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巫女姫と魔法の暗殺人形(仮)  作者: 榊 唯月
陰陽道黙示録
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百鬼夜行第参怪:アノ子ハダアレ

雲母(きらら)綺羅星(きらら)

雲母駈の妹。絶賛反抗期中であり、父母や兄にきつく当たる。特にこんな仮名をつけた母親への恨みは深く、ひどく嫌っている。コミュニケーション障害というわけではなく、学校では頼れる人気者である。

 深い、深い、闇の中を(ただよ)っている。


 ああ、夢か。


 ゆらり、ゆらり、ゆらり


 眠いなあ。今、寝てるんだろうけど。寝た気がしないのだ、夢で疲れて


 ゆらり、ゆらり、ゆらり


 寝、た、いなぁ


 ゆらり、ゆらり、ゆゆゆゆゆゆゆ


 まるでスイッチが切り替わったかのように。それは訪れた。


 ああ、まただ。


 闇が追いかけてくる。何で忘れていたんだろう。


 ヴヴヴヴヴ


 音など無かった夢の世界に、闇が追いかけてくる、その不気味な音が追加されていた。


 無音よりはいいのか。わからない。


 とりあえずーーーー捕まっては、いけない


『闇に呑まれたら死ぬぞ』


 そんな声を思い出して。走る、走る、走るーーーーーー


 追いかけてくる音と反対側へ。光を求めて








『アア、マタニゲラレチャッタ ザンネン、ザンネン』


 薄れゆく意識の中で、少女の声が聴こえたーーー気がした。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 仕事の後の一杯は美味しい。


 まあ、まだ仕事は終わってない、ただの休憩時間だけど。そう思うと憂鬱になる。ああ、机仕事(デスクワーク)だけでは息が詰まるなあ。


雲母うんも


 俺の名字は雲母(きらら)ですっ!、と思うも、もうこの呼び方は定着してしまったのだ。


 まあ、嫌がらせだけでなく、あまり仮名でさえ呼び合わない陰陽寮(ココ)の事情もあるとは思われるけど……


「何ですか、先輩」


「休暇はどうだったか~? わいらが必死こいて働いてる間の優雅な休暇(バカンス)は!!」


「先輩は優秀ですから……あはは」


 決死のフォローは通じなかったらしい。


 足の小指を棚の角にぶつけてしまった……地味に痛い。幸いにも、コーヒーは飲み終わっていたからこぼす、ということはなかった。シミになるととりづらいので、よかったよかった。


「ほほう。まあいいや」


「いいなら呪いとばすのやめてくださいっ!!!」


 地味に痛いんですよっ!!!


「はははは。冗談や、冗談」


 冗談にしては目がマジだった……


「それはさておき!!」


「いや、先輩が話()らしましたよね!?」


 再び呪いがとんでくる。


「『反』」


 流石に防衛しようと返したものの、ブロックされた。呪詛返しの腕は先輩の方がよっぽど上だし、仕方ないけど……ちょっとイラつく。


「まーだまだだな~」


「はいはい俺はまだまだですよっ!! 小学生にも負けるような…………あーーーっっ!!!」


 すっごく余計な事を言ってしまった気がする……ここはさっさと逃げよう。


「あ、んじゃ、ちょっと失礼させていただきま「ちょーーっと待ちーやー」


 がしっと肩をつかまれ、ギギギと音がなりそうな様子で振り向くと、そこにはイイ笑顔をした先輩がニコニコして立っていた。


「勘弁してくださいよ……」


「それは自分の働きしだいや」


 うわーと思ってると、救世主が現れてくれた。


「おーい、そこの二人、流石にそろそろ仕事に戻れよ」


「はーい」


「ちっ」


 内心よっしゃーと、今までにないくらい嬉々として仕事に戻った。


 勿論それは一時的で、その後はいつも通り、陰陽寮なのになんで机仕事があるんだっ!!と世の中の不条理を嘆いていたけど。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「雲母!! 飲みに行こうや」


「え……」


 どうせあの昼のことについて詳しく聞きたいんだろうな、と思うと全くをもってさっぱり行きたくはなかった。


「先輩の誘いは断るもんやないで~」


「俺、未成年ですよ」


「最近の居酒屋にはいいつまみそろってんねん」


 結局、先輩には勝てないなあ……


 ズルズルと引きずられて行きつつ、そうのんきに思っていた。



 ◇◆◇◆



「お姉さん、焼酎と銀杏と唐揚げ、刺身にうどん、天ぷらに麻婆豆腐に、……」


「ウーロン茶で」


「はい。かしこまりました」


 どんだけ食べるんだよこの先輩、と思いつつ無難にウーロン茶をチョイスする。


「んで、小学生っつーんは?」


「あー。それを言う前に一ついいですか?」


 モノのついでだ。あの霊障について聞きたかった。……


「なんや?」


「俺、霊障受けてんですけどどうすればいいですか?」


陰陽師(プロ)が何言うとんねん!! 自分で解決しーや」


 予想はしていたけど、やっぱ祓うのを手伝ってくれる気はないらしい。でも、俺の手には余る気がするんだけどなあ。


「でも結構強いらしくて……」


「まあまだ自分がピンピンしとるゆうことはまだ大丈夫やろ。ホンマに危なくなったら言い。

 で、小学生っつーんは?」


 先輩はどこまでも自分の好奇心を優先させるらしい。……まったく、少しは後輩の心配もしてほしい。


「あー、えっと……土御門のお嬢様って知ってますよね? そのどちらかなんですけど……」


 流石に土蜘蛛の件は、口止めされているし、大問題になって俺までとがめられそうだから、黙っておこう。


「自分に勝てるレベルで優秀やったら、妹はんの方やろ。なんや、それやったら仕方あらへん」


「俺もそうは思ったんですけど……性格が、どうにも、その」


 噂されている、妹様の人物像とはあまりにかけ離れていた。


「まあ聞いてたより悪いっちゅー訳か? あんま噂を鵜呑みにせん方がええで。まあ実際、この世界で真の善人の方がまれや。んで、どんな風やった?」


 どんな様子だったか。よく思い出してみるも、意外と覚えていなかった。もしかしたら、認識阻害をされていたのかもしれない。


「巫女服を着てて……」


「フンフン」


 どんな顔だったか、まったく思い出せない。でも、そう、黒。あの子はとても黒かった。


「黒髪で……」


「おかしいな。妹はんはピンク髪やで? 黒髪は瑞稀様ん方や」


「え……」


 ということは、あれは瑞稀様だった? でも、土蜘蛛を式神にできるレベルであるはずがないのに。


 ……流石に土御門をかたるものはいないだろうし、となると黒髪が嘘か、噂が嘘か。


「ふん、とりあえず自分、土御門についてはよう知っとるか?」


 思考の中断を余儀なくされて、思わず先輩の顔をじっと見つめると、いつもより数倍真剣な瞳がそこに在った。


 土御門。静岡という、東京寄りで育った俺は、実をいうと教科書以上のことは、つまり有名な歴代当主や功績くらいしか知らなかった。


 これも、一つのいい機会かな。


「いえ、あまり……」


「なら土御門について、や。とりあえず、わいが話しちゃる」


 先輩は普段の仕事の数百倍は丁寧に、防音結界を張った……普段の仕事もそんくらいちゃんとやってくださるとありがたいです、はい。


 にしても、そんなに重大なことが話されるのか。そう思うと、思わず姿勢を正して、聞く体勢を整える。………実際、しょっぱなから俺にとっての爆弾発言連発だった。


「まず妹はんは、瑞稀様と血縁関係はないで」


「えっ、じゃあ、瑞稀様は義姉なんですか?」


 普通に考えて、優秀な方が本家の者なはず。無意識にそう考えて、出た言葉だったんだろう。


「どっちかっつーと妹はんが義妹やな」


「えっとじゃあ、つまり、妹様は土御門本家の者ではない、と?」


 実の姉妹と疑っていなかっただけに、衝撃だった。……でもなんでそんな事を、先輩は知っているんだろう。


 おそらく、その質問はしてはいけないのだろう。俺に出来ることは、少しでも霊障の解決方法を導くための情報を得ることだけだ。そう、自分に言い聞かせた。


「そういうこっちゃ。そもそも、や。おかしいと思わんかったか?」


「何をです?」


 先輩が何を言いたいのか、さっぱりわからなかった。


「土御門家次期当主候補は誰や?」


「瑞稀様と妹様でしょう? 陰陽師なら、子供でも知ってることですよ」


 (綺羅星)にだってわかる事だ。本当に何を言いたいんだろう、先輩は。


「そこや」


「どこです?」


「……なんや、自分、結構関西に染まってきたんちゃう?」


 思わず関西のノリになってしまったことは認めるけど、そうさせた張本人に言われるとイラつくモノがある。


「あからさまに嫌そうな顔すんのやめーや。話を戻すで。わいが言いたいんは、二人の両親はなんで候補に挙がらんかゆうことや」


「そういえば……そうですね」


 そうか。もしご両親が当主様の実子なら、間違いなく次期当主筆頭だ。


「瑞稀様は当主様のお孫さんや。まあ、その血筋も怪しまれとるけど、今は置いとこか。んで、妹様とそのご両親は、土御門の遠縁のモンや。今から……何年前やったっけ?忘れてもうたけど、瑞稀様がたしか2、3歳の時やな。瑞稀様の本当のご両親が何モンかに殺されたねん。当時は色々推測されたけど、結局迷宮入りやったわ」


「え……そうだったんですか。全然知らなかったです」


「まあそうやろな。土御門本家のモンがむざむざ殺されたっちゅーたら汚点やもん。しかも状況から内部犯の疑いが濃厚やったさかい、なおさらや。当時まだ幼かった、瑞稀様が殺したとか話もあるけどな。正直、むっちゃ不自然や思うで」


 実際に瑞稀様が犯人だったのか。それはわからないけど……俺が会ったのが瑞稀様だったとしたら。あの深い闇の理由(わけ)は、彼女のその壮絶な過去にあるのかもしれない。いや、きっとそうだろう。


「上流階級って怖いんですね……でもなんで、土御門の遠縁が本家に組み込まれたんですか?」


「正式に本家にはなっとらんけどな。瑞稀様と養子縁組しだけや。……ここらへんは、土御門のお家事情がからんでくんねん」


 ただの遠縁ならば、本家の唯一無二の子であるーーーーー少なくともそうとされている瑞稀様と養子縁組なんてできるはずがない。それだったら、分家で日本人唯一のギルドSSS(ランク)である雨宮さんとの養子縁組の可能性の方がよっぽどあったに違いない。


「土御門家はな、最近他家に比べて、一族のモンの質も量も落ちてきてんや。そんなところで産まれた超優秀な人材は、本家も喉から手が出るほど欲しかったんやろ」


 確かに、言われてみれば、賀茂家や弓削家に比べると、土御門家の子供は明らかに少ないし、最近は昔ほど強い人は聞かない。雨宮さんも、土御門ではなくギルドに所属しているし……そう考えると、妹様というのは土御門の希望なのかもしれない。


 ……ちょっと、いや、かなり、瑞稀様が気の毒だけど。まあ俺が勝手にそう思ってるだけで、本人からしたらまた違ったモノかもしれないし、それはわからないけど。


「なるほど。で、結局、俺が会ったのはどっちの方だったんでしょう?」


 俺が聞きたいのはそれなのだ。知ってどうする?と言われても、気になるのだから仕方がない。


「……説明しといてアレやけどな、雲母。あんまし土御門家には関わらん方がええで。悪いことは言わへん。忘れとき。それが自分のためや」


 ぞっとするほど冷たい笑みに、これはどうしようもない真実で、本気(ガチ)の忠告なんだな、とは感じた。


「最後に一つだけいいですか?」


「なんや、言うてみ」


 パッといつも通りの笑みを浮かべている先輩にほっとする自分がいる……でもよく考えると、さっきの顔の先輩の方が仕事、やってくれそうだなあーーーーー


「もし……土蜘蛛の封印が解かれたら、どうなりますか?」


「そうやなあ。そもそも、アノ封印は土御門んモンしか解けへんし、封印の地は土御門本家に近いからありえへん思うけど……災害レベルS以上は確実にあるんや。雨宮さん(ギルドSSS級)でもない限り、苦戦する思うで」


「ですよね……」


 そう、つまりは。あの子は、最低S(ランク)の。もしかしたらSSS、いや、R(ランク)の実力を持っていることになる。名乗った通り、土御門だったらいい。けど、もし。


 俺の考えた他の可能性。


 日本国に仇なす者だったとしたらーーーーーーー


「にしても、いきなりどうしたんや? そういやあ、サラの式神欲しい言うとったな。土蜘蛛を式神にしたいんか? ……やめときいな。目標は高く持つもの言うけど、流石に高すぎやで。無理やろ」


 冷や汗をかく。


 いや、でも、確証を得たわけじゃない。とりあえず、瑞稀様とコンタクトをとらないと。


 あと、先輩。確かに新しく式神が欲しいなとは言いましたが、管狐とかにする気でしたよ……? 俺をなんだと思っているんですか……?


「違いますよ!! ……ちょっと気になっただけです。ほら、土御門といえば土蜘蛛でしょう?」


 まずは一人で動く方がいい。そのあとで、手に負えなければ先輩の手を借りよう。


 そう、決意した。


「ふーん。まあとりあえず、危ないことには首突っ込まんときーや。自分はまだまだ半人前なんやから」


「だったら霊障、手伝ってくださいよぉ」


「それとこれとは話が別や。……お姉さん、お勘定!!」


 やっぱ先輩は厳しい。






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