第九十五話 転換点
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国際標準時 西暦2045年9月5日18時41分
高度魔法世界第4層
北部戦線
人類同盟 大韓民国 李允儿
「――もうじき夜が訪れる。
夜こそ影の領域、死霊の世界」
独り言を呟きながら、同胞である朴がガンニョムの身体を駆け上がっていく。
その身のこなしは身体強化スキルを3重で発動している私には劣るものの、それでも並みの探索者と比べて数段上に位置している。
それこそ、もしも私の身体強化スキルが1つでも消えてしまえば、私の身体能力は敏捷性において彼より下回ることになるだろう。
「俺こそが影の住人、死霊の隣人。
俺の隣には死だけが存在する」
それって死にかけってことじゃない?
良く分からない独り言をブツブツ呟く彼の戦闘者としての能力は、この場にいる探索者達の中で悔しいことに頭一つ抜けていた。
当初こそ眷属を引き連れての連携無き乱入で戦場を引っ掻き回してくれたが、ある程度こちらが彼のペースに合わせることができた今は、彼を中心に戦闘を優位に進めることができている。
彼がガンニョム捕獲作戦を理解しているのか確認できていないことが最大の不確定要因だけど、それでも敵ガンニョムは既に片腕と片足を破損しており、その動きも精彩を欠いていた。
「受け取れ、勝利の号砲だ」
本日8回目の勝利の号砲が、彼の持つリボルバーライフルから放たれた。
カンッ
スタイリッシュに放たれた12.7mm×99mm弾は、軽い音と共にガンニョムの装甲板に弾かれる。
戦車砲の直撃すらほとんど損傷を負わないガンニョムの耐久力、それを考えれば当たり前の結果だろう。
きっとあのスタイリッシュ勝利の号砲に、実利的な意味はないのだろう。
「うぉっ!!!?
あぶねぇな!!」
と思いきや、装甲板に弾かれた跳弾が、朴を援護するためにガンニョムの脚を斬りつけていた探索者を掠めた。
体高20mのガンニョムにとっては豆鉄砲でも、人間にとって12.7mm弾は頑強な探索者すら上半身を弾け飛ばす威力を持っている。
仮に当たったとしたら、ごめんねでは済まないはずだ。
「いい加減、周りを見なさぁぁぁぁい!!!」
朴への思いを叫びながら、渾身の力でガンニョムの胸部装甲の接合部に聖剣を差し込んだ。
これまでの度重なる被弾によるダメージで、頑強なガンニョムの装甲と言えど流石にガタがきていたのだろう。
聖剣は深々と突き刺さり、ガンニョムの装甲に僅かな隙間を開けることに成功した。
「同郷の私の気持ちを考えろぉぉぉぉぉぉ!!!」
感情のまま力任せに剣を動かし、隙間をさらにこじ開ける。
「クックック、まあ、頑張ったんじゃあないか?」
ガンニョムの頭部周りをチョロチョロしていた朴が、いつのまにやら私の傍にやってきていた。
ピンク色のキノコヘアーがフワリと揺れる。
憎たらしいほどに整った顔立ちは、目前の獲物に興奮して下品な程に鼻の穴を膨らませていた。
「身体の中に直接流し込んでやるよ」
朴の手刀が私のこじ開けた胸部装甲の隙間に差し込まれた。
「思い知れ、韓民族半万年の歴史を!」
ガゴッッッッッ!!!
ガンニョムの装甲板が一気に破裂する。
朴がガンニョムの装甲内に召喚した高度魔法世界3層の戦車が、自壊しながらもガンニョムの胸部を弾け飛ばしたのだ。
一緒に飛ばされた私は、胸部装甲が無くなったことで遂に露出した操縦席、そこに座るガンニョムのパイロットと空中で目が合った。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!」
「受け取れ、勝利の号砲だ」
朴はそう言って手榴弾を操縦席に投げ入れて、胸部から飛び降りた。
そこはリボルバーライフルじゃないの!?
国際標準時 西暦2045年9月5日19時04分
人類同盟、高度魔法世界軍ガンニョムの撃破に成功。
同盟軍司令部は撃破機体の移送を指示。
国際標準時 西暦2045年9月5日19時36分
人類同盟、高度魔法世界軍前線基地の過半を制圧完了。
同盟軍司令部は作戦を継続し夜間戦闘への移行を決定。
国際標準時 西暦2045年9月5日20時25分
人類同盟が攻略中の高度魔法世界軍前線基地に異常振動発生。
「――なんだ、この揺れ!?」
「地震か!!」
「一旦、撤退だ!
基地から距離を取れ」
『敵基地内へ突入中の全部隊に緊急指示、基地内部より脱出せよ』