二幕:三者三様、人はそれをカオスと呼ぶ(演者・・・トール•ファイユ)
野澤沙織
土御門瑞稀の護衛。幼い頃に土御門家に、妹とともに拾われたらしい。
自分が入学を指定された凰璃学園は陰陽師という日本独自の魔術師や魔術師を育成する学校、という風になっております。では、自分の様に幼い頃からそういうものに関わってきた人々ばかりかというと、そうではありません。元は一般人の方もいらっしゃいます。どうやら学園側が魔力やらを判定している様ですので、巫女が学園に必ず入るとは限らないのです。例えばそもそもこの学園を受験なさらないかもしれませんし、受けても落とされている可能性もありますね。そうでないことを祈りますが。
まあ、そちらにつきましては何方かがなさってくださるでしょう。自分は、自分に与えられた仕事をこなすのみですね。
ちなみに自分達のような既に術を使える人々は、入学試験は面接のみです。指定された魔術を使えばよい、となっております。まあ、術師の紹介状が必要ですが。紹介状を書く、となるともし実力が無い者を紹介していた場合はその書いた術師の信用問題となるのです。そのため、大抵は実力が無い者は入れません。が、何事にも例外はつきものでして、例えばあのクロウ兄上のおっしゃた土御門の方など、極めて力を持った一族ですね。その場合は学園長やら理事長に一言いうだけで余裕で入学できるらしいです。その者に実力が伴ってない場合は如何なさるのでしょうか。授業についていけないと思われるのですが……。後はよほど頭がよろしくない方や金銭主義の方は高額の金銭等によって紹介状を書くらしいのです。……その末路は存じませんがね。
◇◆
さて、日本に着いたはいいのですが、協力者の方というか寮に入るまでお世話になる方がいらっしゃいませんね。日本の教会の様な所の方らしいのですが。
「ブリューゲル君で間違いないかしら?」
「はい、貴殿が兄上のご友人とのことですか」
「やっぱり可愛いわね〜♡ 私は金剛よ。よろしくね☆」
……出会った御方は頭を剃っていて、筋肉が素晴らしいのにクロウ兄上と同じように話され、初対面なのですが抱きついてこられる方でした。クロウ兄上の友達は金剛様でいらっしゃいますね、はい。
……寮に入るまでこれですか。少々チェンジを所望したいのですが。これからが思いやられます。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ふ、ふふふふふ。何だったのでしょう、あの地獄は。まるでクロウ兄上が何人もいる様でしたよ。毎日、毎日厳しい修行です。それだけでしたらまだ良かったのですが、その後ベタベタ、ベタベタとひっつかれます。寺、というものをなめておりました。これも、あのクロウ兄上が自分に課す試練……いえ、試練ですね。
面接試験ですか?そんなもの、あっさりと終わりましたよ。ただの氷の矢だけで終わりました。念のため、法王級の術式を用意しておいたのですがね。おそらく、失敗しても凍るだけで済みますし、矢系の術は1本だけでしたら簡単です。それに、出た本数で魔力量や魔力コントロールの度合いを計れるのでいい試験用の魔術なのでしょう。
この時は一時的とはいえ解放される喜びと今までのストレスから少々気持ちが高ぶっておりました。なので、先述したようないわゆる金とコネで受ける方々を少々…まあ、お灸を据えましたね。少しばかり気分が晴れました。
そしてついにやってきました。今日、入学式の日です。つまり、入寮の日となります。もう金剛様たちともお別れですね。変態な方々でしたが別れは寂しく……ないですね。むしろ清々しい気分です。
「もうお別れなのね、トール君。寂しいわ」
いえ、自分はとても嬉しいのですが。
「だから、できる限り一緒にいれるように学園まで送るわ」
いえ、結構です。そう、言おうとしたのですが
「それじゃ、行くわよ」
素晴らしいスピードで連行されました。……そのヘリコプターはなんでしょうか。自分は、校門の前まで転移魔法で行こうと考えていたのですが。
「しゅっぱーつ、進行♥」
いえ、別に送っていただかずに普通に(転移魔法で)行きたいのですが……そう思っている頃にはすでにヘリコプターは動いておりました。自分の無力さをひしひしと感じます。……仕返しは近いうちに決行致しましょう。無駄でしょうけれども。
ヘリコプターでは、金剛様と二人きりでした。操縦に集中しているためか、珍しく金剛様は静かでした。意外でしたね、勝手ながら操縦しながらでもぺちゃくちゃと此方に話しかけてくると予想しておりましたのに。拍子抜け致しました。その内、また煩く、いえ、少々騒々しくなるのでしょうか。
◇◆◇◆◇◆
ようやく、学園が見えてまいりました。金剛様と二人きりだったにも関わらずずっと静かだったことに違和感を感じております。自分には好都合でしたが、何と申しますか、いつもと違って気持ち悪く感じました。
「トール君」
金剛様がいきなり真面目なお顔でそう話され始めました。
「これからは大変な事が起こると思うけど、私達は家族だから。ずっと傍にいるからね」
寺の方々が、そんなことを考えてくださっていたとは…すみません、兄上の同類とひと括りにしてしまって。ただ、ずっと共に居るのは不可能かと。寮生活ですし。心は、などその様なものですよね。ではないと気持ち悪……いえ、犯罪ですね。ファイユ家の自分が言う台詞ではありませんが。
しんみりとした空気となりました。まあ、やはり自分は寂しく思う気持ちはひと欠片も無いのですが。
「じゃあ、いってらっしゃい♡」
そして、その空気をぶち壊すが如く自分をヘリコプターのドアから術を使って放り出したのでした。あの、普通に校門から入りたかったのですが。あと、この学園には多重の結界が張っていて侵入者を拒むのですが……
「頑張ってね♥」
自分でどうにかしろと、そういうわけですか。この上げて落とす、空気を壊す所も兄上に似てらっしゃいますね。はぁ、あくまでも冷静に行きましょう。あとで、金剛様へは必ず闇討ちの計画をさせていただきますが。さて、対結界の術ですね…
こうしている間にもだんだんと落下しています。分析 解析 完了 術式構築…………結界 、すり抜け完了 破壊完了………
「賽は投げられた。さてさて、頑張れトール君☆」
ヘリに乗っている黒髪の男はポツリと呟いた。怪しい笑みを浮かべながら。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆(演者、退場)
空から落ちてくる美少女……それは正にテンプレ。例えば漫画で、アニメで、ラノベで、空から落ちてくるヒロインは決して少なくない。だから、土御門瑞稀は怒っていた。……空から少年が降ってきたことに。
瑞稀曰く、銀髪が肩までの長さだからわかりにくいそうだ。まあ、制服はズボンだったし、性別程度は一目瞭然らしいので直ぐにわかったらしいが。そして蛇足だが、少女漫画では少年が空から落ちて来てヒロインと運命的な出会いを果たすというものもある。つまり、トールの(心の中とはいえ)怒られ損である。
まあ、瑞稀はそれよりも自分を狙ったどこぞの手のものかを確認して、警戒していたのだが。今まで星の数ほどの誘拐・暗殺その他の悪意に晒されてきた彼女であるのだから。
土御門、それは悪人達にとっては美味しいエサであったのだ。土御門家はかの有名な陰陽師である安倍清明の子孫であり、長い歴史を持ち、今でも優秀な陰陽師を多数輩出する名家だ。日本で最も力を持つ家と言った方がわかりやすいのかもしれない。そんな土御門のしかも本家の長女、現当主の孫となれば狙われるのも道理だろう。……随分とへヴィーな人生を送っているのである。
まあそんなわけで、自分への敵意・悪意に敏感な彼女はトールを見ていたのだが……胡散臭い、闇に生きる者だが攻撃の意思はなさそうなので警戒は解かなかったが、術は解いた。真名を視た、というのもある。トール・ファイユ。かの有名な闇に、陰に生きる一家の一員だろうと思われる。まあ、100%ではないのだが。
ファイユ家とは、瑞稀の記憶によると万能屋、不可侵、世界最強であり最凶などと呼ばれる一家だ。依頼を受ければ何でもやる、とのことだ。ただ、彼らが気に入れば、だが。気に入らない依頼をした者はほとんどが殺られるらしい。まあ、なので彼らへの依頼はほとんどが暗殺らしい。その一家には幻獣の王や幻影やら死の光、笑う道化師、暗殺人形などがいる。……おそらく知られていないだけでもっといるとされている。しかし瑞稀は彼らに一度言いたかった。……中二病ネーム、恥ずかしくないのか、と。まあ、敵対すると面倒間違いなしの一家なので残念ながらそう言ったことはない。
それはさておき、真名を視た彼女は珍しいことに不死鳥に何やら指示を送ってトールを見逃させてあげた。基本的に瑞稀は他人のために何かしてあげる善人では無かった。彼女は単純に、わざわざ人のいない道を通って来たのに不死鳥が居るせいで騒ぎになって人が来て面倒事になることを避けたかったのだった。あのファイユ家の可能性が高いから、というのもある。しかし、トールは目立たないのか、人を集めないのかという疑問もあるだろう。だが、この学園では空から落ちて来た人をスルーするのは普通なのだ。
そして瑞稀は面倒事は嫌いなのだが巻き込まれるのか、いっそのこと今逃げたいが顔見られてるからな、ついでに呆れた表情を浮かべている隣の少女に護衛だったらもう少し警戒しなさいと思い、トールが壊した結界(再構成済みで修復されているが)を見て深くため息を吐いたのだった。そして、とりあえずトールはスルーしようと思ったのだった。
不死鳥はそんな彼女を心配そうにちらりと一瞬見ると、また学園の見回りへと羽ばたいて行った。……原因のトールをぎろっと睨んでから。余談だが、不死鳥は使役がたいへん難しい聖獣であり、ここまで人に懐くのは珍しいことである。
◇◆◇◆◇
野澤沙織は呆れていた。入学式当日、その朝に空から学校へ登校し、学園の結界まで壊し、フェニックスに追われている人物に。門から入らず、結界を壊したら当然警備している魔獣やら何かに追われるし、後で呼び出しに合うことは間違いない。
主と自身は人のいない道を入学式にギリギリ間に合う時間に通っている。その進行先の上空にいるのだから、中等部入学式を行う第三ホールに向かっているのだろう。今日入学式へ出席する生徒は新入生か上級生は生徒会や風紀委員などの一部の人のみだ。しかし奴は風紀委員や生徒会の腕章はつけていない。となると、同じ新入生となる。沙織は瑞樹様と同じクラスになりませんように、と祈った。
一般的に、普通は人がパラシュートもなしに、いやあったとしても只の学校に空から落ちて来たら大騒ぎ間違いなしである。しかし、此処は普通の学校ではなく凰璃学園であり、二人の少女は陰陽師だったのだから、普通とは違うのだ。……その対応も。
◇◆◇◆
さて、当事者のトール・ファイユはというと困惑していた。全ての結界をすり抜け、もしくは破壊することで通り抜けたのはいいのだが、自分が何処に居るのかがわからなかったのだ。懐中時計を見ると、入学式まではあとわずか。入学式の建物はどれだ、と探すといくつかそれらしきものが見当たった。これは、幼稚園から大学院までの全てで式典を行っているからだ。まあ、彼はとりあえず金剛が自分を入学式の建物の近くに落としたと信じて一番近い目の前にあるホールへ行こうと目標を定めた。ちなみに、違っていた場合は割合本気で父親に金剛の暗殺依頼をだそうとしていた。どちらかというと、家族間の依頼なので取引となるのだが。まあ、それはさておき。そして、ようやく彼は先ほどから自分につきまとってくる不死鳥をどうしようかと考え始めたのだった。
◇◆(演者・・・トール•ファイユ)
自分が制服を着ているので攻撃まではしてきませんね。さて、時間が差し迫っておりますし、教師に捕まる事は避けたいのですが。この不死鳥は相当な実力者の、おそらく教員が使役者でしょうしね。たしか、情報では中等部のわりと新しい教員の方と学園長殿だけでしたか、この学園で不死鳥を使役してらっしゃるのは。
不死鳥は倒すと厄介なことになるかと思われますね。殺す事はできませんし。爺上の所で確認済みですね。となると、放置でよろしいのでしょうか。仕方ありませんので、教員の方々には後で捕まる事に致しましょう。実害としては、少々騒々しく目障りなだけですしね。
さて、見られておりますね。3人、いえ、今は2人ですね。年齢的に中等部の新入生で間違いないと思われます。丁度お二方の進行方向に自分が落ちているので、やはり入学式会場はあちらのホールで間違いないのでしょう。良かったです。これで、無駄な労力を使わずに済みますね。
おや、不死鳥が手を引きましたね。鳥なので、羽でしょうか。まあ、ともかく飛びさってくれました。少々睨まれたので、許されてはいない様ですが。はて、使役者の命令でしょうか。それとも……いえ、今推測するのは早計ですね。
ここは風よで着陸致しますか。
◇◆◇◆◇◆(演者、退場)
落ちて来た阿呆は、どうやら無詠唱の魔法で着陸した様だとわかると、沙織は落胆の色を隠せなかった。無様に転がればいいのに、と思っていたためだ。しかし、あんな存在など無視して行けばいいだろう、と完全にスルーして行こうと考えていたのだ。奇しくも主従の思考が一致したのであった。
しかし、現実はそう甘くは無かった。
「すみません。中等部入学式の会場はあちらでよろしいのでしょうか」
さらりと長い銀髪。目元は見えないものの、顔の他のパーツからして間違いなく美形な顔立ち。十中八九の少女達はうっとりと見つめるであろう彼、トールを目にして……けれど沙織はそのへんの石を見るような目だった。いや、むしろ塵芥かもしれない。
「はい、そうです」
沙織は主のため、仕方なく事務的な対応をすると、そのまま二人で立ち去ろうとした。だが、
「あ、申し遅れました。私は、トール・ブリューゲルと申します。どうかお見知りおきを」
あっさりと相手から自己紹介をされ、こちらも名乗らざるを得なくなった。相手の狡猾さと自らの不甲斐なさを感じつつ、沙織は口を開いた。
「野澤沙織です。こちらにいらっしゃる土御門瑞稀様に仕える者です」
内心舌打ちをしつつ、沙織も返した。とりあえず、不審人物と瑞稀が話さない様にという心遣いである。もっとも、本人がそれを知ったらもっと早く警戒しろよと言いそうだが。
「土御門様、野澤様、よろしくお願い致します」
瑞稀も沙織も内心果てしなく嫌だよと思ったのだが、瑞稀は気の弱そうな、沙織は冷たい笑みを返しておいた。一方、トールもきゃいきゃい騒ぐタイプだったら放置だったが、そうでなければ仕事のために女生徒と仲良くなっておいて損はないと考えていた。しかも、相手が兄の言っていた土御門だったのである。巫女を発見するために親しくなっておこうと考えていた。
「しかしながら、少々お時間が足りないため、急がれた方がよろしいかと」
沙織は貴様のせいだろうに何故主導権を握ってると思いつつ、主に迷惑をかけない様、仕方なく急いで行くことにした。トールは、別に沙織を怒らせる気もなく、本当に時間がまずいのと、教師が来ないうちに立ち去りたかった。瑞稀は別に入学式程度出なくても、お咎めなしなので急がなくていいのにと思いつつ二人に付き合って急いだ。面倒くさいと思いつつも。
風が始まりを告げるかの如く吹き、桜がひらひらと舞った。
変更:制服に色なんて決まっていないですね。すみません。
生徒会役員や風紀委員の判断基準は腕章です。つけてない人もいますが、式典の時は必ずつけなくてはいけない決まりです。ただ、一応生徒会役員と風紀委員にはそれぞれ専用の制服が何パターンかあります。私服の人も多いですがね。




