観客席:とある喫茶店の一角で
情報屋(自称)
Caféノワールの店員。しかし、周辺の裏路地の治安が悪すぎるため、一般客はほぼ0に近い。よって、バリスタの資格が役立つ時はほぼ無い。
カランカランとベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
「お飲み物はどうなされますか?」
「おや、飲み物ではなく情報をご所望ですか……」
「失礼ながら、それに関してこの辺りで有名なのは、そこの角を曲がったところにある、斡旋屋のケイトちゃんですよ? 金髪碧眼の美少女の」
「……おやおや。此処の事をご存知とは。それでは仕方ないですね」
「さて、なんの情報をお求めでしょうか?」
「……土御門嬢ですか。失礼ながら、どっちの方で?」
「ご長女様の方ですか……」
「珍しいですね。大抵の方は義妹さんの情報を知りたがるのですが」
「いえいえ、依頼主の詮索はいたしませんよ」
「彼女がどうしてあんなに引っ込み思案か、ですか……」
「あれは演技です、としか言い様がないですね」
「おや、ご存じない? 彼女の本当の話し方は、物事を簡潔に話す男言葉ですし……かなり図太いですよ?」
「ハハハ。図太い、は少し違いますかねぇ。何と言うか、そう、極度の面倒くさがりですよ」
「え? なら何故あんな喋り方かって? そうですねぇ」
「話しづらい人間と思われる事を心がけているんです。未来が面倒くさくならないように、らしいですよ。そういえば、前も土蜘蛛を式神にしたりしてましたしね」
「ええ。簡潔に説明すると、瑞稀嬢の義妹さんが土蜘蛛の封印を解きましてね。勿論、瑞稀嬢の殺害を企んで」
「これも初耳でしたか。あとは、何でしょうねぇ」
「そんな事より瑞稀嬢の弱点が聞きたい、と」
「そうですねぇ。ご本人は玉露の茶が怖いと仰ってましたが」
「ハハハ。いえ、冗談でなく本当に仰ってましたよ。そう怒らないでください」
「本当に役に立つ弱点を言え、ですか」
「瑞稀嬢は、魔法攻撃には強いですが、肉体攻撃には弱いですよ」
「そうですねぇ。一人きりの時を狙うのがいいかと。護衛が2人もいますからね。雨宮の子と、昔から瑞稀嬢に仕えている女の子が。野澤沙織ちゃん。妹さんと一緒に、土御門家に拾われた子ですねぇ」
「お役に立てたようで何よりです」
「大丈夫です。情報を扱う物として、顧客の情報は漏らしませんよ」
「ああ、お代は結構ですよ」
「いえいえ。だって……」
「貴方、初めから私を殺す気だったでしょう?」
「嫌ですねぇ。流石にそのくらいは察せますよ」
「土御門分家のご当主さん」
「瑞稀嬢の殺害の為、情報を引き出したかったのですよねぇ」
「いえいえ。報復などは考えてなどいませんよ。ただ……」
カランカランとベルが慌てて鳴った。
「おやおや。急いで出ていかれましたね。まったく」
すっと、音も立てずドアが開く。
「ケイトちゃん、久しぶりですね。流石に飲食店なので、血を落として入って欲しいと……」
「いやいや、男なら気にするな、と言われても……」
「この札束は……?」
「ああ、口止め料ですか」
「というかそれ、さっきの客の財布から出しましたよねぇ」
「まあ、それはさておき、口止め料を出されても……私は聞かれたらどんな情報でも答えますよ。情報屋ですから」
「ハハハ。手厳しいですねぇ」
すっと、音も立てずドアが開いた。
「またのご来店をお待ちしています、と。聞こえてませんかねぇ」
「さて……」
「『情報を制する者は世界を制す』ですか……」
「どうでしょうかねぇ、果たして」
カランコロン
「いらっしゃいませ」
Caféノワールは今日も営業中である。