第一話 ワールド・エデン
白く、僅かに光るとても綺麗な雲の海。
それが視界の端までどこまでも続いているのが見える。
雲と空の境目のことはなんて言うんだろう?
地平線?
それとも水分でできているから、水平線?
・・・いや、雲平線か?
うーん、確か天境線という単語があったはず。
なんにでも使える。便利だね!
そんな雲の海に浮かぶ、
これまた白い謎素材でできた大神殿。
大理石じゃないね。ちょっとふわふわしてる。
でもしっかりした強度を持っていて、
歩いても沈むということがない。
ふわふわなのに硬い。不思議。
それにしても、白いなぁ。
あっちもこっちも白い。
しかも光ってる。
「・・・目が、目がぁあぁああああああああ!?」
思わず目を抑えて転がりまわる。
いや、別に本当に目が痛いわけじゃないけど。
こんなに白いのに目に優しい光なんだ。
不思議。
ふと気づいて自分の体を見下ろしてみる。
白くない!当たり前か。
でも、ついさっきと比べたらかなり白い。
周囲が白いから白くなったんだろうか?
艶もハリもあるので不健康そうには見えない。
むしろ若返ってる。ていうか手足が細い。
私の足はこんなに細くはなかったはずだ。
不思議。
衣装は青い。
こんなにも白だらけの世界で、ひたすらに青い。
ちょー目立つ。でもかわいいから許す。
アニメで出てくる、女格闘家とかが装備してるような衣装だ。
中国拳法系のなんか。
袖とか少し余裕があってヒラヒラしているし、
金属らしい素材は一切見えないのに、
なんだか強そうに見える。不思議。
普通に考えて戦闘には向いてなさそうなのに、
なんとなくこの衣装は強いと、感覚が訴えてくる。
というか、この身体軽いね・・・?
・・・ふむ。
軽く、その場で跳ねてみる。
ステップ。右、左。ジャンプ!
でんぐり返し!
と見せかけて跳ね上がりバックステップ!
荒ぶる鷹のポーズ!アチョー!!
身体が軽い。軽すぎる。
今なら、今なら出せる気がする・・・!
「かめかめ波ーーーーーーーーー!!」
『何をしてるのよ・・・。』
なんだかいける気がして、国民的必殺技を雲の海に向かって放つ。
なんか出た。気持ちいい。
そしていつの間にか女神様が隣にいた。
恥ずかしい。
「私の国では、皆が一度は必殺技を夢見るんですよ。
子どもの頃に練習した人の割合はおそらく80%を超える。
きっと他の人もやってるはずです。」
『他の7人は誰もしなかったわよ。
・・・1人、やりそうな奴もいるけれども。』
そんなばかな・・・!?
そっと視線を逸らして、軽く乱れた衣装を整える。
うん、何もなかった。
表情もちょっとキリッ!としておく。
「それでは、行きましゅおう。」
『・・・そうね。』
噛んだ。
スルーしてくれる女神様の優しさが痛い・・・
女神様について、大神殿の中に入る。
柱や天井の細やかな装飾がとてもすごい。
でも白い。やっぱり白い。
ふと、前を歩く女神様をじっくりと舐めまわすように見てみる。
そういえば、白ばかりの世界なのに女神様は白くない。
不思議。
淡く光る、腰まで届く桃色の髪。
そういえば瞳の色は碧だった気がする。
露出している手足は白いけれど、
ふんわりゆったりとした衣装は薄く光る黄金色。
うん、白くない。
不思議に思いながらてくてくと歩き、ふと気づく。
さては・・・
「女神様」
『何かしら?』
「パンツの色は白ですね?」
『・・・回答を拒否するわ。』
そんなどこかの政治家みたいな。
そのまま女神様について1分ほど歩くと、大きな広間が見えてきた。
中央には円卓があって、その周囲に座る人達が見える。
きっとあの人たちが、7人の先輩達なんだろう。
7人・・・。あれ?1人、足りないような?
「かめかめ波ーーーーーーーーーーー!!!!」
右手奥のほうに、窓から雲の海に向かって国民的必殺技を放つ男の人がいた。
うん、彼とは仲良くなれそうな気がする。
『あー、えー。こほん。
全員揃ったので、話をしましょう。
レオンハルト、良いかしら?』
「おう!すまねぇな!
さっき必殺技が窓から見えたもんで、ついな。」
わかる。超わかる。
思わず私もニヤリと笑い、すれ違い様に手を上げる。
相手も私が必殺技を撃ったとわかったのか、ニヤリと笑う。
何も語ることなく心が通じ合い、ハイタッチ!
すぱああああああああああああああああん!!!!
手と手が合わさった瞬間、
とんでもない衝撃と共に轟音が鳴り響く。
・・・痛すぎ。手加減しやがれですこの馬鹿力!
本気で吹き飛ぶかと思った腕をさすりつつ、
空いてる椅子に座る。
なんだか円卓の他のメンバーが飽きれたような、
生暖かいような目をしているけれど、きっと気にしたら負けだ。
私は絶対に気にしない!!!
『えー・・・こほん。
それでは、円卓会議を始めるわ。』
全員が着席したのを確認し、女神様が開会を宣言する。
『新しい子も来てくれたことだし、改めて説明するわね。
ここは私が創成した第三の世界。
ワールド・エデン。
地球とは違い、
存在全ての根源をまとめて循環させている
完成された箱庭の世界になる予定よ。』
なるほど、わからん。
『そうね。
簡単にまとめると、輪廻転生が実在する世界よ。
人もモノも、消費されれば次の生へとつながるわ。
全ての存在には存在値が決まっていて、
死んだり、消滅したりすることで存在値は世界に還元されるの。
還元された存在値は状況によって自動で割り振られて、
魔物になったり、人になったり、
あるいは資源となって世界に生まれてくるわ。
例えば魔物を殺しすぎると、魔物の存在値が低くなる為、
補正が働いて、超強力な魔物が生まれたり、大発生が起きたりするの。
人が死にすぎると、人の存在値が低くなる為、
超強力な英雄が生まれたり、ベビーブームが起きたりするわ。
資源を使いすぎて資源がなくなりはじめると、
資源の存在値が低くなる為、
ある日突然、大鉱脈が発生したりもするわね。
そうしてすべての生物、資源等の割合を決め、
バランスよく循環されるよう調整している世界なのよ。
まだまだバグも多くて調整中な所も多いけれどね。』
・・・な、なるほど?
ふ、ふふん。つまり輪廻転生が実在するということだよね?
わ、わかるよ?
『・・・ふぅ。そんな状況だから、
本当は私も、もっと第3の世界を見ていたいのよ。
けれど今は、ちょっとそうもいかなくなってしまったの。
ちょっと調子に乗った若い魔神共がケンカを売ってきててね?
あいつら、結託して第1世界にちょっかいをかけてくるのよね。
しかも嫌らしいことに、
隙あらば第2、第3の世界にも悪魔とか手下を派遣してきて。
せっかく私が創り上げた世界を渡すつもりは欠片もないわ!
だから、私があいつらを殲滅するまでの間、
ユウにも他の7人と一緒に、第3世界を守っていて欲しいのよ。
1000年もあれば、1柱残らず駆逐してくるから。
ウフフ・・・。』
・・・ふむ。
ちょっと不在がちになるから、
大事な庭の植木に水あげて世話しておいてね。
もしかしたら敵の手下来るかもしれないけど、
来たらヤっちゃっていいから、みたいな?
『・・・ま、まぁその認識で大体合ってるわ。
それじゃあ、状況の説明が終わったところで自己紹介をしましょう。
リントブルム、あなたからお願い。』
1人目は40台前半くらいの、渋いイケメン親父さんだ。
長い黒髪をオイルで固め、オールバックにしている、
クールでイケメン、渋い大人の魅力をムンムンに出している。
タバコとかウイスキーとかすごい似合いそう。
まじでかっけーです!
「リントブルムだ。種族は天龍になる。
今は人型だが、龍になることもできる。
守護者のリーダーであり、
冒険者ギルドの総ギルドマスターも担っている。
よろしく頼む。」
リーダーさんでしたか!
よろしくお願いします!
2人目は20台後半くらいの、とても優しそうなお姉さんだ。
綺麗な金色の長い髪をサイドでまとめ、肩から前に流している。
表情がとても柔らかい、超絶美人さん。
理想のお母さん像ってこんな感じなんじゃないだろうか!
天使だ、天使がおる!!!
「ヒュギエイアと申します。種族は熾天使ですわ。
今は収納していますが、翼は6枚まで生やせます。
守護者のサブリーダーで、
セントラルでは聖女も務めておりますわ。
不束者ですが、よろしくお願い致します。」
声まで美人さんです!やべーです!
ていうか本当に天使さんでした!
よろしくお願いします!
3人目は見るからにわかる、長い耳のエルフさん。
長い切れ目の若いイケメンだ。
身長は高く、おそらく190cmくらい。
線は細いのにガッシリとしていて、筋肉質なのが見て取れる。
キザでちょい悪な感じがまたいい味出してやがりますね。
なんか海でサングラスをかけてサーフィンしてそう。
すごい似合いそう!イケメン爆発しろ!
「フレイだ。種族はハイエストエルフ。
主に魔導と参謀を担当している。
セントラル総合学院で学院長も務めている。
お前もまずは学院で世界のことを学ぶがいい。
よろしくな。」
なるほど。頭もよさそうですね。
それにさわやかな笑顔で。やっぱり爆発しろ!
4人目は男装がとても似合う女騎士風の美少女だ。
短く揃えた金髪に、整った凛々しくも幼い顔立ち。
どこの王子様かと問いたい。
本気で男装したら、イケメン王子様になれる。絶対。
かっこかわいいですお姉様!
「ジル・ド・セントラル・フォン・レエ。
長いからジルでいい。
一応王族の長をしていてな、
情報収集や外交を担当している。
ああ、種族は吸血鬼だ。
よしなに頼む。」
心地よいアルドボイスがかっけーです!
女子にモテそうなお姉様ですね!
・・・、王族の長?
『この4人は第三の世界創成当時からいる古株よ。
わからないことがあったらこの4人に聞いてちょうだい。』
はーい!
ということは、他の3人は私と同じく追加要員なので?
『ええ。リントブルム達は世界における役割が多くて、
あまり自由に動けなくなってしまったのよ。
おかげで手が足りなくて、
もしかしたら今後も増えるかもしれないわ。
例外的な存在は、できるだけ少なくしたいのだけれども。』
ほうほうほう。わかりました!
さて、5人目はさっき必殺技を撃っていたお兄さん。
かなり大きい。身長は2mは超えているだろう。
筋骨隆々で、体型は見事なまでの逆三角形。
獅子のような髪型とヒゲを生やしたおっさんだ。
その顔に浮かぶのは、少年のようなあどけない笑み。
よく見ると、猫耳と尻尾があるような。
少年の心を持った猫耳マッチョおじさん。
「レオンハルトだ!種族は神獣・天獅子。
小難しいことはよくわからねーが、
腕っぷしには自信があるぜ。
よろしくな!」
やっぱり彼とは仲良くなれそうだ!
あとで肩車してもらおう。きっといい眺めに違いない。
6人目は妖艶な雰囲気を纏うお姉様。
おっぱいが大きい。エロい。
同性でも思わず見とれてしまうほどに、エロい!
頭の上には狐耳、大きな尻尾がもっふもふ!!
「クズノハでありんす。種族は神獣・天狐。
フレイはんと同じく魔力の高い種族やけど、
特に幻術や呪術が得意なんよ。
何とぞよろしゅうね。」
何気ない仕草までエロい!
まさに傾国の美女。私もそんなお姉さんになりたい!
7人目は、なんとも王道な美少女だ。
金髪碧眼。もこもこふわっふわの髪の毛に、
クルクルとした羊さんのような角が生えている。
線の細い、ザ・薄幸の美少女!って感じ。
思わず守ってあげたくなる、庇護欲を誘いまくる絶世の美少女だ。
「ぼ、ボクの名前はメリークスです。
種族は神獣・天羊。
これでも、生まれた時からずっと男です。
細工、錬金、鍛冶など生産系全般を担当しています。
よろしくお願いしますっ。」
美少女だと思ったら、まさかの男の娘だった!
その生態の神秘、観察させてもらいます!
8人目は・・・おぅ、私だ。
身長は、8人の中ではメリー君の次に低いかな。
年齢は一番低そうだ!
髪と瞳は、共に青くなっていた。
衣装も青いから、青ばっかりだね!
そういえば、狼の耳と尻尾も生えてた。
もこもこ。
「名前はユウ!種族は神獣・天狼。
趣味はお昼寝、好きな食べ物はお肉全般!
あ、歌と踊りも得意です!
みんな、よろしくね!」
初対面の印象は挨拶が大事。
明るく、楽しく、元気よくだ!
みんなとてもよさそうな感じ。
なんだかテンションが上がって、
尻尾が勝手にブンブンと揺れる。
ぶんぶんっ!
『それじゃあ自己紹介の終わったところで、食事にしましょうか。
ワールド・エデンの料理を用意したわ。
ゆっくり食べながら、親交を深めて頂戴。
この会合は一年に一度行うわ。
みんな、よろしくね。』
わーい、ご飯だー!
それからしばらく、異世界のご飯を堪能しつつ
お喋りをして、みんなとの親交を深めることになった。