第四十一話 青年とお嬢様、相変わらず金が無い
デスクトップパソコンのような武器屋の注文インターフェース。
マウスをカチカチ弄りながらディスプレイに投影される商品欄をスクロールしていく。
武器屋で販売されている商品は、従者ロボが装備している守護者の王剣など異世界産のものを除けば自国製しか表示されない。
他国の製品も表示できなくはないが、その手段は該当製品を他国から譲渡されることのみ。
ゆえに現状、日本の武器屋には日本製とフランス製、そして前回の戦いで人類同盟から譲渡された無人機銃座と無人戦車しか地球製商品は取り扱われていない。
「わぁ、沢山あるんですね!
ぐんまちゃんはどれを買うんですか?」
「いやー、迷うよなー。
でも買うやつはだいたい決まって……」
うん?
顔を横に向ければ、いつの間にか高峰嬢の綺麗なお顔があった。
やや目尻の上がった大きな焦げ茶の瞳がキラキラと俺を見つめる。
「おおっ、高嶺嬢!?
いつの間にいたんだ」
「ふふふ、びっくりしましたか?」
イタズラ、成功しちゃいました! そう言って高嶺嬢はニヘラとはにかんだ。
容姿だけなら可愛いというよりも、綺麗という印象が強い彼女の幼さすら感じさせる子供っぽい笑顔。
俺は知っている。
素手で戦車の砲塔を引っこ抜いた時も同じ顔をしていたことを。
しかも補足半径150mを誇る俺の索敵スキルは、彼女にとってイタズラ感覚で掻い潜れる程度のザル警戒らしい。
まあ、主な原因は俺の注意不足なだけだが。
「正直、心臓が止まるかと思ったよ。
君の顔を見た瞬間ビビったね」
紛れもない本心である。
「もう、ぐんまちゃんはぁ」
俺の言葉を冗談と受け取ったのか、高嶺嬢は困ったように形の良い眉を曲げながら、頬を小さく膨らませた。
戦場で敵がこの顔を見た瞬間、そいつは死の運命からどうあっても逃げられないだろう。
いや、それは彼女に出会ってしまった段階で決定事項か。
まあ良い。
そんなことよりも今は無人兵器だ。
フランス製兵器は明らかにEU規格であり、性能自体もパッとしない。
前回の戦いで使用した人類同盟の無人兵器は、安かろう悪かろうを地で行く使い捨て品。
既に偵察や物資輸送に国産の42式無人偵察機システムを使用しているし、他の無人機も日本製が無難だろう。
そうなると選択肢も限られてくる。
欲しい兵種も戦闘機、爆撃機、陸戦用の汎用多脚車両。
情報流出やコストを考えて敢えて旧式を選ぶのも、今後の戦局を考えれば金をドブに捨てるようなもの。
だとすれば、もう決まったようなものだ。
「おっ、その3つを買うんですか?」
条件を絞り込んで残った兵器は3種類。
「これは太めのミサイルですね!」
「いや、戦闘機だよ」
UF-2無人戦闘機、2040年に我が国が開発したステルス無人戦闘機。
平べったいミサイルに大きめの翼が生えたようにしか見えないが、性能自体は立派な第5.5世代戦闘機だ。
全長11m自重7tほどの小柄な機体だが、電子と可視光線の両面における高いステルス性、スーパークルーズ性能、推力偏向機構と単純な性能だけでも世界最高峰。
その上、行軍、索敵、発見、判断、攻撃、回避、退却を全て自律可能な次世代人工知能を搭載している。
お値段は機体単体で80億円。
整備システムなど諸々の周辺装備を含めれば、1個中隊12機の導入費用は実に2200億円!
…… 高いよ。
「こっちは角々したブーメランですか?」
「鏃型の爆撃機ね」
UB-1無人爆撃機、2038年に開発された国産ステルス無人爆撃機。
ステルス爆撃機として誰もが思い浮かべる黒い鏃型の機体だ。
爆撃機としては珍しくスーパークルーズ性能を有し、他の第五世代以上の戦闘機と柔軟な共同作戦がとれて戦術的にも扱いやすい。
人工知能はUF-2と同じものを積んでおり、こちらも高度な自律運用が可能となっている。
価格は本体のみで108億円。
幸い、整備システムなどはUF-2と共有でき、UF-2を導入済みならUB-1の1個中隊12機導入費用は1900億円で済む。
とってもお得!
…… いや、高いって。
「…… ゴツゴツしてますね!」
「重装甲の多脚戦車だからなぁ」
35式無人多脚戦車、2035年に開発された国産無人戦車。
105㎜無反動砲を搭載した機甲型や155㎜砲を搭載した砲撃型、各種レーダーを搭載した索敵型など様々なバリエーションが存在する多用途多脚戦車。
通常の無人戦車として運用もできるが、弾薬補給システムと連結させれば簡易砦としても運用可能な万能兵器だ。
対人から弾道弾迎撃までの幅広い任務に対応できるぞ!
本体価格5億円。
日本製にしては安いと思ったかい?
違うんだなぁ!
本体だけだと固定兵装の7.92㎜機銃しか付いてこない。
機甲型や対人型、対空型などの各種兵装は別売りだ!
一番高価な索敵型の兵装は30億円するぞ!
各型を1個中隊12両ずつ配備し、弾薬補給システムや整備システムも一通り揃えれば、導入費用は3200億円。
うん、やべぇよ!
ちなみに今回の無人機部隊導入の予算は8000億円。
弾薬や燃料などの消耗品を考慮したら、なんとか6000億円程度に抑えたいところだ。
うん、無理。
「うーん、日本製兵器の悪い所が出ちゃったなぁ」
日本製兵器の悪い所その一。
性能は良いけど値段が高すぎる!
「お金が無いって辛いですねぇ」
高嶺嬢のセリフにどこか聞き覚えがある気がした。
どうやら祖国からの財政支援はまだまだ足りないようだ。