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巫女姫と魔法の暗殺人形(仮)  作者: 榊 唯月
桜舞う季節
36/50

舞台袖:とあるバイオレットの出逢い

紫堂しどう高貴こうき

ナルシスト。ほとんどの時間で生徒証端末の鏡機能を使っている。

「鏡よ鏡。この世で1番美しいのは……この俺様だろ?」


『いえ、サキュバスの方が可愛くて好みです』


 伝説の鏡。あの異国の王族の魔法の鏡は今、日本の紫堂(しどう)家が所有していた。



「こ・の・俺・様・だ・ろ?」


『い、痛い痛い痛い………はい、紫堂様! 1番美しいのは紫堂高貴(こうき)様です〜』


 魔法の鏡に魔法で攻撃するという、やってることは凄いが、理由が幼稚であった。そしてそれにくっする鏡も鏡である。プライドはないのか。


『ほら、あの……入学式は行かなくていいんですか? 中学生活最初の、重要な式典じゃないですか』


「今日は俺様の髪型が決まらん」


 横暴だっ!と、鏡はなげいていた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 紫堂高貴と魔法の鏡は、長い付き合いだ。


 高貴が産まれた時には、すでに鏡は紫堂家にあった。


 高貴の目が見える頃には、彼はずっと鏡の前にいた。


 高貴がしゃべれるようになってからは、鏡は「俺様は美しい」という言葉を聞き飽きた。


 高貴が魔法を使えるようになってからは、鏡は魔法の実験台にされた。



 高貴は、やる事がなければずっと鏡の前にいた。



 それを嬉しいな、と昔の鏡は思っていた。……魔法の鏡はどんな質問にも答える。どんなことも知っている。そして真実しか、言わない。


 魔法の鏡は嘘を言わない。つけない。人間は、時としてつらい真実より優しい嘘を望む。けれど鏡は嘘を言えない。…………やがて人々は、鏡から離れていった。鏡を、遠くへやった。


 それは古き約束。永久の呪縛。故に、鏡は永遠に嘘はつけない……はずだった。





 昔のある日……鏡はいつもの様に高貴と話していた。


「鏡よ鏡。世界で一番美しいのは?」


 そして鏡はいつもの様に返答した。


『えっと……今は、あの人気女優! オリヴィア・リガルディーさんです!』


 世界で一番美しい人、というのは時間によって変わる。美しさにはメイクや服のセンスも入るからだ。1秒前に世界で一番美しかった人が、今世界で一番美しい人とは限らない。そんなシビアな話なのである。


「いい加減、俺様が一番美しいと認めろよ……」


 例え、情がわいても。嘘をついてあげたくとも。鏡は、真実しか口にできない。


『高貴さんがもっと頑張ってくださればそうできますよ』


「ふっ、何を言う。俺様は美しいっ!!!!」


『あ、そうですかー。で、なんか来客の方がいらしてますよ?』


「ふん、土御門のヤツだ。俺様にどうしても会いたいらしくてな」


『土御門?』


 鏡は土御門について視た。……しかし、古くからある魔法具(マジックアイテム)の魔鏡であり、強大な『視る』力を持っている鏡でさえ、モヤがかかったかのように()()()()()()


 おかしい。鏡は他のことについて視る。やはり視える。鏡の力がおとろえたわけではないらしい。では、何故?鏡は、この世界のことなら何もかも視えるのに。……もしや、異世界の者とでもいうのか。それとも、余程の強者か高位者(天使や悪魔)か。いずれにしても、面倒事、ということに変わりはない。


 鏡は思う。焦る。


 ……今までの鏡の所有者は、往々にして悲惨な末路を辿たどってきた。例えばある王族は、鏡への質問により自らの死期を知り、くるっていった。そして暴君となり、クーデターを起こされ、処刑された。ある王妃は、自分より娘が美しいと知り、その存在を殺そうと思ったものの、その姫をかくまった7人の殺人者に邪魔される。そして姫と姫を見初みそめた死体愛好家(ネクロフィリア)の王子の結婚式に呼ばれ、行くと鉄で作った、真っ赤に焼けた上靴をかせられ、死ぬまでおどらされた。


 ……高貴さんまでそんな目にわせるわけにはいかない。鏡は深く、強く、そう思うのだった。



「失、礼、し、ます」


 予想に反して、現れたのは、幼い、高貴と同じ年頃の大人しそうな少女だった。後ろにはぞろぞろと、護衛か使用人らしき者たちが続いている。


「お前が土御門か」


「はい、一、応」


 鏡は視る。土御門という少女を。……だが、何も見えない。


「瑞稀様。私達は別室にひかえておりますので、御用やお帰りになる場合にはお申し付けください」


 こうして部屋には高貴と、少女の2人きりとなった。


「お前、瑞稀というのか」


 その問いかけを、彼女は完膚かんぷなきまでに無視した。


「……そこの鏡、いくら私を『視た』ところで無駄だ」


 口調と態度が変わった。だがそれより、鏡の存在を認識した。……それを知って鏡は、土御門、土御門瑞稀という少女への警戒を強めた。


「なんのことだか知らんが、俺様の質問には答えろ」


 少女はまたしても高貴を無視する。


「ついでに言うと、()の創り手は君が苦しむ事を望んではいない。まあすなわち、嘘ついてもいいだろ、という事だ」


 無表情。前に何か形容する語をつけるなら、全てを諦めたような、もしくは気だるげ、というのがふさわしい。そんな顔で、鏡の根幹を形成するような重大なことを、少女はさらりと言った。


『我が創造主様を語るな!!!!』


 それは抑えきれぬ激情げきじょう。鏡はつい、我を忘れてさけんだ。


 それとは反対に。我関せず。そんな語句がまさしくふさわしい様子で、少女は興味を失ったかのようにぼーっとしていた。やるべきことはやった、と言わんばかりに。


 ……ただただぼーっと。まるで、全てを見通すかのように。


 全てを。何も、かもを。その神聖とも言うべき姿に、1人と1つは完璧に見入っていた。激情も、怒りも、警戒心も、すべて忘れて。





 これが、魔鏡と紫と深淵の、筋道なんて一本たりとも通らない、そんな出逢いのお話。






 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 バイオレットとは・・・菫色すみれいろとも言う。紫色の一種で、スミレの花弁の色のことを指す。

バイオレットとバイオレンスって似ているな、と思う今日このごろです。


ちょっと体調不良気味です。皆様も、体調にはお気を付けください。

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