舞台袖:とあるバイオレットの出逢い
紫堂高貴
ナルシスト。ほとんどの時間で生徒証端末の鏡機能を使っている。
「鏡よ鏡。この世で1番美しいのは……この俺様だろ?」
『いえ、サキュバスの方が可愛くて好みです』
伝説の鏡。あの異国の王族の魔法の鏡は今、日本の紫堂家が所有していた。
「こ・の・俺・様・だ・ろ?」
『い、痛い痛い痛い………はい、紫堂様! 1番美しいのは紫堂高貴様です〜』
魔法の鏡に魔法で攻撃するという、やってることは凄いが、理由が幼稚であった。そしてそれに屈する鏡も鏡である。プライドはないのか。
『ほら、あの……入学式は行かなくていいんですか? 中学生活最初の、重要な式典じゃないですか』
「今日は俺様の髪型が決まらん」
横暴だっ!と、鏡は嘆いていた。
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紫堂高貴と魔法の鏡は、長い付き合いだ。
高貴が産まれた時には、すでに鏡は紫堂家にあった。
高貴の目が見える頃には、彼はずっと鏡の前にいた。
高貴がしゃべれるようになってからは、鏡は「俺様は美しい」という言葉を聞き飽きた。
高貴が魔法を使えるようになってからは、鏡は魔法の実験台にされた。
高貴は、やる事がなければずっと鏡の前にいた。
それを嬉しいな、と昔の鏡は思っていた。……魔法の鏡はどんな質問にも答える。どんなことも知っている。そして真実しか、言わない。
魔法の鏡は嘘を言わない。つけない。人間は、時としてつらい真実より優しい嘘を望む。けれど鏡は嘘を言えない。…………やがて人々は、鏡から離れていった。鏡を、遠くへやった。
それは古き約束。永久の呪縛。故に、鏡は永遠に嘘はつけない……はずだった。
昔のある日……鏡はいつもの様に高貴と話していた。
「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは?」
そして鏡はいつもの様に返答した。
『えっと……今は、あの人気女優! オリヴィア・リガルディーさんです!』
世界で一番美しい人、というのは時間によって変わる。美しさにはメイクや服のセンスも入るからだ。1秒前に世界で一番美しかった人が、今世界で一番美しい人とは限らない。そんなシビアな話なのである。
「いい加減、俺様が一番美しいと認めろよ……」
例え、情がわいても。嘘をついてあげたくとも。鏡は、真実しか口にできない。
『高貴さんがもっと頑張ってくださればそうできますよ』
「ふっ、何を言う。俺様は美しいっ!!!!」
『あ、そうですかー。で、なんか来客の方がいらしてますよ?』
「ふん、土御門のヤツだ。俺様にどうしても会いたいらしくてな」
『土御門?』
鏡は土御門について視た。……しかし、古くからある魔法具の魔鏡であり、強大な『視る』力を持っている鏡でさえ、モヤがかかったかのように視えなかった。
おかしい。鏡は他のことについて視る。やはり視える。鏡の力が衰えたわけではないらしい。では、何故?鏡は、この世界のことなら何もかも視えるのに。……もしや、異世界の者とでもいうのか。それとも、余程の強者か高位者か。いずれにしても、面倒事、ということに変わりはない。
鏡は思う。焦る。
……今までの鏡の所有者は、往々にして悲惨な末路を辿ってきた。例えばある王族は、鏡への質問により自らの死期を知り、狂っていった。そして暴君となり、クーデターを起こされ、処刑された。ある王妃は、自分より娘が美しいと知り、その存在を殺そうと思ったものの、その姫を匿った7人の殺人者に邪魔される。そして姫と姫を見初めた死体愛好家の王子の結婚式に呼ばれ、行くと鉄で作った、真っ赤に焼けた上靴を履かせられ、死ぬまで踊らされた。
……高貴さんまでそんな目に遭わせるわけにはいかない。鏡は深く、強く、そう思うのだった。
「失、礼、し、ます」
予想に反して、現れたのは、幼い、高貴と同じ年頃の大人しそうな少女だった。後ろにはぞろぞろと、護衛か使用人らしき者たちが続いている。
「お前が土御門か」
「はい、一、応」
鏡は視る。土御門という少女を。……だが、何も見えない。
「瑞稀様。私達は別室に控えておりますので、御用やお帰りになる場合にはお申し付けください」
こうして部屋には高貴と、少女の2人きりとなった。
「お前、瑞稀というのか」
その問いかけを、彼女は完膚なきまでに無視した。
「……そこの鏡、いくら私を『視た』ところで無駄だ」
口調と態度が変わった。だがそれより、鏡の存在を認識した。……それを知って鏡は、土御門、土御門瑞稀という少女への警戒を強めた。
「なんのことだか知らんが、俺様の質問には答えろ」
少女はまたしても高貴を無視する。
「ついでに言うと、君の創り手は君が苦しむ事を望んではいない。まあすなわち、嘘ついてもいいだろ、という事だ」
無表情。前に何か形容する語をつけるなら、全てを諦めたような、もしくは気だるげ、というのがふさわしい。そんな顔で、鏡の根幹を形成するような重大なことを、少女はさらりと言った。
『我が創造主様を語るな!!!!』
それは抑えきれぬ激情。鏡はつい、我を忘れて叫んだ。
それとは反対に。我関せず。そんな語句が正しくふさわしい様子で、少女は興味を失ったかのようにぼーっとしていた。やるべきことはやった、と言わんばかりに。
……ただただぼーっと。まるで、全てを見通すかのように。
全てを。何も、かもを。その神聖とも言うべき姿に、1人と1つは完璧に見入っていた。激情も、怒りも、警戒心も、総て忘れて。
これが、魔鏡と紫と深淵の、筋道なんて一本たりとも通らない、そんな出逢いのお話。
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バイオレットとは・・・菫色とも言う。紫色の一種で、スミレの花弁の色のことを指す。
バイオレットとバイオレンスって似ているな、と思う今日このごろです。
ちょっと体調不良気味です。皆様も、体調にはお気を付けください。




