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俺と君達のダンジョン戦争  作者: トマルン
第三章 色んな国の探索者が登場したりしなかったり
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第四十六話 爆発オチ

 理不尽な要請の回避に徹していた俺からの強烈な反撃に、公女は勿論、傍観していたイロコイボーイ達にも衝撃が走る。

 俺の言葉に彼らへの恫喝も含んでいることは、気づいてくれているだろうか。

 

「待ちなさ——」


「—— 待ってくれ!

 日仏連合は今回の会談の委細に関わらず、戦域内への砲撃を実施しようというのか!?」


 肌が黒いため分かりにくいけど若干顔を青褪めさせたボツワナボーイが、反論しようとした公女の機先を制して己の言葉を被せた。

 彼ら第三世界探索者の顔を見れば、全員とは言わないまでもそこそこの人数が表情を歪めている。

 ふふふ、これで第三世界諸国の一定数がこの会談でなんとか俺と今後の方針を共有しないと、まともに攻略ができなくなると気づくだろう。

 多少強引ではあるが、彼らを使って諸国を日仏寄りへと誘導していけるな!

 

 俺はにっこりとボツワナボーイに微笑んで、彼の言葉を肯定も否定もしない。

 君達に思考する余地はないんだよ。

 良いからさっさと俺の思惑通りに踊ってくれないか?


 ここまでは俺の思惑通りだった。


「なにっ、それは一体どういうことだ?」


 中には発言の裏に隠された意図を読めない奴もいる。

 俺の意図を掴めていない代表格であるTHE脳筋なイロコイボーイが、訝しげな顔で俺に聞いてくる。

 そして一応のリーダー格だったイロコイボーイの発言を切っ掛けに、俺とボツワナ派にとって不幸にも全体の過半数を占める脳筋勢が動き出してしまった。


「それだと我らも事情が異なるんじゃないか?

 ここは一度、場を仕切り直して——」


「それでは遅い!

 この会談が破綻すれば、各々が勝手に攻略を進めてしまいかねないのだぞ!」


「ええい!

 静まれ、まずは発言の意図をだな……」


 それまで黙っていた第三世界諸国の脳筋派探索者達が、口々に自分達の言いたいことを話し始める。

 おっとぉ、会談が壊れ始めたぞ?

 これは予想外。

 俺の言葉は思った以上の動揺を誘ってしまったようだ。

 不味い流れですぞ!


「ああ、なんということ!?

 このままでは会談が破綻し、陰で日仏に接近して自国だけ利益を得ようという国家も出てきかねませんわ!

 よくよく考えれば、同じダンジョンを攻略するために結んだ暫定的な協力関係!

 一度崩れればすぐに皆がバラバラになってしまいますわぁぁ!!」


 己の勝利への道筋を目ざとく見つけた公女が、ここぞとばかりに第三世界諸国の不和を煽りに行く。

 その瞳からは墓穴を掘った俺に対する愉悦がありありと感じ取れた。

 嫌なことをしようと思ったら、特大のブーメランが返ってきたでござる!


「皆、落ち着くんだ!

 このままではまともに日本と話し合いすらできないっ」


 ボツワナボーイを始めとするボツワナ派が必死に周囲を宥めようとするも、一度走り出した暴走機関車を止めるにはあまりにも非力。

 元来の緩く曖昧な結束で纏まっていたデメリットがモロに出てしまっている。

 俺がリーダー格と睨んでいたイロコイボーイは周囲を無言で威圧しているものの、あの顔は現状を何も分かってなさそうだ。

 明確な統率者がおらず各々の探索者達が好き勝手に行動している様は、烏合の衆と言う言葉を見事に体現してしまっていた。


「収拾がつかなくなってしまったようですわね、トモメ・コウズケ」


 喧騒のど真ん中で散々に掻き回していたシャルロット公女が、いつの間にか喧々諤々の論争を繰り広げる輪から外れて俺の隣に来ていた。

 混沌とした状況に口出しを諦めたのか、それとも既に介入する必要が無いと判断したのか。


「そうですね、公女殿下。

 このままでは諸国間の連携は崩壊し、ダンジョン攻略に深刻な影響を与えます。

 …… 多くの死者も出るでしょうね」


 八つ当たり気味に彼女の良心を揺さぶってみるが、その碧眼からは何の感情も読み取れない。

 燃え盛る山々を背景に分裂寸前の第三世界諸国のみを映す。


「このまま放っておけばそうなるやもしれませんわ。

 ならば、列強の横暴から守るためとは言え、原因の一端を担う妾達がある程度収拾するしかありません」


 自分の起こした事態で人死にが出るかもしれないというのに、ほんの1、2カ月前まで箱入り娘だった彼女に動揺した様子は見られない。

 淡々と自国の利益を追求する狡猾な小国の指導者がそこにいた。

 彼女の瞳に甘さも油断も存在しない。

 

「そうなれば殿下の率いる派閥は、現状の第三世界諸国連合を取り崩して少なくない数の小国を従えることができますな。

 貴女の思い描いた絵図通りの状況だ」


「…………」


「ルクセンブルク大公国が一派の力は増すことでしょう。

 同盟と連合が相争うパワーゲームに一石を投じることのできる程度には。

 慶事ですな、殿下はようやく末席とは言えプレイヤーの席に着けたのです。

 人口100万にも満たない小国にとって快挙と言っても良いでしょうね」


 公女の碧眼が細められ、ベネルクスの宝石と謳われた美貌が淡い怒りに色づいた。

 

「…… 何が言いたいんですの?」


「精々気を付けることです。

 貴女は二大勢力の視界に入ることになる。

 もう無視はされません。

 良い意味でも、悪い意味でも」


 公女の視線が俺に向く。

 しかし、俺の視線は未だ喧騒の中にある第三世界諸国にしか向いていない。


「自国の利益を優先するというのなら、それも良いでしょう。

 貴国は貴国の道を行くが宜しい。


 我が国は人類の勝利と祖国の民の為に動くことにしましょう」


 よし、良い子ちゃんアピールはこの辺で良いかな?

 当初の予定とは大きく変わっちゃったけど、もう過ぎたことはしょうがない。

 

 俺は徐に国防軍謹製のマルチディスプレイを取り出し、セットしてあった起爆ボタンを軽快にタッチした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 机上の論争ではお姫様の勝ちのようだ。 第三勢力、あるいは第4番目の勢力として躍り出る事への問題もあるかもしれない。 それはそれとして、開幕爆破のお約束はやるんだね(。。
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