第2章 崩壊―②―
日曜日。
幸路は遺伝研究センターの位置を確認し、夕方前に一人で向かった。場所は神奈川県の藤沢市。横浜から見て、昨日行った東京とは反対方向だ。
電車を降りてからは歩いて目的地へ向かった。研究センターは以前見た通り、白くて大きな施設だった。
ドアを入ってすぐの受付で尋ねる。西田は5階に居るらしい。
静かな建物内をエレベータで上がり、案内された部屋の前にやって来た。ドアをノックする。「どうぞ」という低い声が返ってきた。
「丹波です」
ドアを開けると、艶のある黒髪をオールバックにした縁なしメガネの男が、机に向かってパソコンの画面に目を通していた。西田だ。西田は幸路のほうを振り向いた。
「お、来てくれたね。入って」
幸路は軽く会釈をして中に入る。用意された回転椅子に腰掛けると、さっそく話が始まった。
「わざわざ日曜に済まないね」
「いや、別にやることないんで」
本当はテスト勉強をすべきだ。ただ、嫌な事があったせいでやる気が起きない。
「そうか。なら良かった」
「あの、話ってなんですか?」
「そうだね。いきなりで悪いんだけど、君に研究の協力をして欲しいんだ」
「協力?」
「そうだよ」
西田は頷くと、右手を差し出してきた。
「ちょっと、握ってくれるかい」
幸路は訳も分からず手を握り返す。数秒後、西田は「うん」と言って握っていた手を放した。
今ので何が分かったのだろう。
西田はさらに、机の引き出しから体温計を取り出して幸路に差し出す。
「これで、体温を測ってみてくれ」
幸路は言われるがままに体温計を脇に挿し込んだ。
測定の間に、西田は話を続ける。
「少し難しい話になるんだが、聞いて欲しい。この前は、君の体温が高いという理由で君の血をわけてもらったよね?」
「はい」
「私はね、君の血から物質の情報を取り出して調べていたんだよ。初めはさっぱりだったが、ようやくいろいろと見えてきた」
ここまで言った時、脇に差した体温計が測定完了を告げる音を鳴らせた。だいぶ早い。
「見せてみて」
体温計を取り出すと、43.5℃を表示している。
西田は体温計を取り上げ、温度表示を覗き込んでから机の隅に置く。
「やはりすごいな。いつもこれくらいなのかい?」
「そうですけど……すごいって、何がですか」
幸路はすこしばかりの不快感を交えて急かした。何のことか、早く説明してほしい。
「何がって、43℃だ。普通なら死んでる」
普通なら死んでる。なのに死なない。ということは、自分は普通ではないのだろう。でも、具体的なことは何一つ分からない。なんなのだろう?
困惑している幸路に、西田は説明を続ける。
「君の血を調べるうちに、いくつか不思議な特徴を見つけた。ほら、これ」
西田はパソコンの画面をこちらに見せた。青い棒グラフが映っている。
「これは?」
「君の血液に含まれるタンパク質の活性を示したものだ」
「えーと……タンパク質……」
使い慣れない言葉に、幸路は困った顔をして見せた。
「聞いたことくらいはあるだろう。肉とか、卵とか、体の筋肉とかに含まれる。体を構成し、体のさまざまな機能をつかさどる物質の総称だ。このグラフは、君の血中のあるタンパク質の働きを異なる温度で比べたものだ」
西田は棒グラフを指差しながら説明する。
「横軸が温度。縦軸はタンパク質の働き具合と思ってくれればいい。このタンパクは通常、人間の体温に合わせて36℃付近に活性ピークをもつ。ところが、君の場合は活性ピークが55℃にある。この温度では普通、人間のもつあらゆるタンパク質は変性して機能を失ってしまうはずだ」
グラフを見ると、一番左の35℃からはじまり、温度が高くなるにつれて棒グラフが高くなっている。そして55℃で一番高くなり、それ以降はグラフが低くなっていく。
「……あの、これが一体、何だっていうんですか?」
西田は椅子を回転させて体をこちらに向ける。
「君は特別だということだよ。また、君の体温である43℃は、君の体が正常に機能するのに不十分だということも意味する。タンパク質が正常に働かないと、体のいろいろな機能に悪影響を及ぼすからね。なにか、心当たりはないかい」
「心当たり……」
たしかに、体の成長は遅いし、運動も苦手だ。でもそれは、〝一般人〟の範疇でもよくある事な気がする。幸路は首をかしげていたが、特別な例がすぐに思い当った。
「俺、青以外の色が分かりづらいんスけど、火の側にいると、見えるんです。熱いお湯に浸かっているときも少しだけ」
「色? 色覚の異常が?」
「まあ、そうなんスけど。明るさも分かりづらいとかなんとか……」
西田は何かを考え、納得したように軽く頷いた。
「光の信号を感知するのは、ロドプシンなどのタンパク質の役割だったはずだ。青以外が見えづらいということは、赤や緑の光を感受するタンパク質も正常に働いていないのかも知れない」
……それで、見えなかった……?
「他には?」
「えっと、水泳が全然できないのは、関係あるんスかね? 水の中に入ると、すぐに具合が悪くなっちゃって」
「水泳か。冷たい水に浸かって温度が下がると、体の機能が低下するということも考えられる」
幸路は思い出す。学校のプールでは具合が悪いのに、風呂や温泉では逆に気分が良い。西田の言うとおり、温度が原因なのかもしれない。
話をしていると、自分を悩ませてきたおかしな体質には、はっきりとした理由があるらしいことが分かってきた。
「あの、俺、普通じゃないんですか?」
不安げな声から察したのか、西田は幸路の顔を見つめ、真剣な顔つきで答えた。
「悪い事じゃあない。これは、驚くべき事だ。新しい発見、発明に繋がる」
「は、はあ……」
幸路の困惑をよそに、西田は椅子から腰を浮かせて身を乗り出した。
「丹波幸路くん、君はおそらく、突然変異種なんだよ。君は新しい可能性を産みだし得る。これから来ると言われている温暖化の時代に、我々が生き残る助けとなるかもしれない。君の体の秘密を研究すれば、毎年猛暑で死亡している何人もの人を救えるかもしれないし、耐高温性の作物を簡単に作り出せるかもしれない。だから是非、力を貸してほしいんだ」
言葉だけ聞けば称賛されているようだったが、幸路はあまりいい気分ではなかった。力を貸すというのは、実験体になるとか、そういう事なのだろう。実験動物として見られているようで、嬉しくない。それに、もしそうなれば、この体質を治療させて貰えないのではないだろうか。こっちとしては、この不都合な身体を治して欲しいくらいだ。
「あの、あんまりそういうの、興味ないんで」
幸路は西田から目をそらし、不機嫌さの入った声で言った。自分はモルモットじゃない。
「あ……」
西田は面食らったようだったが、すぐに申し訳なさそうに詫びた。
「失礼な態度だったなら、すまない。だが、これは重要な研究になる。君にも分かってもらえると思う」
幸路は話を遮るように立ち上がった。
「おい、ちょっと」
早歩きで部屋を出た。乗って来たエレベータの前へたどり着く。ちょうどすぐ下の階に停まっていたので、下行きのボタンを押し、やって来たエレベータに乗り込んだ。1階にたどり着くと、何もせずにさっさと施設を後にした。
七時過ぎ。
だいぶ暗くなってきたが、幸路はまだ藤沢市に居た。せっかく出てきたのだ。少しくらい遊んで帰ったって良いだろう。
幸路は遺伝研究センターを出てすぐ、駅前に戻って特盛りのラーメンを食べた。食べ過ぎたので、すぐ近くの公園で二十分ほど休憩をしていたところだ。
腹も満たされてだいぶリラックスしていたが、西田の態度を思い出すと、どうも好きになれなかった。学者というのは〝研究対象〟を前にすると、あんなにも目をぎらつかせるものなのだろうか。
「ったく、何が重要な研究だよ。バカにしやがって」
愚痴りながら立ち上がり、街の灯りを見回す。何か、気分を紛らわすことのできる面白そうなモノはないだろうか。
その時、やけに大きな音が空に鳴り響いた。わざと長引かせ、嫌でも耳に入るような不快な音。六年前と同じ音―サイレン。
周囲にいた数人の人間と同じように、幸路も顔を上にあげた。夜空が白い光に包まれる。
……まさか、そんな。いきなりっ!
光に続き、遠くから響く爆発音とビルの崩壊音。周囲のざわつきを掻き消すほどの巨大な爆発の音は、一秒ごとに連続してこちらに近づいて来る。一列に並んだ高いビルの影が遠くから順番に崩れていく。そのドミノ倒しはどんどんこっちにやって来た。脳が発した逃げろという指令が両足に到達する前に、道路の先にあるアパートが閃光に包まれ、爆砕した。
光が止んだ途端、止まっていた時間が動き出すかのようにして、辺りに居た人間たちが一斉に逃げ出した。
慌てた女の声で、遅すぎる避難勧告が放送される。
『巨大生物の上陸が確認されました。六年前に出現したものと同じであると判断されます。ビルなどの高い建物は危険です。速やかに地下へ避難してください。繰り返します……』
幸路の脳内に6年前の強烈なイメージが呼び起こされる。赤く燃える街を蹂躙する巨大な黒い影。装甲に包まれた背中の角から、一撃必殺の光線を打ち出す昆虫型巨大生物。
……奴だ。奴が来るっ!
「クッソ」
幸路は悪態をついてから周囲を見回した。この辺りには詳しくない。地下鉄の入口は知らない。周辺は建物で入り組んでいて、地下階がありそうなデパートも見つからない。
迷っている間に、周りから人が居なくなっていた。空に二度目の光が輝く。音もなく発射される光線が、一直線に並んだビルを次々に破砕していく。
過去に住んでいた町で襲撃を受けた幸路は知っている。敵は大きすぎて、地上の人間に向かって直接攻撃することはない。逃げるよりむしろ、今いる公園のような、周りに建物の無い場所に留まった方が良い。
その結論に達し、事が過ぎ去るまではその場にじっとしていることにした。頭を押さえて体を丸める。その間にも白光が夜空を照らし、破壊音を響かせた。周囲の民家から出て来た住人たちが荷物を抱えて走っていく。
六年前と同じだ。住民が逃げ惑い、効果的な対策もとれないまま、この町は一瞬のうちに壊滅するだろう。今度は足止めをしてくれるもう一匹の怪獣もいない。
幸路は遠くのビルが光に包まれ、そして吹き飛んでいくのを見ていた。爆発後、黄色く見える炎が建物を包み、焼き焦がしていく。成す術はない。これが、この街の運命だ。
運命。そういえば、自分が二度、こうもうまい具合に大災害に出くわしたのは偶然だろうか。両方とも、まさに直撃。しかも今、自分は得体の知れない耐熱人間であることが分かったばかりで、目の前で街は燃えている。
なにか、すべき事でもあるんじゃないだろうか。
そう考えるうち、一撃目の光線で吹き飛んだアパートに目が留まった。街にぽっかりと穴が開いたように空間ができ、その場所に積み重なった瓦礫がごうごうと金色に燃えている。アパートの上階は完全に崩れ、そこにいた人間はきっと……死んでいる。だが、その下はどうだろう。もしかしたら、光の直撃を免れた人が埋もれているかもしれない。
「ちっ」
幸路は一瞬の迷いを振り切って駆けだした。もし誰か生きていても、急がないと焼け死んでしまう。
街灯が照らす夜道にはもう誰も居なかった。幸路は崩れたアパートへ一直線に向かい、建物の目の前にたどり着く。ウォーミングアップもせずに駆けだしたため、息切れして膝に手をついてしまう。
「はぁっ……はぁ……」
顔を上げると、すぐに熱気が伝わってきた。鈍い金色の炎と瓦礫の中に埋もれて一階部分の形が見える。熱波の向こうを見つめていると、火の中から声が聞こえた。
「誰かぁーっ」
女性の声。まだ中に残っている。
幸路は考える。
……火って、何℃だ。俺、何℃まで大丈夫なんだ。
迷っているうちに顔が熱くなってきた。炎の色が、暗い金から鮮やかな赤へと徐々に変わっていく。強まる月明かり。取り戻される色。その変化が、幸路を焦らせる。
……もう、ダメでもともとだっ。
幸路は当てもなく炎の中へ飛び込んだ。
「熱ッ」
赤い火が燃え上がり、四方を包み込む。幸路は腕で顔を覆いながら入口の階段を駆けあがった。廊下の先を覗き込むと、手前の部屋は上から押し潰されていた。家具やコンクリなどの瓦礫は廊下にも降り積もり、火を噴き上げている。その中で、三つ先の部屋だけは形を保っていた。それより先は建物の残骸で行き止まりだ。
その部屋へ走っていこうと息を吸い込み、むせ込んでしまう。
「ごほッ」
熱すぎるのだ。吸い込んだ空気は喉を焼くような熱さになっている。火に飛び込むのは流石に無謀だった。それでも幸路は口を腕で押さえ、意を決して廊下に駆け込む。瓦礫を踏み越えて奥へ進み、ドアの前にたどり着く。ドアノブが熱いのを我慢してひねった。が、扉は開かない。鍵がかかっている。
「チッ!」
諦めて一度身を後ろに引いた。隣の部屋の入口はコンクリで押しつぶされている。そちらから回り込めるかもしれない。
幸路は廊下を隣の部屋まで戻り、倒れたドアを踏んずけて中を覗き込んだ。炎の中に天井が崩れ落ち、室内は完全に潰れている。ここに人が住んでいたとしたら、もう……。
業火の音に紛れて、さっきの部屋から声が聞こえた。
「パパぁー」
女の子だ。
「おぉーい」
幸路は火の向こう側に向かって叫ぶ。
すると、一瞬あとに女性の声が返ってきた。
「誰かっ、居るんですかっ。居るなら手を貸してください」
声の様子から、まだ逃げ出す気力はありそうだ。
「今っ、行きますっ」
躊躇している暇はない。幸路は思い切って目の前の部屋に飛び込んだ。燃える瓦礫の山を一気に乗り越える。すると、隣の部屋との壁が壊れているではないか。幸路は崩れた壁を跳び越えて部屋を移った。
部屋の中には、顔中に汗を垂らした女性が疲れた表情でしゃがみこんでいた。その横には怯えた様子の幼い女の子が立っている。彼らの目の前で、一人の男が机の下敷きになっていた。その机の上にコンクリの破片が重なり、男性を引きずり出すのを困難にしている。上の階から落ちてきたもののようだ。女性は、彼を助けようと試行錯誤していた。
幸路は駆け寄って、男の様子を確認した。白髪混じりの、強いパーマの男。まだ息があるが、顔じゅう汗だくで苦しそうだ。
幸路は女性に目配せし、机の下に両手をかけて持ち上げる。
「うおおおっ」
足腰を使って引き上げると、重かった机がわずかに傾いて隙間ができた。姿勢を維持するだけで全身の筋肉が震える。長くはもたない。
「はやくっ、引きずり出して」
「はいっ」
幸路の合図で女性が動きだし、挟まっていた男をずるずると引きずり出した。足まで完全に抜け出たのを確認してから、幸路は一気に脱力して机を床に落とす。
「はぁ……」
疲れて息をするのも、熱くて苦しい。さっさと外へ出よう。幸路は男の脇の下から腕をまわし、「せーの」の掛け声で、横にいた女性と二人で担ぎ上げた。そのまま引きずって歩く。
「結ちゃん、行くよ」
女性が呼びつけた女の子を後ろに連れ、もと来た経路で外を目指す。肩に担いだ男性がなかなか重たいが、助かろうという気持ちが疲労を感じさせなかった。鉄筋がむき出しになった壁の間を通り抜け、入口にやってくる。あとは外へ出るだけだ。
幸路たちは火をくぐり、アスファルトの路上へ出た。避難を知らせるサイレンと消防車のサイレン音が混ざり合って騒がしく響いている。幸路たちは熱波から逃れるためにアパートからさらに離れた。近くの街灯の下までやって来たとき、反対側で男性の肩を支えていた女性ががくりと膝を突いた。引っ張られるようにして幸路も前のめりに倒れる。
「あいててて」
幸路は地面に手をついて上半身を起こし、うつ伏せになった男の体を転がして仰向かせる。ちゃんと生きているみたいだ。
「ごめんなさい」
起き上がった女性は幸路に謝ってから、心配そう顔つきで男性の頬を叩いた。
「あなた。しっかりして」
男はなにやら呻いてから目を開け、上から覗き込んでいた家族の顔をボーっと見つめる。
……良かった。
安心した瞬間、幸路の全身にどっと疲れがやって来た。はあっ、と息を吐き出してから地面に腰を下ろす。そして、両手を後ろに突いて顔を空に向けたとき、幸路は言葉を失った。
「…………」
そのとき見えた光景が、幸路の達成感を吹き飛ばしたのだ。
街は、炎の海になっていた。焼けアパートに入る前は見えていた遠くのビルが崩れてなくなっている。いたるところから巨大な炎が噴き上がる。空は真っ赤に揺れ、月の影は見えない。
そうして変わり果てた街の姿に呆気にとられていたため、気付くのが遅れた。
地面が揺れている。
何トンもあるトラックが軍勢になってやって来たかのような振動が、こちらに近づいて来る。それに混じって聞こえるギーギーという不快な鳴き声が、幸路の記憶と重なり合う。
……奴だ。やっぱり、あの芋虫野郎がまた来たんだ。
やがて、まだ立ち残っていたビル群の影から、黒く鋭い巨大な刃の先端が現れた。その刀のような角は赤い炎に照り輝きながら、ゆっくりと、空間を切り裂くように前進する。
その場にいた全員が、声を出すことも、動くことも出来ない。ただ、その巨躯が地を揺らしながら現れるのを仰ぎ見ていた。
角の根元が見え、その下から先のとがった頭が生えているのが見えた。青く輝く半月型の複眼が辺りを鋭く睨み付ける。つづいて出てくる、ビルをも越えるほどに高く盛り上がった背中。その横から生えた、巨大な鋏。
6年前、横須賀から上陸し、唯の一匹でいくつもの街を破滅させたその怪獣は、絶対的な攻撃力と圧倒的な存在感を放つ黒い巨体から、日本を揺るがした歴史的事実になぞらえ、
―黒船―
と名付けられた。
幸路は尻もちをついたまま、ただ見上げた。
二度目の邂逅は、初めて見た時よりも間近で、圧倒的だった。
……こんな……デカいのか……。
黒い山が、街を震わせながら目の前を通り過ぎていく。その姿は巨大すぎて一度に全貌を捉えることは出来ない。
幸路は確かに一人の人間を救った。だが、目の前を通過していくこの怪獣にとっては、そんなのは微々たるものだ。黒船は何事でもないかのように、一瞬で全てを殺していく。ただ一人の人生も、夢も、必死の行動も、全く関係ない。
その黒い山が過ぎ去ったあと、幸路の胸に残ったのは、一種の無力感だった。
第2章、終わり。