第百十話 半死半生のエルフの上で
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国際標準時 西暦2045年9月7日11時45分
高度魔法世界第4層
北部戦線 人類同盟コロンビア級戦略原潜エ番艦 作戦司令室
「――ん……聞き間違いか?
すまないが、もう一度、言ってくれないか」
エデルトルートが眉間に皺を寄せながら、先ほど受けた報告を聞き返す。
彼女らしくない現実逃避じみた言動に、報告をした福建共和国の楊俊熙は視線に哀れみが混ざらずにはいられなかった。
「……聞き間違いではありません。
南部戦線は大型機動要塞2基および残存敵ガンニョム2機の攻略に成功しました。
内、大型機動要塞1基及び敵ガンニョム2機は――」
楊の口から続けられるある意味で絶望的な報告。
エデルトルートはその報告を元に脳内で素早く損益を計算しながら、今頃後方で厭らしくほくそ笑んでいるであろうスポンサー達への説明をどうしたものかと鈍い頭痛を感じ始めた。
国際標準時 西暦2045年9月7日11時45分
高度魔法世界第4層
北部戦線 北方 大型機動要塞跡地
『……ぅぅ』
『ぁっ』
『ぉ……ぅ……』
なんとなく用途が分かるようで絶妙に分からない機器に囲まれた薄暗い室内は、激しい戦闘の跡を物語るかのように僅かな呻き声だけが鼓膜を撫でる。
艦艇のCICと似ている雰囲気を醸し出すこの部屋は、高度魔法世界が誇った大型機動要塞の中央管制室だった場所だ。
白影はもちろん、ツネサブローやサバンナ☆ブラザーズなどのエース級の探索者達を排除した弱小部隊を率いて中枢部へ強襲した結果、敵を完全に皆殺すことのないギリギリのバランスで制圧することができた。
「やりましたわね、グンマ!
これで第4層ダンジョンは全クリですわ!」
シャルロット公女は口元を緩めて通算1ヵ月以上を費やした第4層攻略の達成を喜んでいる。
しかし、彼女の視線はその口ぶりとは裏腹に、半死半生状態で床に転がっている亜人達から離れない。
どうやら彼女も俺と同様にこのダンジョン戦争における疑問点、異世界側の事情や次元管理機構という存在について、解明しようとしているようだ。
そしてそのことを迂闊に口に出さないところも同じか。
「同盟が苦戦した大型機動要塞とやらもこの程度か。
意外とイケるものだな」
今回、要塞中枢部突入メンバーとして俺の麾下に入っていたチベット連邦の探索者テンジン・ペンバが、予想以上に呆気なく要塞を陥落させたことの達成感をじわじわと感じ始めている。
先の末期世界第4層でやらかした彼だが、今回のことで自信を取り戻したのか、すでに息絶えた亜人の死体を踏みつけていた。
彼だけではなく他の探索者達も似たような感じだ。
それは賢そうな感じがした親同盟諸国のマシュー達も例外ではない。
従者ロボ達はそんな彼らがまだ生きている亜人達に接触しないよう、絶妙な位置取りで壁になってくれている。
「人類の勝利にまた一歩近づきましたわぁ。
日仏同盟は今回も大戦果ですわね」
息も絶え絶えな亜人達の近くにあえて座り込んでいた俺の隣に、公女が近づいてきてわざわざ腰を下ろす。
お互いの意思は手に取るように分かり切ってはいるものの、それを共有できないことが何とも言えないくらいもどかしいな。
公女の特典である攻略本の内容があらゆる場所と方法で他者に伝達できない事情を考慮すれば、俺達探索者の全行動が次元管理機構の管理下にあると考えて間違いないだろう。
ここからはダンジョン側から情報を抜き取る意図を次元管理機構にさとらせないよう、細心の注意が必要になる。
「それはお互い様だろう。
公女達も第4層でかなり魔石を稼げたんじゃないか?
……いやぁ、それにしても疲れたな」
『ぅぐぅっっ……!?』
俺は疲れで床に寝転ぶように、近くにいた腕がもげた高官っぽいエルフの上へ倒れこむ。
傷口を圧迫したせいで、エルフの彼女は苦悶の声を上げて目を見開いた。
腕の傷口からも真っ赤な血潮がピュッと吹き出る。
新鮮だね!
「え、えぇぇ……
……くっ、そうですわねぇ……ぅぅう」
『ひぎぃぃ!!』
公女は一瞬だけドン引きしたけれど、覚悟を決めて俺と同じように腕もげ女性エルフ高官の上に寝転んだ。
ちょうどエルフを真ん中において俺と公女で彼女をサンドイッチしているような体勢だ。
ちょっとわざとらし過ぎるかな……
はしゃいでいたテンジンやマシュー達も俺達のことチラチラ見ているし……
「さて、いやぁ……そのぉ………うーん…………疲れたなぁ」
これからどうしよう。
ぶっちゃけ末期世界の天使達みたいにテレパシーとか使ってもらわないと、どうやって尋問すれば良いのかノープランなんだよね。
公女も完全に俺任せのつもりだったのか、動揺して固まっている。
「えぇぇぇ…………疲れましたわぁ」
やっぱり公女もノープランかよ。
これは困りましたねぇ……
周りの視線も辛くなってきちゃったよ。
『フッ、フッ、フッ、フッ』
俺達にのしかかられている腕もげ女性エルフ高官も辛そうだ。
「……歌でも歌いますか?」
エルフから流れ出た血が衣服に染み込んで微妙な生暖かさを感じ始めている中、公女がとんでもなくサイコパスな発想に行き着いた。
「正気か公女?」
「やっぱり今の無しですわ」
公女も自分のサイコパス宣言にすぐ気づいて発言を撤回する。
『フゥゥ、フゥゥ、フゥゥ、フゥゥ』
あっ、そろそろタイムアップが近くなってそうな雰囲気だ。
そして周囲から俺達に向けられる視線は、完全にサイコパスなクルッポーだ。
困ったね!
『フゥ、フゥ……フゥ………フゥ…………』
あっ、ダメそう。