第十四話 交渉と攻略の終結
『———— 今回は貴方の勝ちみたいですわね。
この敗北は将来の糧としましょう。
再び機会があるのなら、次こそは肩を並べたいものですわ』
そう言って、去って行ったシャルロット公女。
彼女の本心は、張り付けられた微笑みで窺い知ることはできなかった。
彼女に付き従っていた人々は、こちらを忌々し気に睨みつけていたものの、公女自身は終ぞ自身の感情を表に出すことはなかった。
ルクセンブルクとの交渉、最終的に俺は国税庁と経済連盟、ついでにNINJAパパからのミッションを達成できた結果になった。
しかし、その代償に引き出されたものは少なくない。
公女はどうあっても不利な条約を呑まねばならなくなった時点で、いや、もしかしたら、それよりも更に前の段階で、どれだけ高く売りつけられるか、という考えで交渉を進めていた。
要求を呑ませるか呑ませないかという勝負では、列強たる俺達が絶対の優位性を持っている。
だが、何らかの代償に相手から支援を引き出すという交渉では、相手よりも遥かに地力が劣る小国という要因が、相手にとって優位に働いてしまったのだ。
俺が張った罠にかかってからも、公女は粘り強く反抗し、要求してきた。
本当にしつこかったよ、冗談抜きでね……
結局、俺達が交渉で獲得したものは、ルクセンブルク大公国に対する日本との租税条約締結、それに伴う日本企業への特別な税制措置、一部の課税権の譲渡、彼女達の祖国にいる日仏邦人の保護。
その対価に引き摺り出されたものは、食料チップ30枚、エネルギーチップ20枚、植物資源チップ15枚、汎用資源チップ13枚。
実に78万tにも及ぶ膨大な資源を、在留日本人保護に必要な支援物資として提供させられた。
俺達チーム日本にとって決して痛くない出費ではあるが、得られたものに比較して小さなものかと問われれば、少し考え込むことになる。
勿論、一時的な支援と違って、俺が結べたのは恒久的な国際条約。
時間が経てば元は十分取り戻せる。
しかし、今回の交渉で在留日本人保護のために資源を供出させられる、という事例を作ってしまった以上、最悪の場合、これからも事ある毎に支援を要求されかねない。
このダンジョン戦争がいつまでに終わるのか、その見通しが立っていない以上、今回の外交的失点は痛い。
もしかしたら、人類の命運がかかった戦争中にもかかわらず、戦後しか考えていなかったことへの公女なりの皮肉だろうか。
彼女が本音を語ってくれないことには、その本心を察することなんてできないが。
『…… 俺は政治や外交のことなんか分からねぇ。
姫さんとお前がどんなやり取りをしていたのか、そんなことも理解できなかった。
だけどな、今回のことで、改めて分かったことがある。
お前達列強は汚過ぎる。
どいつもこいつも戦争じゃなく、戦後にばかり力を入れてやがる。
戦争を舐めてると、取り返しがつかねえことになるぞ』
去り際に、公女を守るように立っていた青年、ハッピー・ノルウェー草加帝国のスティーアン・ツネサブロー・チョロイソン。
彼が吐き捨てた言葉が脳裏に過ぎる。
国際社会を舐めている国名の彼に言われた言葉。
確かに、今の人類を先導する列強、人類同盟、国際連合、そして俺達日仏連合は、人類同士で協力することもなく、互いの利権拡張に注力して対立すらしている。
今は何とかなっているものの、このままの状態を続けることが人類にとって良い影響を与えることは無いだろう。
ハッピー・ノルウェー草加帝国。
元々ノルウェーの地に巣食っていた日本発の新興宗教が、当時の政府内での利権争いに付け込んで国家を破綻させ、第三次世界大戦と言う奇貨を利用して遂には乗っ取ってしまった新興国家。
彼らが言うと、政治闘争への警鈴も説得力がある。
「ダンジョン戦争、このままだとどんな結末が待ってるのやら……」
何の力もないちっぽけな小国の戯言。
そう聞き流すには、些か人類の置かれている状況は不透明過ぎた。
「トモメ殿、何を悩んでいるのでござろう?」
不意にかけられた白影の声。
振り向けば、彼女にしては珍しく顔を覆う黒い覆面を取り外し、西洋人形のような可憐な美貌を晒していた。
垂れ目がちな蒼目が、優しく俺を見つめている。
「いや、なんでもない。
………… くだらないことだよ」
少しの沈黙。
「………… ふむ、そうでござるか」
白影は深く聞いてこなかった。
ただ、何かを察したように、俺に向かって柔らかに微笑む。
「大丈夫だよ、トモメ」
胸にかかる僅かな重み。
華奢な身体が、俺にそっと寄り添う。
「大丈夫。
トモメは、大丈夫だよ」
いつものござる口調ではない、彼女本来の口調で紡がれる言葉。
俺の身体にスッポリと収まるほど小柄なのに、何故か包み込まれている気分。
「そうか、大丈夫か」
「うん」
これと言って明確な根拠のない言葉だが、肩に掛かっていた重荷が少しだけ軽くなった。
「ぐんまちゃーん、敵のボスを刈ってきましたよー!
これでこの階層は…………
へいへぇい」
高嶺嬢が異形の狼男の苦悶に歪んだ巨大な生首を引き摺りながら、真顔で俺達を見つめていた。
俺の肩に10tトラックに満載された重石が圧し掛かった。
フォローが大変だね!
『ミッション 【魔界 第3層の解放】 成功
報酬 道具屋 武器屋 防具屋 の 新商品 が 解放 されました』
『魔界 において 第3層の解放 が達成されたので 第4層 が解放されます
7日間 魔界 に侵攻することはできません
【最初の第3階層制覇】が達成されました 特典 が 追加 されます
レコード は 760時間12分49秒 です
【総合評価 S 】を獲得しました 特典 が 追加 されます』
『特典 を獲得しました
上野群馬 は スキルポイント 30 を獲得しました
上野群馬 は ステータス が 向上 しました
特典 を獲得しました 貢献度 に応じた 特典 が 割り振られます
上野群馬 に 42式無人偵察機システム の 貢献度 が移譲されました
上野群馬 に 42式無人偵察機システム改 の 貢献度 が移譲されました
上野群馬 に 美少女 美少年 の 貢献度 が移譲されました
上野群馬 は スキルポイント 70 を獲得しました
上野群馬 は 新たな従者 を獲得しました
美少女 美少年 の 成長 が解除されました』
魔界 第三層 濃霧大峡谷オオボーケ・グランドキャニオン
日本 フランス 攻略完了
『魔界 は 第四層 が解放されました
魔界 は 武装 が解除されます
魔界 は 種族 が解除されます
魔界 は 国軍 の投入が許可されます』
高嶺嬢の怒りゲージ
普通:良い眺めですね。
幸福:良い眺めですね!
消耗:…… 良い眺めですね。
戦闘:へいへーい、良い眺めですねー。
激戦:ヘイヘーイ! 良い眺めですねー!!
怒り:へいへぇい。
激怒:良い眺めです。