第五十六話 彼ら彼女らの結束
『アフリカ連合・島嶼諸国連合・ラテンアメリカ統合連合・自由アジア諸国共同体・新興独立国家協定・汎アルプス=ヒマラヤ共同体の諸君。
私は諸君らの連合大隊隊長、イロコイ連邦タタンカ・ケンドリックだ』
日仏連合司令部との距離10㎞の地点。
司令部とのまともなやり取りは未だにできていない。
戦線全域が膠着する中で遊兵となった6つの国家連合の各小隊は、戦局打破の為に襲撃を受けている司令部へと歩を進めていた。
『我らの目標は、大規模な敵集団に襲撃を受けている日本軍総司令部の救援である』
当初、第三世界諸国間の連帯を阻みたい日仏連合首班トモメ・コウズケの思惑によって、戦線全域に分散配置されていた探索者達の小隊。
しかし司令部の混乱に伴う命令途絶により、戦力的に宙ぶらりんとなったことで各小隊は独自に行動を開始した。
戦線停滞の中、小隊間で交わされた手短なやり取りの結果、イロコイ連邦探索者タタンカ・ケンドリックと彼のブレイン達を暫定的に中核として、6つの国家連合に分割され小隊単位で運用されていた第三世界諸国は大連合を結成した。
『現在、日本軍総司令部周辺地域には1個連隊規模の天使集団が展開している。
情報では何体かの大型兵器も存在するようだ。
既に前線から日本軍2個機甲連隊が援軍として向かったが、これからの戦いは今までと異なり苦戦は免れないだろう』
連合大隊の戦力は探索者83名と日本から供与された輸送多脚車両20両。
20個小隊から構成された1個大隊と戦力を定義されてはいるものの、その実態は精々が中隊規模の小兵力だ。
一部の探索者は高価な次元管理機構産の武具を装備しているが、それでも連隊規模の敵集団を相手に善戦できるかと聞かれれば厳しいと答えざるを得ない。
『諸君らの中には日本とフランス…… 列強と呼ばれる大国に対して、面白くない感情を抱いている者もいるだろう。
強引な手段で自分達にとって都合の良いように世界を書き換える強国を憎む者もいるだろう。
しかし、彼の国はこのダンジョン戦争において、第一の戦功を打ち立てている地球人類の刃である!
これからも多くの敵を打ち倒す人類戦力の主力である!!
このような場所で失って良い戦力ではないのだ!
兄弟たちよ、我々の双肩には人類の運命がかかっている。
日本とフランスを救うのだ!!
祖国と人類の未来のために!!!』
つい2か月ほど前までは、探索者達のほとんどはただの学生だった。
一定水準以上の教養と国家への帰属意識、ある程度常識的な精神性などを備えているという共通点があるだけで、従軍経験も実戦経験もない善良な一国民だった。
そんな彼ら彼女らが突然、見知らぬ場所へ何の情報もなく誘拐同然に連れて来られ、独自文明を持った未知の生物との戦闘に放り込まれたのだ。
開戦当初は祖国側の混乱により的確な指示が出せなかったこともあり、少なくない数の悲劇が発生してしまった。
最初の混乱を乗り越えても、祖国からの支援が上手く進まずに粗末な装備のまま戦い、倒れていった者も両手の数では足りない。
戦死者の数は一つの階層を攻略していく度に増え、探索者が全滅した国家は先進国途上国の区別なく存在する。
三大勢力たる人類同盟、国際連合、日仏連合の首脳部からは雑兵とされた第三世界の探索者達。
しかし、幾多の苦難を乗り越えた経験は、そんな彼ら彼女らを間違いなく一個の兵に育て上げた。
そしてその中でも一部の者は次元管理機構から齎された武具やスキルより異世界の技術を取り込み、超常の戦力へと自らの可能性を解き放つ。
「飛んでる奴は天使だ!
飛んでない奴はよく訓練された天使だ!!
ホント戦争は地獄だぜ!!!」
車体上に設置された12.7mmM2重機関銃を操るパラオ共和国の女性探索者。
彼女は襲い来る天使達に容赦なく大量の12.7×99mm弾を叩きこむ。
彼女の乗った車両が過ぎ去った後には、着弾の衝撃でバラバラに吹き飛ばされてしまった少し前まで生物だった残骸しか残らない。
「あぁ、天使共の焼ける臭いは格別だ」
良く分からないけどなんか火の出る短管を振り回すガイアナ共和国の男性探索者。
短管を一振りするたびに、筒状の先っぽから火の玉がポポポポーンと勢いよく飛び出し、敵集団にちょっぴり過激なあいさつの魔法を送り届けていく。
時折、地面から飛び出してきた天使が運悪く直撃してしまい火達磨と化し、苦痛がにじみ出た絶叫を挙げる。
「うるせぇ! 短管で頭ぶっ叩くぞ!!」
地面に転がる焼死体を多脚輸送車が踏み潰しながら、ガイアナの男性探索者は怒鳴りたてた。
各々の戦法で順調に転進する連合大隊。
その中でもとりわけ目立った活躍を見せていたのが、異質な戦装束に身を包んだ7人、第三世界諸国の七英雄と謳われる☆彡魔法少女☆彡サバンナ☆ブラザーズ。
漆黒のひらひらした戦闘装束を身に纏う中央アフリカの雄、水兵服を着た月の執行者たる大マラウィなど各々高い露出度と言う点以外全く異なる衣装。
見る者によっては嫌悪感を抱くだろう突飛な衣装。
しかし、その戦闘力は戦場において本物の輝きを放つ。
生身での戦闘力は日本のハナ・タカミネ、フランスのアルベルティーヌ・イザベラ・メアリー・シュバリィーに遠く及ばない。
ドイツのフレデリック・エルツベルガー、イラクの全身強化装甲のように優れた装備を持っている訳ではない。
ギリシャのホモゲイス・シュードーン、リベリアのアルフレッド・モーガンのように強力な配下を従えている訳でもない。
しかし!!!
開戦以来、特典無しで祖国からの貧弱な支援の下、戦い抜いてきた彼らの風格は歴戦の古参兵!
大地で、空で、地中で、あらゆる場所、空間で☆彡魔法少女☆彡サバンナ☆ブラザーズは敵を打ち倒す!!
『こちらアフリカ連合第4小隊、本隊と合流した!
これより大隊司令部の直接指揮下に入る!!』
『汎アルプス=ヒマラヤ共同体中隊合流!
まだまだ弾薬はたんまりある!!
弾幕張りならお任せあれ!!!』
『自由アジア諸国共同体、輸送車は擱座したが他車へのタンクデサントで進撃を継続!!
俺達の戦いは終わらせんぞ!!!』
バラバラだった諸国家、一つ一つはちっぽけな小隊が次々と合流し、連合大隊を形成していく。
日仏連合司令部救援と言う同じ目標の下、全員の心を一つに多国間の全力を結集させるその姿は正に過去現在多くの人々が夢見た人類の結束。
多くの列強が加盟するが故に内部の軋轢が激しい人類最大勢力たる人類同盟でもない。
ロシアと言う一つの強国が軸となり加盟国を縛り付けている国際連合でもない。
たった3人でありながら人間関係が泥沼化している日仏連合でもない。
第三諸国と一纏めにされ、国際政治と言うゲーム盤の上でないものとされてきた国々が、他のどの勢力よりも先に成し遂げたのだ。
なんたる偉業。
なんたる皮肉。
『総員、力を尽くせ!
日本軍総司令部まで残り5㎞!!
あの山を越えた先だ!!!』
連合大隊は各々が主役と言わんばかりに誰一人手を抜かず、恐れず、勇猛果敢に攻め続ける。
主戦場に近づいたことで天使達の抵抗も激しさを増すが、彼らの盤石な結束の前ではさしたる問題にもならない。
このまま進撃が継続し、あと数時間で目標地点に到着する。
誰もがそう思っていた。
『———— な、なんだっ、前方の地面が盛り上がっている!!?』
国際標準時2045年7月12日15時43分。
アフリカ連合・島嶼諸国連合・ラテンアメリカ統合連合・自由アジア諸国共同体・新興独立国家協定・汎アルプス=ヒマラヤ共同体連合大隊、未確認大型兵器と会敵。