十四幕:自己紹介とはなんとも非効率的だと思いませんか(演者・・・トール•ブリューゲル)
赤井充
凰璃学園中等部C組の担任。不死鳥を使役する。女生徒に人気の教師。
「担任の赤井充だ。1年の魔法理論を担当している。これから一年間、よろしく頼む。ではまず、自己紹介から始めよう。廊下側から行ってくれ」
赤い長髪の、白衣を着てらっしゃる方が自分達の担任の教員でいらっしゃいました。……実力者の方のようですね。それと……不死鳥との繋がりを感じます。使役者と見て間違いなさそうと思われます。
……クラス内ではあまり大きな動きをしない方が賢明ですね。困りました。この、机についている何方かがお付けになった盗聴のルーンや術を解きたかったのですが……とりあえずは放置、ということにしておきましょう。あまり目立った動きをして目をつけられるというのは得策ではありませんし。
しかし、そういえば……結界を破った件でもう目をおつけになられていそうですね。いえ、でしたら構わないでしょう。遠慮なく机にかかっている術をすべて排除しましょう。
「青山理葵」
「高橋涼音です。趣味はピアノを弾くことです。これから一年間、よろしくお願いします」
「桜舞レオです。趣味は日向ぼっこ。一年間、よろしくお願いします」
「黄呂狼騎! 上から読んでも下から読んでもきろろき! 好きなことは食べること! 一年、よろしくお願いします!!」
聞く必要もありませんね。自己紹介で言われる情報など後でいくらでも手に入れられます。せいぜい、特権所有者であるシルヴィア・ローゼン様と土御門瑞稀様。あとは一応、春日美久様。聞くのはその方々だけでよろしいでしょう。
……このクラスには成長の見込みが大きい方々が多いように思われますが、まだまだですね。いくらか異世界人や異種族の方々もいらっしゃいますが、未熟です。あの高橋様は異界の妖精をお連れになられているようですが、使役しているわけではなさそうですし。
おや、高位の悪魔の方もいらっしゃるのですか。これはこれは、意図的に集められたかのような、素質がある方々で構成されたクラスのようですね。
「九段フェルミだ。得意科目は魔法実技。一年間、よろしく」
「火野輝明だ!! 信条は義を重んじ大義に生きよ!!! これから先、共に歩んで行こう!! よろしく!!!」
……あの、日比谷様と同じようなテンションな方でいらっしゃるようです。たしか、火野家と日比谷家は親戚であったと記憶しております。だからでしょうか。ともかく、これは……あまり、関わらないように致しましょう。
もう次がローゼン様なようですね。皆様たいして話されていらっしゃらないので、進みが早いですね。
「シルヴィア・ローゼンですわ。下賎の輩と慣れ合うのは不本意ですけど、跪いて赦しを乞えば仲良くしてやらないこともないですわ」
なるほど、典型的な貴族の思考をお持ちの方なようです。……あまり伸びしろはなさそうに思われます。捨て置いても害はないですね。土御門様とはあまり性格がお合いにならなそうですし。
確かシルヴィア・ローゼン様の姉君のサーシャ・ローゼン様はA組の担任でいらっしゃいましたね。姉妹間の仲は良好、とのことでしたが……
「白河樹。趣味は読者。よろしく」
「古殿陽向です。好きなことは運動! よろしくお願いします!」
「かっ、春日美久です! 趣味は裁縫です。小学校ではみーと呼ばれてたです。よ、よろしくお願いしますっ!!」
おや、春日様の番がもう来られましたか。ということは、もう少しで自分の番ですね。
しかし、何故でしょう。『みー』、というのに聞き覚えがあった気がするのですが……記憶にはありませんね。勘違い、でしょうか。それともーーーーいえ、これについてはまた今度に考えましょう。記憶違いの可能性が高いレベルのものですが。
それにしても皆様、個性的ですね。自分が言えたことではありませんが。
「緑川英毅です。趣味は植物のお世話をすることです。一年間、よろしくお願いします」
と、思っている間に自分の番が来たようです。
「トール・ブリューゲルと申します。趣味は読書でございます。一年間、どうぞよろしくお願い致します」
端的ですが、こんなものでしょう。しかし、こんなにも視線を集められるのですね。おそらくこの包帯でしょうか。まあ、外すわけにはいきませんし、仕方のないことでしょう。いえ、実際は外しても構わないのですが、少々面倒なことになりますからね。
けれど、先程から春日様がじっとこちらをご覧になられているのですが……煩わしいですね。上空から落とされていた時と同じ視線と思われます。やはり、春日様があの視線の正体でしたか。お会いした時から予想はついていましたが。……まあ、もう教員の方々にも結界を壊したことは知られているでしょうし、口封じする必要はありませんね。春日様があまりにも障害になるようであれば、記憶操作でもすればよろしいですね。
「紫堂高貴」
次が土御門様の番ですか。
「土御門、瑞稀、です。これ、から、一年間、よろ、しく、お願い、し、ます」
自分とは、そして他のクラスメイトとは比べ物にならないほど……あのローゼン様さえ超えるほどに注目されていらっしゃいます。
「あれが……」
「『落ちこぼれ』の長女か」
「妹が入ってくればよかったのに」
土御門様は小さくつぶやかれた悪意に、軽く震えていらっしゃいます。……その程度の器でしたか、ね。
「鈴木哲也です。趣味は読書です。一年間、よろしくお願いします」
「月詠漣杜」
最後の方の自己紹介が終わりになりました。土御門様は、と……もう震えは治まったようです。……あの震えも少しわざとらしい、と思うのは疑い過ぎでしょうか。どちらにせよ、土御門様はこれからも狙われそうですね。このクラスメイトの方々の様子からして元々術を知っていた方々はほぼ敵とみなしてよいでしょう。何かのきっかけで土御門様を攻撃することは充分ありえますね。まだ巫女の手がかりはありませんし、できる限り、これからは土御門様の命は守らせていただくことにさせていただきましょう。家族の命令によっては変わることもありますが。
「よし、ではこれよりガイダンスを始める。が、先に帰りたい者は帰って構わない」
土御門様はどうなされるのでしょうか。見たところ、ローゼン様など一部の方が抜けた以外はほとんどの方が残っていらっしゃいますが。
「土御門様、どうなされますか?」
「先生に、お呼び、出しを、伝え、られて、います、ので、このまま、残り、ます、が、ブリューゲル、さんが、お帰り、に、なりたい、なら、構いません、ので、どうぞ」
呼び出し、ですか。先生とは赤井様のことでしょう。……何についてでしょう?情報が足りませんね。
「いえ、でしたら私も残らせていただきます。しかし、呼び出しとは一体……?」
「すみ、ません。聞いて、ません」
「そうですか。教えてくださり、ありがとうございます」
なんなのでしょうか。生徒会や風紀委員の勧誘、が一番可能性が高いですが。まあ、わからないものは仕方ありません。ガイダンスもそこまで長くはないですしね。
「………………であるからにして、安全性の面から一人きりでの術の行使は基本的に禁止だ。それと校舎内での転移系の術も禁止。上の階へ行くこともできる限り避けてくれ。特に風紀委員室と生徒会室は立ち入り禁止だ。近づかないように。さて、禁止事項を述べてきたが、最後にこれからの予定だ。まずは中間試験があり、次に移動教室。そのあとに部活勧誘期間に入る。とりあえずはそんなものだが、生徒証から学校歴を確認しておいてくれ。時間割や禁止事項も載っている。前半の説明で生徒証の使い方がわからなければ、直接聞きに来るか同室の者に聞いてくれ。そして今日中に入力してほしい物が送られているはずなので、入力してこちらに返信してほしい。では、明日は持ち物は生徒証以外は特になしだ。解散」
知っている情報ばかりで正直、退屈でしたが……土御門様は、どうでしょうと、思ったのですが。……真剣に聞いていらっしゃいました。少々意外でした。
「それと、土御門、紫堂、火野、ブリューゲルは残ってくれ」
……土御門様、紫堂様、火野様という名家の方々と自分ですか。やはり自分が呼ばれたのは、結界を破った件でしょうか。しかしローゼン様は呼ばれていらっしゃらないのですね。いえ、これは呼び出しは事前に伝えられたけれども無視してお帰りになられたということでしょうか?
「単刀直入に言おう。お前らに生徒会と風紀委員の勧誘が来ている」
自分も、ですか?
いえ、特権所有者になるという目的においては好都合でしょうか。ですが、赤井様には……警戒されておりますね。観察、分析するような視線を向けられています。この誘いは、自分においては危険分子の監視の意味合いを含んでいるのでしょう。
とりあえず、原因である金剛様の殺害依頼を出しておきましょう。少しは気が晴れるでしょうし。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆(演者、退場)
「トール君から『金剛』の暗殺依頼が来たって本当ですか☆ 父様♡」
「ああ。念話でな。余程不都合になる事態を引き起こした、ということだろう。……反省しろ、クロウ」
「だって〜、トール君が可愛くてつい♥」
「実際の所はどうなんだ」
「……父さんには敵わないか。土御門瑞稀……ソレに接触させておきたくて。アレは油断ならない。突発的な事態で関わらせない限り、中々接触するには難しいだろうから。俺でさえ、警戒されたら、アッチが接触を断とうとすれば接触はかなり難しい。いや、不可能かもしれない。そのレベルだよ」
「前々から知っている口ぶりだな」
「取引相手としては良好だから。情報も漏らさないし」
「ふむ……アレが巫女という可能性は?」
「仮にアレが巫女でも、ウチに不利益になることはしないさ。めんどくさいらしいから。アレの物事の基準は愉しさとめんどくささ。それをアレ独自の天秤で判断する。俺らを相手にするのはめんどくささが勝つらしい。それに、確かにアレは力は強いが、清廉潔白さがない。その面においてはアレの義妹も一緒だが……それを思うと、あの春日美久とかいうトールに近づく身の程知らずが今の所、可能性が高いか。優しさ、という名のただの甘さだけは無駄にあるタイプだから」
「できる限りの封印はしたのにまた、か。喜ぶべきか悲しむべきか。まあいい。既にお前の手の者は潜入させてあるな?」
「勿論。必要だったら洗脳して増やすけど」
「いや、いい。とりあえず土御門瑞稀は敵に回さんように。割に合わないどころか不利益にしかならんだろう。春日美久は様子見だ。……それとそろそろあの時期だな」
「中間試験の時、ということだったよ、あれが起こるのは」
「トールがあまり派手に動かんように、操作しておけ」
「承知してる。それと、悪魔と天使、堕天使の争いはできる限りは遠ざかるようにも」
「トールに近すぎて飛び火されても困るからな。今回は悪魔だけだったか」
「そのうち三つ巴になる。ま、土御門瑞稀の傍にいれば勝手に遠ざけてくれるけど。ある程度操作はするよ」
「しかし、平和ボケした奴らはこれだから困る」
「災厄はすぐそこに迫ってるのにね」
「まあ、気づけないトールも未熟だ」
「仕方ないよ。あの子は感情を持たない暗殺人形だから」
「それを言い訳にされては困る。まあ、嫌でも成長するだろう。あの王裏、翁裏にいたら」
「学園長のくそじじいと……王か。確かにね。次世代の王はあの皇帝と呼ばれている彼かな? 彼も油断ならないんだよな〜」
「とりあえずトールの依頼は断っておこう。話は以上だ」
「別に本物の『金剛』なら殺してもいいけどね☆ じゃあね♡ 父様♥」
「顔を借りた相手なのだから、消しては感付かれる可能性が高い。寺も、トールもそこまで阿呆ではない。まあ、トールとはもう会わぬようにさせておけ。お前の暗躍に差し障りがあるだろう。お前のことだから、成り代わっていた間の記憶は植え付けているだろうが、念のためだ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
翁・・・男の老人の敬称。
王・・・詳細不明
皇帝・・・よく名前だけ出てくる高校生、中等部前生徒会長さん。
一日二話は疲れますね。やっと話が進みました……
あ、トールが聞いていなかっただけでクラスにもっと人はいますよ。




