第四話 ミリオンズラビット
あれから他のみんなの登録している
スキルを少し見せてもらい、戦い方を教えてもらった。
リンさんは高い防御力と魔法防御を生かした防御特化型だ。
自身の硬化、耐魔法防御スキルに加え、
広い範囲の味方を守る為の結界スキル、
遠い味方を守る為の高速移動スキル、
敵を足止めする為の拘束スキル等
RPGでいうところの壁役を担うみたいだ。
最前線の頼れる不動のリーダー。
か、かっこいいね・・・!
エイアさんは支援、回復に特化した司令塔。
パーティでは最後列に位置し、戦場全体を把握しつつ
最適な指示を味方に飛ばす。
また、積層型の魔法陣を多くスキルとして登録していて、
一瞬で多数のバフを重ねたり、
傷ついた人に回復をかけつつ同時に結界で守ったり
さらに同時に攻撃補助までできるみたいだ。
超絶美人の司令塔・・・ありだね!
フレイ先生は火力特化かと思ったら、
実は千変万化のオールラウンダーだった。
スキルは汎用性の高いものを好んでいるけれど、
圧倒的な知識と魔法陣描写速度で
ありとあらゆる状況に合わせた最高率の火力を叩き出す。
スキルに頼らない臨機応変さが最大の特徴だ。
筋肉質な身体も飾りではなく、
魔法使いのくせに近接戦闘も高いレベルで使いこなす。
さすが先生・・・あの魔法陣、毎回手動で作ってたんだね・・・。
ジルさんは王族の長なだけあって、戦闘は不得意らしい。
いや、私は殴り合いで負けたんだけどね?あれ?
最大の特徴は眷属達との感覚共有。
コウモリ、トカゲ、ハムスター、
ウサギ、キツネ、イヌ、ネコなどなど
色々な眷属達との五感を共有できる。
さらに見る、聞く、嗅ぐ、味わうなどの5感をスキルに登録しており、
それぞれ10倍の感度まで上げられるんだとか。
並列思考で多くの眷属の感覚を共有しつつ
スキルで高めた五感で多くの情報を手に入れ、
それをタイムラグなく整理できる。
距離は関係なく、
世界中に散らばった眷属から情報収集できるんだとか。
す、すごいね?
ところで眷属にもふもふが多いのはジルさんの趣味なの?
え、最初は吸血鬼らしい眷属を選んだけど、もふもふのほうがいい?
ですよねー!
レオは見た目通り単純な効果のスキルが多い。
身体能力強化の積層型魔法陣だけは頑張って暗記したみたい。
あとは高く跳ぶ、
速く走る、
思い切り殴る、
蹴る、
咆哮、
噛みつくなどなど。
短く単純なスキルだが、天賦の才で完璧に使いこなすレオは
2m超の長身でありながら音速を超えて飛び回り、
圧倒的なパワーで結界ごと敵をぶち破る。
国民的必殺技を撃ったことからもわかる通り気の扱いにも長けていて、
平地でのタイマンに限れば、先輩達を超えて
その戦闘力は守護者でも随一らしい。
や、やるじゃん・・・。
単純アホなので臨機応変ができず、
敵地やダンジョンでは罠にかかりまくりらしいけど。
クズノハ姉様はレオとは正反対で、
特に複雑で緻密な幻術や呪術を好む。
超積層型複合魔法陣を多く登録していて、
10倍速のスキルでさえ発動に時間がかかるものの
その効果は絶大。
スキルで使えない超広範囲を対象にした魔法の構築も趣味の1つで、
特に拠点防衛においては守護者でも随一だとか。
れ、レオも姉様もすごいね?
戦場が決まっていれば罠を設置したり
敵が決まっていれば呪術でデバフをかけたり。
直接の戦闘力は低いとはいえ、
戦いが始まる前に勝利を掴んでしまうエキスパートだ。
いや、だから私は殴り合いでも負けたんですけど?
と、とにかく敵には回しちゃいけない人だね!
私、忠実ですよ?わんわん。
狼のプライド?無い無い。
狼は強者に従う生き物ですとも。
メリー君は生産特化なだけあって、戦闘は完全に無理だそうな。
万が一に備えて回避スキルや高速移動系スキルはあるみたい。
そんなメリー君最大の特徴は『夢世界』。
なんと他人の夢の中で生産活動ができるらしい。
制限は多いものの、時間を引き延ばしたりして
一日で多くの生産行動を行うことができるんだとか。
他にもセーブ&ロードのような感じで、
納得いくまで何度も何度もやり直すことができる。
ジルさんと同じく五感を伸ばすスキルを多く登録しているほか、
細かい細工や緻密な計量、正確な打ち下ろしなどなど
生産に役立つスキルを備えている。
品質はもちろん、夢世界を利用することで生産速度も世界一。
錬金、鍛冶、料理から細工、大工仕事までなんでもござれ。
頼りになるなぁ!
そんなわけで私の装備一式をメリー君に作ってもらえることになりました。
入社祝い?加入祝い?みたいな感じで
素材や費用は守護者の先輩たちが持ち寄って出してくれるらしい。
なんて優しいアットホームな職場なんだろう!
みんなありがとう!頑張ります!!
「ふふ、腕によりをかけて作りますね。
先ほどの戦闘を見た感じだと、格闘術メインでよいですか?
装甲は最低限に、動きやすさを重視して、
しばらくは魔法防御に重点をおいて付与しましょう。
ご自分で魔法を防げるようになったら、
速度や力重視の付与に切り替えても良いですし。
武器は、腕輪の魔道具にしましょうか。
大きな魔物を相手にするには攻撃範囲も狭いですから、
気力のブーストや魔気力転換もつけておきましょう。」
「付与!なんかファンタジーな響き!!
お願いします、メリー君!!」
「はい。夕飯の後に枠だけ作って、
あとは夢の中で調整しましょう。
そのほうが、試すのも直すのも簡単ですからね。」
「おぉー。夢の中で製作体験!
楽しそう!
そして夕飯!!!
午後は戦ったりお勉強したりしたし、
そう言われればお腹すいたなぁ。」
そんな本日のお夕飯はエデンの食材の中でも激レア中の激レア、
ミリオンズラビットのフィレステーキでした!
全魔物中で最低ステータスを誇る最弱の魔物ファーストラビット。
そんな彼等から、100万匹に1匹の確率で生まれるように
女神様が設定したという、最高の肉質をもつ兎さんのお肉だそうな。
世界中のどこで生まれるかわからず、
もし見かけたとしても最弱故に一瞬で狩られるであろう、
幻の食材であり、一攫千金でもある夢の魔物なんだとか。
世界中を旅しているレオや姉様でさえ実物を見たことが無く、
各機関の最高責任者である先輩達でさえ、
数えるほどしか食べたことがないと言う。
そんな幻のお肉でも、
創造主である女神様にかかれば、たっぷり200gで人数分!
はて、お味のほどはいかに・・・!!!
・・・
・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・はっ。
なんでだろう。ミリオンズラビットのお肉を口にいれてからの記憶がない。
けれども幸せな気持ちが心の底から湧き上がってくる。
自然と頬が緩むのが止められない・・・
ぶんっ、ぶんっと僅かに聞こえる雑音に何事かと思ったら、
自分の尻尾が思い切り左右に振れていた。
ぐぬぬ、と唸り次のお肉へとフォークを突き刺す。
調理され、もはや食べられるだけの食材のくせに生意気な。
次こそ貴様をしっかりと味わってみせるのだ!!
覚悟を決め、けれど一息に食べるのは少し怖かったので、
お肉の端のほうをちょびっと舐めてみる。
瞬間、目が勝手に見開き、耳と尻尾はピンと伸び、
ビビッと身体が震えて硬直した。
表面に軽く振られた塩の、脳まで一瞬で突き抜けるような強烈な風味と、
そんな塩にしっかりと凝縮されたミリオンズラビットの肉汁。
舌から広がる全神経が味覚だけに変わってしまったかのように、
『美味しい』という衝撃が神経を通して全身を駆け巡る。
今なら・・・今なら、心の底から出来るかもしれない。
目が光り、口からビームを出しながら派手なエフェクトを背負い、
叫びまくる、あの料理漫画の審査員達のようなリアクションが!!
ガタリ。
「うーーーまーーーーいーーーぞーーーーー!!!!」
『ユウ。お行儀良くとは言わないけれど、
他の人の迷惑にならないように食べなさい。
あなたの食事だけ没収するわよ。』
ガタリ。
『レオンハルト。あなたは一度でもやったら没収するわよ。』
スッ。
「大変申し訳ありませんでしたもう二度と致しません許してくださいお願いしますごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
女神様に怒られた。
こんな美味しいお肉が食べれないのは辛すぎるので、
一瞬で土下座して全身全霊全力で謝る。
くそう、世界的に有名な美食家達だってしているのに、どうして私だけ。
(※漫画の中でのお話だからです)
その後も慎重にミリオンズラビットのお肉との格闘を続け、
過去経験がないほどに全力で味わった夕飯が終わった。
うむうむ、余は満足じゃ。けぷっ。
「ふふ、ユウちゃんは本当に幸せそうに食べますね。
よかったら学院への在学中は、学院寮ではなくうちに来ますか?
ミリオンズラビットほどの食材はないですが、
食事は腕によりをかけて作りますよ。」
「メリー君は天使すぎか!
全力でお願いしますっ!!」
メリー君のご飯が美味しくないわけがない。
一瞬で居候を決意する。
遠慮?そんな言葉は私の辞書には存在しない!
「いえ、僕は天使ではないですよ・・・?
天使はエイア先輩で、僕はただの天羊です。」
マジレスされた。
天使が実在する世界じゃ、仕方ないね。