一幕:現実逃避とファイユ家の朝(演者・・・トール•ファイユ)
トール・ファイユ
準主人公。ファイユ家の四男。常時、敬語で話す。
上を見上げれば……雲一つ無い空。そして、自分が壊した結界が広がっております。さらには、1対の少々気に障る視線と2対の呆れた様な視線、そして、1対の殺意の篭った……いえ、一羽のフェニックスの視線が寄せられておりますね。……さて、いかが致しましょうか。そもそもの元凶は、やはり、何と言うか、あの野郎、いえ、あの方で御座いましたね。あれは、およそ2ヶ月前、家でのことでした。はぁ、少々現実逃避となっておりますね。
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カタッと、常人では聞き取れないレベルの音がし、意識が覚醒致しました。どうせあの人ですねと、さっさと光よを無詠唱で施行します。さらに、気配の方へ蹴りを放ちます。確実に当たりましたし、常人なら生命の危機となる強さで放ちました。……この程度でお亡くなりになられると、非常に嬉しいのですが、やはり変態らしく、生命力は高いのです。そして、残念ながら実力も高いのです。
「ト・ォ・ルくーん♡ 会いたかった〜♥」
「そうでございますか、クロウ兄上。自分は非常に会いたくは無かったのですが」
「も・お! トール君ったらい・け・ず♡ 恥ずかしがり屋さん何だから☆ お兄ちゃんとしては、もっと弟とのスキンシップをしたいのに。はっ、もしやこれが噂の反抗期!?」
正直、朝っぱらからテメェの顔なんぞ見たくねえ、ゲフンゲフン、いえ、早々にお引き取りいただき、ついでに事故にでもあってくださると嬉しいのですが。自分の3人の兄の内、変態度はmax、常識度は最低ですし。
そう、残念ながらこの方が自分の一つ上の兄、幻術においては世界最高レベルの天才、クロウ兄上です。実態は弟の自分とヨシュアへのブラコンをこじらせた変態です。断言しましょう。一億くらい賭けてもいいです。
「はぁ。で、用件はお有りでしょうか。もちろんお有りではあると思うのですが」
流石にこれで何も無いと言われると、殺意がとめどなく湧いて来るのですが。
「あ、えっとねぇ。私の推薦のぉ、お仕事だと思うんだけどぉ、お父様がお呼びよ♡」
もっとさっさと言・え・よ、いえ、この方はもはやどうしようもないですね。
「お願いですから次からは、もう少し早く用件をおっしゃってくださるようお願い致しますね」
言っても無駄でしょうが、一応申しておきますよ。
「テヘペロ♥」
気持ち悪いですね。破壊力抜群です。
「たいへん気持ち悪う仕草でございますよ、兄上」
「そんな酷い事を言うだなんて。ト、トール君のバカァ! うぇえーん」
子供ですか、全く。泣いて部屋を飛び出すだなんて。しかし流石世界有数の暗殺者、かなりのダメージを残していきました。…主に気持ち悪さの面で。
わざわざ速度を落として走ったということは追いかけて欲しいんでしょうが、生憎暇ではありませんので無視して構わないでしょう。父上の所へ行くとしましょう。
「失礼致します。お呼びとのことで参りました」
父上の部屋……やはりいつでも緊張致しますね。次郎、というお名前で、日本人(自己申告)、そしてクロウ兄上と同じ黒髪を持っていらっしゃいます。が、実際どうなのでしょうか。かの『幻影』との名を馳せし御方なのですから。何者もその素顔を見たことがないという変装の名人。また、幻術や精神操作によって誰も会った事さえ忘れるという。息子とはいえ本当の情報を開示しているかは怪しいですね。
「仕事だ」
その言葉とともに資料を渡されました。また、殺しでしょうか。それとも……あのクロウ兄上の推薦なのですから、変なのかもしれませんね。前に執事養成学校なんて通わされましたから。
パララララと速読をすると、どうも『私立凰璃学園』という日本の学校に通えという仕事ですね。理由は、『予言』ですか。まあ、覚えたので燃やしておきましょう。
「神殿の予言だ。『日の丸の国にて、巫女、誕生しけり。』時期的にお前と同年代、誤差は一年程度だろう」
神殿ですか。それならば正当性は高いですね。そして、だから自分にお鉢が回ってきたわけですか。クロウ兄上にしてはまともすぎる理由でしたね。しかし……
「巫女というのはなにか脅威となるのですか?」
「世界を滅ぼすかもしれぬし、救うかもしれぬ。ただ言えるのは世界の鍵であり、大いなる力を持っているということだ」
とりあえず自分のすべきことは、『巫女』を発見してファイユ家の脅威とならぬ様にすることですね。トール・ブリューゲルとしてせいぜい頑張って動くようにしましょう。はて?
「本名で潜入するのですか?」
「ああ、日本の『陰陽師』と呼ばれる魔法使いは、その力が強ければ相手の真名を見抜く。偽名の方が疑われるだろう。真名で呪いをかけるらしいが……まあ、お前にダメージを与えられるレベルの奴は、容易に真名を見抜くだろうしな」
つまりは、自分を越す陰陽師もいるというのですね。そしてそこで成長してこいと、そういう事なのでしょう。
「他の世界の奴らもいる。くれぐれも気を抜かぬよう」
「御意に」
どうせ学園に通うならば……全てを貪欲に吸収して、力をつけなくてはならないでしょう。出来損ないの人形のままでは駄目なのですから……
「トール君」
外へ出るとクロウ兄上がいらっしゃいました。まじめモードなのできちんと聞きましょう。
「日本で最上位の家系。土御門家の本家の長女、土御門瑞稀が同学年だ。巫女が惹かれるとしたら1番可能性が高い。接触しておけ」
「はい、了解しました」
土御門瑞稀、ですか。クロウ兄上の口ぶりからすると巫女の可能性はほぼなしということなのでしょうが。……データが欲しいですね。
「絶対に入りそうなのは情報をまとめている」
「ありがとうございます」
紙を渡されました。いつもこの状態だったら尊敬する兄なのに、残念ですね。多分、そろそろ……
「長期の仕事になるから、寂しい〜。それに、レスクヴァ達が居なくて大丈夫? うー、心配だなあ。あ、もちろん大好きだよ、トール君♡」
戻ってしまいましたね。どうせなら一生戻らなければよかったのに、と思ってしまうのは仕方ないことでしょう。
「あ、どういえば母さん居なくて良かったね☆ 過保護だもんね、トール君に。絶対、いたら反対してたよ」
正直、幼少期に共に過ごせなかっただけだと思いますがね。まあ、母上は兄弟全員に過保護ですが。とくに一緒に居れる期間が短かったため、そばにいてあげないといけない、ということを思われただけでしょう。しかし……自分の長期任務に反対するであろう母上が今日、たまたまいらっしゃらないとは……
「それも計算ですか?」
「さあね☆ 寂しいけどバイバイ、愛しのトール君♥」
すぐに話を変えるのは怪しいですが。まあ、いいでしょう。もうしばらくは会わないでしょうし。
「はぁ、さようなら」
……レポートを読んでおきましょう。




