ!
「死体は中華民国人の男性だ。
死亡時刻は………… 30時間くらい、前、かな?」
引っ掻き回せそうなので、適当な情報も追加しておく。
「なんだと!?
人類同盟にいるはずの中華民国人が、なぜ俺達の物資集積所に……
それに死亡時刻は30時間前、爆発が起きた時間と異なっている。
一体、これは……」
アレクセイが予想以上に混乱してくれている。
うんうん、良い傾向だね!
これで犯人候補は中華民国、韓国の他に第三国の可能性が浮上している。
よし、ガンガン畳みかけるぜ!!
「アレクセイ、ここを見ろ」
俺は死体の腹部を適当に指さす。
アレクセイが指先に視線を向けるが、俺が何に気づいているのか理解していない。
だが大丈夫、安心しろ、俺も分からないから。
「何かに刺された跡がある。
恐らく死因は爆破に因るものではなく、刺されたことに因るものだろう」
「なっ、そんな……」
ショックを受けている様子のアレクセイ。
普段冷徹を装っている彼の表情は、先程から顔芸の如くころころ変わっていく。
名探偵的に、ここで一言、決め台詞が必要だろう!
よし、やったるで!!
「爆破されたのは国際連合の拠点、そこで見つかった韓国製の装置、中華民国人の死体、そして死体は爆破前に刺殺されていた…………」
アレクセイが俺の独白に魅入っている。
蒼白になった彼の喉が、ゴクリと動く。
「犯人の狙いは、国際連合への妨害工作、中華民国への攻撃、韓国への嫌疑……」
盛り上がってきた!
盛り上がってきた!!
盛り上がってきましたよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
「この事件、真相は——」
「トモメ殿、犯人が分かりましたぞ!!」
「えっ、あ………… うん」
おいアレクセイ、その憐れむような目は止めろぉぉぉぉぉぉ!!!
しまらねぇ主人公だなー。
我らが英雄ぐんまちゃんを慰めたい人はこっち
【最高の名探偵】上野群馬君を心配するスレ その412【NINJA絶許】
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