前奏:モノドラマ(演者・・・土御門瑞稀)
ここからは陰陽道黙示録(土御門瑞稀の小学校時代)とは違い、基本的に学園もの(土御門瑞稀の中学生活〜)となります。ただし、時々小学校時代、つまり過去の話もあります。
主人公組、というのは土御門瑞稀、トール・ファイユ、春日美久をまとめてそう呼んでいます。
〜幕、となっているものは本編(一応)
裏舞台〜、となっているものは主人公(一応)の土御門瑞稀、もしくはその周辺の話。それか、本編の裏事情
舞台袖〜、となっているものは主人公組以外の話。基本的に本編より前の話
幕間〜、となっているものは主人公組の過去の話だったり本編のすき間の話だったりまあ要するに上記に当てはまらない話(区分は適当)
〜曲、となっているものはコメディー(たいして物語に関係ない)
となっております。これ以外にも増えるかもしれません。ただし、区分が明確に定まっているわけではないので「これはこっちでは?」等々ございましたら、ご指摘いただけると幸いに存じます。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
少女は逃げていた。自分を追う、怪しい黒服の男達から。
少女の必死な走りにより、長い黒髪が揺れる。
少女は暗い夜、人気の少ない空間に居た。加えて少女には心配して自分を迎えに来てくれる家族はいない。護衛にも、「今日は一日中家にいるから大丈夫」と嘘をついてきてしまったのだ。
走る、走る
少女はただ、走る
「っ!!」
袋小路
行き止まり
少女はその顔に絶望を浮かべた。
後ろから迫る、黒い影達
バチっと音が聞こえ…少女は、気を、失った。
「はい、はい、土御門瑞稀は捕獲しました。……はい、承知しました。すぐにお連れします」
ピッという電子音の後に男達の内の一人がそう言った。どうやら何者かと連絡をとったらしい。
少女は連れ去られた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ここは、どこ?」
少女はつぶやいた。少女は床に放置されていたのだ。いつの間にか、手錠と足枷がついていた。知らない部屋。どうやらどこか知らない建物に監禁されたようだった。
「土御門瑞稀サマ。あんたには感謝してるよ」
瑞稀の目の前にいきなり現れた青年が言った。瑞稀が起きたことをどうやってか感知したのだろうか。瑞稀に『様』はつけているものの、尊敬などひと欠片もない、冷たい言葉だった。
「あんたの身柄を引き渡すだけで金も地位も手に入る」
瑞稀は、怯えているのか体が震えていた。その様子に気を良くしたのか青年が言葉を続けようとした。
「泣いても無駄だぜ、お「『跪け』」
瑞稀によって気だるそうに紡がれた言葉。
力ある言葉により、跪く青年…と、その建物に居たすべての人。特に大きい声でも無いのにそれは建物に居たすべての人に聞こえたのだった。
その様子はとても怯えていたようには見えなかった。というのも当然で、彼女はあまりのテンプレに笑っていただけである。そして、うるさいから黙らせた。高度な言霊も彼女にとってはただ静かにさせる便利なモノに過ぎなかった。
パチリと彼女が指を鳴らすとカゲがスベテを喰らった。ヒトも、家具も、なにもかも。少女と建物自体以外のスベテを。
「あ、後始末めんどいな」
しまった、という様に瑞稀がつぶやいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「長女様!! ご無事ですか?」
慌てて走ってくる使用人たち。心配している……様に見せかけているが、死んでいればよかったのにと思っていることが顔からわかる。そもそも私の怪我の確認をしていない時点で、心配したふりをしておけばいい、という意識がまるわかりだが。
これだからめんどくさいのだ、誘拐は。
かといって、誘拐されなさすぎても実力的に不自然だ。『土御門瑞稀』は術も満足に使えない落ちこぼれなのだから……
嗚呼、めんどくさい。只々めんどくさい。
「大丈夫ですか? ゴーレムに何かされたりは……」
「だい、じょう、ぶ、です。あり、が、とう、ござ、い、ます」
「術者はまだ見つかっておりません。が、この建物には長女様以外の生体反応はなかったため、別の場所から遠隔操作していると思われます。ゴーレムも倒されたら自爆してしまい、術者の痕跡を発見するのは難しいかと」
雑魚ばかりでよかった。記憶操作の方がめんどくさいからな……
「そう、です、か……」
「はい、とりあえず長女様はお屋敷にお戻りください」
私を帰らせて、自分達も帰りたいんだな。犯人を見つける気なんて毛頭もないだろうよ。まあ、見つけられても困るが。
「は、はい。あ、あの、が、がんばって、く、だ、さい」
「ありがとうございます」
お前のせいで仕事が増えたんだよっ!!という感情を込められても、仕方ないじゃないかとしか言いようがない。いや、別に言わないが。
これを指示した戸籍上の両親であるモノに言ってくれ、それは。
私は悪くないだろう。