第三十七話 人類の反撃
『———— 敵ガンニョム沈黙!
我々の勝利です!!』
通信機が発したその言葉に室内が歓喜に包まれた。
通信機からも怒声のような勝利を喜ぶ雄叫びが漏れ聞こえる。
絶望的な戦力差に追い詰められていた反動なのか、彼らの喜びようは尋常じゃあない。
俺はその光景から一歩引いたところで微妙な心持のまま彼らを見ていた。
敵の撃破ではなく、擱座による機動力の喪失を目標とした迎撃作戦。
少なくない損害と引き換えにキルゾーンへと誘引していた敵ガンニョム。
奴は急造の2個連隊では撃破どころか、高度な戦術を駆使し大きな犠牲を払った上でようやく擱座させられる難敵だった。
それが人類屈指の戦力である白影の戦線投入によって割かしあっさりと撃破できたのだ。
そりゃあ喜ぶってもんさ。
それは良いんだ。
うん、別にその点に関して思うところがある訳じゃあない。
ただ、狙ったかのように白影と敵ガンニョムが同時期に到来したこと。
そしてフランス政府から出されたあまりにも白々しいミッション。
どうにも腑に落ちない。
まあ、どうせ敵に大打撃を与えた白影をガンニョムが追撃してきたとかそんなところだろう。
敵を撃破できた今となっては、そこまで気にする程でもないか。
ただし、くれぐれも人類同盟側にはバレないようにしないとな……
流石にこのマッチポンプが露見するのは不味いだろ。
『NINJA! NINJA! NINJA! NINJA! NINJA!』
向こうでは戦功者を称えるNINJAコールが巻き起こっていた。
うん、このことは黙ってよう!
実はガンニョムを引っ張ってきたのもNINJAでした、なんて絶対言えないわ。
「…… っ!?
なんだっ……」
皆が望外の勝利に浮かれている中、通信員の一人が何かに気づいたのか表情が驚きに染まった。
「どうした?
何か異変でもあったのか」
「え、ええ、これは…………」
何かの通信を聞き取っているのか、彼はしばらく無言で通信機に耳をそばだてる。
「別の味方からの通信……!?」
なんだと!?
それが本当なら通信妨害は敵ガンニョムが行っていたということか。
通信ができなくなったタイミングも敵ガンニョム登場と同時期だし、それならば納得がいく。
俺は通信妨害について考えながら、通信の受信設定をオープンに切り替えた。
『———— こちら人類同盟前衛軍、我々は敵機動兵器2体を撃破し敵南部前線基地の破壊に成功した。
我々は明日の国際標準時1200に敵総司令部へ総攻撃をかける。
通信を傍受した者は最前衛の原子力潜水艦に集合せよ。
繰り返す。
こちら人類同盟前衛軍、我々は敵機動兵器2体を撃破し敵南部前線基地の破壊に成功した。
我々は————』
ふむ、確かにこの戦域にいる他の味方からの通信だ。
これが敵による欺瞞工作でもない限り、現時点で存在を確認された敵ガンニョムは全機撃破したことになる。
そして北部の敵前線基地は白影と高嶺嬢によって壊滅しているし、今回同盟軍が南部の基地を壊滅させた。
つまり市街地に流れる大河の西側を人類が制圧したのか。
どうやら長かった高度魔法世界第3層攻略戦もようやく終わりが見えてきたようだ。
通信を聞く限り、同盟軍は残存兵力を集めて最終決戦を挑もうとしている。
もしかしたら俺達の合流地点にいなかった高嶺嬢や従者ロボ達も彼らに合流しているのかもしれないな。
臨時で俺達と行動を共にしていた幼馴染や委員長は元々同盟の人間だし、その可能性も十二分に考えられる。
なんにせよ次の一戦でここでの戦いは決着がつくだろう。
高嶺嬢達と連絡を取ることが最優先だが、出来る限り同盟軍と合流して最終決戦に参加した方が良いだろうな。
白影参戦までに敵ガンニョムによってそれなりに損害を負ったが、物資も兵器もまだまだ残っている。
今の部隊の指揮権は完全に掌握しているし、彼らに返すつもりもない。
合流したとしても俺から指揮権を取り上げるのは難しいはずだ。
そうなりゃあ同盟の論功行賞にも食い込めるし、今回の戦いが終わった後も利権や影響力を残すことが可能になる。
ははは! ちょろいもんだぜ!!
とりあえず部隊の士気を上げとくか!
俺は通信機を受け取り麾下の全部隊に向けて発信する。
「諸君、先程の通信を聞いての通り、この戦場にはまだ味方が残っている。
そして明日には敵総司令部に最終決戦を挑むそうだ。
諸君、我々は敵ガンニョムを撃破したが、武器弾薬はまだまだたんまり残っている。
ならばっ! 我々がやるべきことは決まっている!
戦おう!
敵に最後の一戦を挑もうとしている戦友と肩を並べ、この戦いに決着をつけてやろうじゃあないか!!
我々は既にあの強大だった敵ガンニョムを全て撃破してるんだ!
ならば次の一戦は最早勝ったも同然!
諸君、戦おう!! そして、勝利するんだ!!!」
『ウオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』
俺の演説に乗せられた野郎共の野太い雄叫びが轟いた。
よし、これでもう彼らは俺の指揮以外で戦うことに嫌悪感を持つだろう。
一先ず安心ね!
『ミッション 【高度魔法世界 第3層の解放】 成功
報酬 道具屋 武器屋 防具屋 の 新商品 が 解放 されました』
『高度魔法世界 において 第3層の解放 が達成されたので 第4層 が解放されます
7日間 高度魔法世界 に侵攻することはできません
レコード は 1137時間50分13秒 です
【総合評価 A 】を獲得しました 特典 が 追加 されます』
「…… うん?」
なんか腕の端末が変な文字を表示してるんだけど?
『特典 を獲得しました
上野群馬 は スキルポイント 20 を獲得しました
上野群馬 は ステータス が 向上 しました
特典 を獲得しました 貢献度 に応じた 特典 が 割り振られます
上野群馬 に 42式無人偵察機システム の 貢献度 が移譲されました
上野群馬 に 42式無人偵察機システム改 の 貢献度 が移譲されました
上野群馬 に 美少女 美少年 の 貢献度 が移譲されました
上野群馬 は スキルポイント 40 を獲得しました
上野群馬 は 新たな従者 を獲得しました
美少女 美少年 の 成長 が解除されました』
…… いやいやちょっと待ってくれ。
本当にちょっと待ってくれ。
高度魔法世界 第三層 要塞都市☆リン=グラード
日本 フランス ドイツ ギリシャ リベリア……詳細 攻略完了
待て、完了するな!
頼むから考える時間をくれ!!
『高度魔法世界 は 第四層 が解放されました
高度魔法世界 は 武装 が解除されます
高度魔法世界 は 国軍 の投入が許可されます』
「………… えぇぇ」
この時、戦場の空気が死んだ。
そして俺のスピーチはただの赤っ恥になった。




