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遭遇編

久しぶりに書いてみました。

ある日曜日の夜。

日課のザ○エさんを見ながら、掃除中に発見した中学時代のアルバムを見ていると、何かムラムラしてしまった。

しかも何故か中2の時に好きだった子の写真を見て……ではなく、その隣のブスを見てムラっときてしまったのだ。

このままだとハナ○ワさんのパパに似ている彼女でエキサイトして、その後かつてないレベルで死にたくなると判断したので、煩悩を発散する為外を散歩することにした。


2,30分ほど散歩していから、近所のコンビニでエロ本を買って、さて家に帰るかというところで謎の現象に遭遇した(誤解ないように説明するが、ムラムラしていたから買ってのではない。俺は自身の覚悟と制約の仕様上、1日1回は必ずエロ本を買わなければならないのだ。本当だよ)

謎の現象――バチバチと電流的なものを発する発光体。


「でんじろう先生に報告するか……。餅は餅屋、プラズマはでんじろう先生だもんな」


発光体を冷静に観察していると、電流が一際大きく輝き、次いで発光体の中から、人間らしき物が現れた。

俺はこの光景を知っている! 映画で見た!

この光景は間違いなくイカ……ではなくタイムトラベル。

目の前でタイムトラベル的現象が起こっている。


思わず衝動的にツイートしそうになったが、そもそもツイッターしてないし、何だか不評な気がするのでやめた。

誰に対して不評なのか分からないが、やめた方がいいと俺のゴーストが囁いているので、素直に従っておこう。


しかし、未来人がタイムトラベルしてくる瞬間に立ち会えるなんて……感動だ。

しかも未来人、恐らくかなりの美少女と見た。

背中を向けて例のポーズ(シュワちゃんのアレ)をとっている為、顔は見えないが……あのまろやかな尻だ。

あのヒップリ(尻っぷりのおしゃれな言い方)、美少女でなければなんだろう。あのヒップリで美少女じゃなかったら、俺はヤツを詐欺罪で訴えそして勝つ。


「しかし何ていい尻だ……」


思わず感嘆のため息と共に声に出してしまう。

第一声がこれってどうなんだろう……ていうか何に対しての第一声か分からんけど。


まあ、いいか。とにかく未来人だ。

未知との遭遇、素晴らしいじゃないか。俺、ファンタジー系ヒロインと遭遇する時は落下系ヒロインって決めてたけど、未来形ヒロインも悪くない。

多分、流れ的に俺ん家に居候したりするんだろうな。あ、やべえ、押入れのエロ本隠さなきゃ。


俺が彼女のドラちゃん的スペースについて思いを馳せていると、件の彼女が重々しい動きで立ち上がった。

既にプラズマ発光体は消失している。

彼女は深く、息を吐いた後、言葉を紡いだ。


「――成功、ですね」


彼女の声を聞き、俺は安心した。

彼女の声はとても清らかで、心地良いものだった。仮に街を歩いている時に「絵画に興味はありませんか?」なんて囁かれたら、のこのこ付いて行って2、3枚はお買い上げしちゃうだろう……そんな惚れ惚れしてしまう声だった。

間違っても、富田○生だったり、野○雅子だったり、大山の○代だったり、水○わさびの様な声ではなかった。


彼女はその可愛らしい声で紡いだ言葉を続けた。


「体調は、問題ないですね。うん、大丈夫です」


彼女は確認するかのように何度も頷いた。

それから、大きく、大きく深呼吸をした。


「――ふぅ。これが21世紀の空気。とても澄んでいて、そしてそれでいて、そう、なんていうか、なんだこれ……すっぱくて吐きそう」


それはね、君のすぐ隣に吐瀉物があるからだよ。

しょうがないね。ここサラリーマン達の帰り道で、現在時刻22時だからね。いい感じに酔っ払ったパパが吐瀉っちゃったんだと思うよ。

肩に手を当て、優しい声で彼女に言ってあげたかったが、吐瀉物に近づきたくなかったから、自重した。

何よりファーストコンタクトが吐瀉系の話題ってどうかと思う。


「う、うーん。思っていたのと違います……。と、とにかく私は過去にやってくることができました! やったね! まず最初にやることは……お腹が減ったからご飯!」

「そこは服じゃね?」

「だ、誰!?」

「あ、やべ」


衣食住の食を最初に持ってきてしまった腹ペ娘に、思わずツッコミを入れてしまった。

彼女がこちらを振り向いたことで、キュートなヒップが見えなくなってしまった。

代わりに彼女の顔と胸が目に入ったが、正直胸には興味はないからどうでもいい。顔は予想通り可愛かった。よく分からないが、外国系の整っている顔立ちだ。年齢は分からないが、結構幼く見える。

街で見かけたら100人中99人が声をかけるか、後をつけて家を確認するレベルだと思う(後の一人はホモ)

こちらに背を向けていた時も驚いたが、腰まである長い髪の毛の色はなんと、青だった。すっごい未来っぽい。


ひと通り彼女の前面を観察しつつ、この状況はマズイ気がしてきた。

なにぜ相手は未来人。恐らくは未来から来たことはトップシークレットのはず。そして俺はバッチリ彼女がタイムトラベる瞬間を目撃してしまった。

ここで相手が取るであろう選択肢はどれか?


①「ドーモ、カコニンゲン=サン。秘密を知られたからには、消えてもらう!」と凄まじいワザマエのミライジツでナムアミダブツ!されてしまう。コワイ!


②「おっと秘密を知ってしまいましたね。だったらしょうがありません。未来の掟で秘密を知った相手とは結婚しなければありません。掟ですからね」って感じ。……掟ってスゴイ。


③「秘密を知った上に、裸まで! カコニンゲンさん! 結婚ですよ! 結婚!」人生の墓場行き確実。現実は非情である。


④「ふーん、あんたがカコニンゲン? まあ、悪くないかな」なんだかんでで結婚する。


はい、こんな選択肢が俺の脳内PCであるウィン子ちゃん(くれぐれもィを抜かないように)が弾きだしたわけですけども。

果たして、この中のどの選択肢が選ばれるのか。


「み、見られた!? お、落ち着くんですよ私! こういう時の対処法も学んでいたでしょ! こ、こういう時は――記憶を消させてもらいます!」

「結婚は!?」

「意味不明なこと言わないで下さい! 悪いですがあなたの記憶を消させていただきます!」

「お、俺何も見てないですよ」

「確かに私が未来から過去にタイムスリップをしてきた瞬間は見ていないかもしれません」


言っちゃってるじゃん。バラしちゃってるやん。


「ですが、疑わしきは罰せよ、です! 安心して下さい。せいぜい10分前から18年の間の記憶が消えるだけです」

「全然安心できないんだけど。効果不安定過ぎね?」


俺、最悪赤ちゃんになっちゃうわけですけども。


彼女は俺に向かって右手で拳銃の形を作り、それを向けてきた。

未来では、人差し指から銃弾を発射する技術が発明されているらしい。

暗殺とか超楽だな。ただ、それで射ち合ってるところ想像したら、スゴイ間抜けっぽい。マフィアの抗争とか見たい。


「往生してください!」


彼女がエアガン(モデルガンではない)の引き金を引いた。1度、2度、3度。

彼女の人差し指から、3発の銃声が――聞こえることはなかった。

人差し指からは、銃弾が出るどころか、癒し系の光(映画ネタ)が出ることもなかった。


「え? な、なんで……ってあれ? 私の愛銃【Blue Tanuki】がない!? 記憶消失ビームだけでなく、散弾、追尾ミサイル、陰陽弾、レールガンなどの各種兵器として使えるだけでなく、お財布代わりにも使え、カーナビ機能も付いてマッサージ機能などなどその他28種の機能がついた拳銃型万能ツール【Blue Tanuki】が――ない!?」


BlueTanuki? 直訳すると青い狸か……。


「ど、どこ!? どこに――って、私全裸じゃないですかぁ!? ナ、ナンデ!? ゼンラナンデ!?」


少女は懐を探ろうと自分の体をまさぐり、今更気づいたかのように叫んだ。

そして、真っ赤にした顔で俺の方に詰め寄ってきた。


「何で私裸なんですか!? ふ、服は!? 服はどこにいったんですか!?」

「服は服屋、かな?」

「そんなことわざみたいな答えを聞きたいんじゃないですよ! わ、私の服をどこにやったんですかぁ! 返してください! 返してくださいよ!」


両手でMP(見えちゃいけないポイント)を隠す少女。俺そっちには興味ないし、尻の方がHPエッチなポイントだから、尻の方を隠していただきたい。


「返して下さい! お、お願いですから! 返してくださいよぉ!」


涙目で叫ぶ少女。あ、これってやばくね?

仮にこの状況誰かに見られたら……条例に反しちゃう感じじゃね? つーか確実に俺が捕まる。

プレイです、と言い張って助かる可能性もあるにはあるが、目の前の少女の年齢がネックだ。まず成人はしてないだろう。


「ちょ、ちょっと落ち着いてくれ。まずは俺の話を聞いてくれ」

「聞いたら服を返してくれるんですか?」

「うん、それ無理」


だって最初から着てなかったし。

俺がそう言ったら、やっこさんまた泣き出した。

俺はお手上げ状態で、ため息を吐いた。

そうこうしてたら、自転車に乗ったマッポ(警官)が通りがかって人生終わったと思ったけど、たまたま知り合いだったからワイロ(エロ本)渡してなんとかなった。なってないねこれ。



■■■




「私、本当に服着てなかったんですか?」

「だからそう言ってるだろ」


ジトっとした目を向けてくる少女は、今俺のシャツを着ている。

ちなみに雷ちゃんがプリントされた俺の手作りTシャツだ。これを着て艦これをやってると、不思議と集中力が高まるんだ。

今は夏で、俺はシャツ1枚しか着てなかったから、俺の今の状態は上半身裸ということになる。

少女は俺のシャツしか着てないから、下は何も履いてない。まあオアイコってやつだ。


「タイムトラベルした直後で意識が朦朧としていた私の服を剥ぎとった可能性も……」

「ここ修羅の国とかじゃねーから。意識が朦朧としてても他人の服とか奪わないから」

「そ、そうですか……」

「未来どんなだよ」


さすが未来人。俺たちと価値観が違う。


「って、私が未来から来たこと何で知ってるんですか!? まさか追手!?」


スチャっとエアガンを構えてくる少女。


「いや、さっきから自分で言ってるじゃん」

「で、でも普通は信じませんよね? 普通は『未来から来たとか、この子の頭チョベリバ~』とか思うんじゃ……」

「過去リサーチ甘くね?」


いつの言葉だよ。


「ほら、俺ってあれじゃん。BTTFめっちゃ好きじゃん?」

「いや、知りませんけど。でも、私もアレ大好きなんですよ!」

「え、マジで!?」


まさかの趣味一致。ここに来て意気投合。

どうやらかなりBTTFバック・トゥ・ザ・フューチャーのことだよのファンらしく、1000回近く観ている俺と話が盛り上がった。

具体的に言うと40分近く、話し込んでしまった。


「いや、まさか未来人にここまでのファンがいるとは」

「私も、まさか最初に出会った人がここまでのファンとは」


人生とは不思議なものだ。


「ここだけの話、私がタイムトラベルに挑戦しようと思ったのって、BTTFを見たからなんですよ!」

「マジで!? 俺もそうなんだ!」

「え、そうなんですか!? あなたもそうだったってあなたタイムトラベラーじゃないですよね!? 何言ってるんですか!?」

「ごめん。つい」


タイムトラベラーな少女が羨ましくて、すぐバレる嘘を吐いてしまった。本当にすぐバレた。


「――くしゅんっ」


夏とはいっても、時間が遅い。長く話し込んだせいか、少女の体はすっかり冷えきってしまったようだ。


「大丈夫か?」

「え、ええ大丈夫です、体は丈夫ですから」

「そうか。そりゃタイムトラベルするくらいだもんな。ま、俺も明日学校だし、そろそろ帰るわ」

「あ、はい。長く付きあわせてしまって、すいませんでした」

「おう、じゃあな」

「はい!」


最初の出会いは最悪だったが、BTTFのおかげで少女と俺の仲は一瞬でマブダチレベルになっていた。

最初からは考えられない、笑顔で手を振る少女。

俺はそんな少女に背を向け、家路へと着いた。

俺は忘れない。タイムトラベラーと出会ったこの夜を。

BTTFについて語り合った夜を。



ありがとうBTTF。ありがとうドク。ありがとうマーティ。ありがとうデロリアン。






おしまい。




■■■



マイアパートに着くと、先ほどの未来少女がいた。

ちゃぶ台の前の座布団に正座してた。


「うお!? なにしてんだよ!?」

「『なにしてんだ!?』じゃないですよ! なに普通に帰っちゃってるんですか!? 何で普通に帰っちゃてるんですか!? そして私はなに普通に見送ちゃってるんですか!?」

「いや、知らんけど」

「私も知らないですよ! タイムトラベルして『ここでは誰も私を知らない。孤独な戦い――始まり』的な葛藤があったのに、まさかあなたと会って普通に仲のいい友だちのノリで話して『あー、楽しかった。あっ、電話番号聞いとけばよかった……ううん、大丈夫。また会える気がする。ふふっ、帰ろっと』みたいな安らぎを得ちゃったじゃないですか!」

「お、おう」


バンバンとちゃぶ台を叩きつつ、そんなことを言う少女。

怖い。


「ひ・み・つを! 秘密を知られたらダメなんですよ! 未来人ってことバレたらダメなんですよ! 記憶消さなきゃいけないんですよ! 何で普通に帰らせちゃってるんですか私は!」

「そんなに自分を責めるなよ。あとちゃぶ台も」

「ご・め・ん・ね!」


叩く対象をちゃぶ台から、自分の太ももに切り替えた少女。4発目で既に真っ白だった太ももが真っ赤になっている。


「というわけで、記憶を消す為に追って来ました。速やかに記憶を消して下さい」

「いや、そんなメモリーカードとかじゃないんだからさ。って誰の記憶が15ブロックやねん!」

「あなたさっきから思ってましたけど、ちょっと変じゃないですか!?」


未来人に変って言われたぞ、おい。


「で、でもどうすればいいんですか。記憶消去するツールも失くしちゃったし、こうなったらこの拳で頭を殴れば……いくら私の力が弱くても、20発は殴れば……なんとか」

「18発にしてくれ」

「な、何でですか?」

「俺、今年で18歳になるんだ」

「節分じゃないんですよっ!? やっぱりあなた変! 変な人! も、もしかしてこの時代の人ってみんなこんなんなんですか!?」

「こんなんって」


未来人にこんなんって言われたぞ、おい。


「ちょっと聞きたいんだけどさ」

「ま、また変なこと言うんですか!?」


警戒心与えちゃったかな?


「秘密とか記憶消すとかさ、まあ分かる。タイムトラベル物の映画とかでもお約束だからな。でさ、具体的にどうヤバイんだ? 君が罰せられたり、命に関わったりするのか?」

「それは……ヤバイんですよ。だから、こう……アレですよ」


ん? 妙な反応だな。


「えっと、あれ? 秘密が、バレると……ん?」

「君が所属してる組織に処分される、とか?」

「組織! そう組織! 組織、組織……組織ってどういう?」

「いや、俺が聞いてるんだけど。普通タイムトラベルするヤツって組織に属してて、組織に何らかの指令を受けてたり……するんじゃね? いや、イメージだけど」


もしかしたら個人でタイムトラベルをしてきたかもしれないが、いくら未来でもそこまでタイムトラベルがお手軽になっているとは思えない。

そもそも少女の目的が分からない。

聞いても答えてくれるとは思えないが。


「えっと、えっと……私の名前は……ナズナ、です」

「どうも初めまして。キアヌ・秀一です」

「それ絶対ウソですよね!?」

「嘘じゃないよ。キアヌ人と日本人のハーフなんだよ。つーか、何でこのタイミングで自己紹介?」

「ち、違います。整理してるだけです。私はナズナ、タイムトラベラーで、この時代にやってきました。家族は……父母姉の4人、ペットのみーちゃん」

「父、母、妹、ペットのペンちゃんの5人家族だ。今俺は一人暮らししてる。一人暮らしのシュウイッティって呼んでもいいよ?」

「呼びません、ていうかペットも数に入れてる……」


どうやら未来ではペットを家族の人数に入れないらしい。

ん? 隣に住んでたオバちゃんもペットを勘定に入れてなかったな……まさか、あのオバちゃん……。


「別に未来人だからとか関係なくてペットに対する考え方の違いだと思いますよ!?」

「いきなり何ですか!? ほんとに何ですか!?」


モノローグに対してセルフでツッコミを入れたら、律儀にツッコミ返してくれた。

いい未来人だ。


「さっきから律儀に自己紹介し返さなくていいんですっ。私が記憶を整理してるだけですからっ」

「記憶を整理?」

「そうです。……ただ混乱してるだけです。落ち着いてゆっくりと整理すれば思い出すはず。私はタイムトラベラー、目的は……目的……指令、指令? タイムトラベラー養成学校を卒業して……タイムトラベルを……どうやって?」


最初、額に手を当てて考え込んでいたナズナだが、今はちゃぶ台に突っ伏して顔をうずめている。

教室での俺のスタイルと一緒だ。あのスタイルを取ると、不思議と頭がクリアになるんだ。代償としてクラスの雑談が嫌でも耳に入ってくるんだが。


「組織、そう組織に入って……組織……でしたっけ? あの、私、組織に入ってたんでしたっけ?」

「それ俺に聞いちゃう? あのさ。言っていい?」

「……だ、だめです」


ナズナはうつむいたまま答えた。


「このままじゃ埒があかないだろうし。言うぞ?」

「だ、だめですっ。いっちゃだめですっ」

「出すぞっ、あ、いや何でもないです……」


ナズナのセリフに思わずシモで返してしまいそうになったが、あまりシモに走ると妹に怒られるので自重した。

それでは改めて。


「忘れた」

「うっ」

「記憶喪失」

「ううっ」

「タイムトラベルの目的」

「うううっ」

「どうやってタイムトラベルしたか」

「ううううううっっ!」


効いてる効いてる。実際俺が言葉を発する度にナズナは体をビクリと震わせ、今は床に突っ伏している。

よしトドメだ。


「あなたはどうやってタイムトラベルしたか、その目的、それらを記憶喪失で忘れている!」

「ぐあぁー!」

「全部忘れている!」

「はいぃぃぃー!」

「住む場所とかどうすんの!」

「分かりませぇぇぇーん!」

「潜伏先とか決まってたんじゃね!?」

「だと思いますけど、さっぱり覚えてないですぅぅぅぅ!」

「目的って過去改変!? いい改変!? 悪い改変!?」

「分かりませぇぇん! できればいい感じの改変がいいですぅぅぅぅ! バタフライエフェクトみたいなぁぁぁぁ!」

「そうかぁぁぁぁぁ!」

「はいぃぃぃぃぃ!」

「彼氏とかいた?」

「小学生の時に告白されて1週間付き合いましたけど、何か違うと思って別れました! それ以来ご無沙汰ですぅぅ!」

「好きな男のタイプは?」

「そこそこ顔がよくて趣味が合う人ですぅぅぅ!」

「金は?」

「私結構稼いでるはずなんで、そこはいいです」

「初オ……んんっ。自分の体の部位で好きなところは?」

「何でもかんでも答えると思ってたら大間違いですよ」

「……」

「……」


ナズナは正座状態に戻った。

しばし二人の間に無言の空気が漂った。

コホンと互いに咳払い。


「で、どうすんの?」

「はい。ええ。まあ……はい」

「タイムトラベラーで未来人で記憶喪失、そして住所不定無職無収入な君はどうするのかね?」

「死んだ方がいいですかね?」

「死ぬとか言うな! 君を過去に送り出してくれた人達の思いを無駄にするのか!? いるのか分からんけど!」

「はい、すいません! いるのかわかりませんけど、ごめんなさい!」


さてさて。

俺は靴を脱ぎ(ずっと玄関にいた)、ナズナの前を通り過ぎ、押入れに向かった。押入れの中を覗きこむ。

大量のエロ本があった。あったのだ。

俺は考える。そしてナズナを見る。


「……?」


今まで俺のそばにいてくれたエロ本たち。小遣いを貯めて、1冊1冊宝物のように集めたエロ本達。

ナズナを見る。

エロ本達は俺にとって人生の教科書そのものだった。が、ナズナ、少女にとってはどうだ。無垢な少女。

ナズナを見る。

人生の教科書、知識を与えてくれたもの。だが知識は人によって毒にもなる。この中にある本は、それこそ教科書レベルに優しい物もあるが、俺が年を経ることによって変化(進化)した性癖によりかなりえげつな、もとい濃度の高い物が混じっている。

ナズナを見る。

下手に処女が見れば妊娠してしまうような濃いものも、ある。あるのだ。

ナズナを見る。

部屋のどこかに隠せばいいというものではない。部屋にあるということは、何かの拍子に見つかってしまう可能性があるということだ。

ナズナを見る。

実家に預ける、ノー。中学生の時分に集めたエロ本の数々が妹にOSD(汚物は消毒だー)されたのを忘れたか?

ナズナを見る。

……。

ナズナを見る。

孤独な少女、世界で彼女のことを知るものは誰も居ない、住む場所もない。

エロ本達を――見た。


『いいよ』


そう言っていた。当然幻聴であり、俺の都合のいい妄想であった。だが、確かに聞こえたのだ。

俺は、ナズナを選んだ。


「――さよなら」

「あ、はい。出ていきます……その辺で野垂れ死んで来ます、はい……」

「いや、そうじゃない」


死んだ様な目で出ていこうとするナズナを引き止め、一度部屋の外へ出てもらった。

そしてゴミ袋を手に取り、押入れの中身を詰めようとして……思いとどまり、本を重ねて紐で縛った。丹念に。丁寧に。1冊1冊別れを告げて。

そうして縛り上げたそれらを中学生の通学路に置いた。


「いい人達に拾われるんだよ」

「わ、わたしここで誰かに拾われればいいんですか?」

「違う、そうじゃない」


子犬の様な目で震えるナズナを引き連れ、エロ本に背を向けた。

これで良かった。よかったんだ。


帰り道、後ろを歩くナズナに服を引かれた。


「あ、あの……それで、私はどうすれば?」

「ウチ来れば?」

「……いいんですか?」

「だって行くところないんだろ? 警察とか行っても……」

「あー、年齢が年齢ですから……施設、とかになるんですかね」

「よく分からんけどそうじゃね」


身元不明の未成年がこの日本にどれだけいるか分からないが、恐らくはそうなるのだろう。


「……ほ、本当にいいんですか? あの、漫画とかじゃ結構気軽に居候とかさせてますけど、実際大変だと思いますよ? 私便利なポケットとかないですし」

「本当に未来人かと思うほど例えが俗っぽいな」

「は、すいません」

「いいよ、別に。服とかは……妹に持ってきてもらうか。食費も……まあ何とかなるわ」


服に関して、妹になんて頼めばいいのだろうか。


『居候できたから服貸してたもれ』→『……(無言で膝に包丁を突き刺す)』


こうなるな。絶対膝に刺してくるわ。冒険者できなくなるやつだわ。

じゃあこうか。


『女装に目覚めた。服貸して』→『……(笑顔で下着からお気に入りの服をダンボール箱4つほど渡してくる)』


これだな、うん。これしかねーわ。

女装に目覚めた兄ってレッテルを貼られるけど、そこは仕方ない。恐らくは写メを定期的に要求されるだろうが、仕方ない。うん、仕方ない。

ほんと世の中仕方ないことだらけだわ。


「か、家事とか頑張ります……うん。料理得意だし、えへへ」

「じゃあ頼むわ」

「バイオヌゥメェコとか上手ですよ」

「なにそれ。なにそれそれ」

「カトゥアイケェブルも2回に1回の確率で作れちゃいますっ」

「固いケーブル? え? 工業製品? 料理の話だよな?」

「ですけど」

「だよな……よかった」

「あ、調味料とかあります? ラリパッパとか結構使うんですけど……」

「ラ、ラリッ……かくせ、いや、ちょっとご時世的に無理かな」

「そうですか……」


残念です、と言いながら歳相応の笑みを浮かべるナズナ。

未来の料理とは一体……一抹の不安とそれ以上に期待を胸に抱きつつ、俺達はアパートに帰った。


その日から、記憶喪失の未来人ポケットなしとの生活が始まったのだった。

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