第三十五話 機械帝国第四層第二次攻勢作戦【地図有】
国際標準時 西暦2045年8月16日13時00分
機械帝国第4層
日仏連合第一機甲師団 師団本部 指揮戦闘車内
「—— これより、機械帝国第四層第二次攻勢作戦を開始する。
第一機甲師団及び第一から第四機甲旅団に属する砲兵連隊は砲撃を開始せよ」
「第一から第五重砲連隊、砲撃開始。
………… 測距砲撃終了後、順次効力射に移行します」
指揮戦闘車内にて、俺とシャルロット公女の声が淡々と響く。
公女も戦闘モードに入ったのか、いつものですわ口調が消えている。
もしかしてキャラ付けだったのかい?
ドゥドゥドゥドゥドゥゥゥゥゥゥゥゥ
俺達が乗る指揮戦闘車は、第一機甲師団の後背まで進出しているので、重砲連隊による砲撃音が指揮戦闘車の装甲版を震わせて俺に届く。
音が鳴るたびに155mm榴弾砲と220mm収束墳進弾が、機械帝国軍防衛線に向かって投射されていることだろう。
「———— 現在、第15斉射を完了。
目標破壊率が作戦計画の95%を超過したため、砲撃を一時中止します」
「自走砲のみ砲撃を再開。
待機中の第一から第四旅団所属の各機甲連隊は前進を開始せよ」
「第五から第九機甲連隊、計画ラインまで前進開始」
ディスプレイの戦域地図に示された青い光点が一斉に動き出した。
敵の目からその動きを覆い隠す様に、自走砲群による継続砲撃が敵陣地に覆いかぶさっている。
「第五から第九機甲連隊、計画ラインに到達。
敵陣地に対し機動砲撃を開始します」
「第三、第四フワッフ軍団、前進を開始せよ。
ODA機甲連隊は支援砲撃を実施せよ」
「第三、第四フワッフ軍団およびODA機甲連隊、前進開始」
それぞれ9万体の下僕妖精を擁する第三、第四フワッフ軍団が、機械帝国側防御壁を目標に前進を開始する。
『ふわっふ!』
計18万体ものフワッフの喚声が、指揮戦闘車内にまで聞こえてきた。
彼らの中で何体がこの戦いに生き残れるのだろうか……
肉盾と言えど、頑張って生き残って欲しいものだ。
まあ、彼らを地獄に突撃させるのは俺なんだけど。
「敵の迎撃を散発的に受けていますが、フワッフ軍団損害率は計画基準を下回る0.2%です」
公女が敵の迎撃力に大きな問題が生じていることを報告する。
まさか事前砲撃だけで前線の機械帝国軍を全滅できるはずがない。
おそらく本命の待ち伏せだろう。
「上空待機中の第一爆撃飛行隊に第一機甲師団進撃予定路への爆撃を指示せよ」
「第一爆撃飛行隊、第一機甲師団前方の敵陣地に対し爆撃開始」
「第一機甲師団、進撃を開始せよ」
「第一機甲師団、進撃開始」
俺からの矢継ぎ早の指示を公女が正確に麾下部隊へ通達する。
同時に、数百両の多脚戦車が一斉に動き出す地鳴りのような駆動音が響く。
『ヘイヘーイ! 粗大ごみのリサイクルはこちらですよー!』
無線から一瞬、狂気が漏れ出した。
戦列から大きく突出し、何故か味方の砲爆撃の中に進んで突っ込んでいくたった一つの青い光点は出来れば見なかったことにしたい。
隠れていた機械帝国軍が次々と戦域マップに赤い光点として表示されるが、その青い光点が近くを通るたびに溶けるように消えていく。
「ハナ・タカミネ、敵陣地正面に単身突撃を行った模様」
公女の冷静な声が、俺の現実逃避を許さない。
『カラダにピース? もうカラダがピースじゃないですかー!』
思わず飲んでいたカルピスを吹き出しそうになる狂気が飛び出してきた。
機械兵の身体を部品にしちゃったんだね……
だんだんと、赤い光点が青い光点を避け始めるようになるが、残念だがそいつからは逃げられない。
『ヘイヘーイ、逃げないで下さいよー! やめられなーい! とまらないー!』
これはまた、えびせんが食べ難くなるようなことを……
計画通りに前進する戦列が、遂に機械帝国防御壁に到達するものの、ほとんど迎撃らしい迎撃はなかったようだ。
まあ、そうだろうなと納得しかない。
『トモメ殿、防壁も越えた故、そろそろ拙者も動くでござる』
おっと、こっちも指揮統制を投げ捨てちゃったか……
「アル姉様……」
公女もいつもの調子が戻ってきた。
同時に、自軍の戦列から青い光点が猛スピードで飛び出していく。
速度表示はマッハ4…… ミサイルか何かかな?
既に独走状態の高嶺嬢は、敵前線基地に殴り込みをかけているが、白影もそこに飛び込んでいった。
そして外部映像に映し出される彼方に立ち昇る赤黒い火柱。
いつも通りの光景だ。
『トモメ殿、敵前線基地から特異個体の出撃を確認したでござる』
狂気に駆られた決戦兵器と比べると、まだ理性的なNINJAが前線から報告を上げてくる。
索敵機の映像を白影が報告を上げた地点に切り替えてみれば、明らかに他の機械兵とは異なる特異な機械兵の存在が認められた。
そいつは通常の機械兵よりも三回りほど巨体であり、目測だが凡そ全高20m弱といったところか?
ガンニョムに準じる大きさだろう。
外装も明らかに強靭なものであり、見たところ機動力も通常タイプと比較して格段に向上しているようだ。
「…… これが、機械帝国の英雄クラスですか」
公女がそれっぽいことを言う。
どうせ特典で事前にその存在を知っていたのだろう。
彼女の特典もなかなか分からない。
内容の伝達には制約があるのだろうけど、今のように公女が無意識で漏らす情報などは筒抜けだ。
見たところ、その漏洩に対して公女への代償はなさそうだし……
英雄クラスの存在確認と同時に、公女が情報を漏らせたということは、既知存在の情報などは意図的な伝達は無理でも無意識下での漏洩は可能ということか?
検証しようにも無意識というのは中々に難しい。
このことを公女に伝えてしまえば、以降の無意識漏洩に制限がかかってしまうことも有り得る。
俺は新たに出現した脅威である英雄クラスの機械兵を画面越しに睨みながら、公女の特典に対して考察を進めた。
『ヘイヘーイ、大きな金属ゴミはバラバラにしないと駄目ですよー!』
あっ、高嶺嬢とエンカウントしちゃったわ。